透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
306 / 2,079
7の扉 グロッシュラー

しおりを挟む

薄明かりを感じる。

朝だろうか。


ゆっくりと目を開けると、窓から差し込む光が美しく空間を過ぎる。

窓の側の小さなベッド。
その窓からは雲しか見えず、それもいつもの光景だ。
なんとなく、それを眺めて物音で起き出す。

いつまでもベッドに入っていると、叱られる。
習慣でパッと起き、着替えをした。



質素な朝食後は再び小さな屋根裏へ帰る。

そう、私の部屋はここ、小さな三角の狭い屋根裏。
記憶の限り、この部屋と食堂以外は頭の中には存在しない。

起きて、眺めて、食べて、寝て、起きて食べてまた、寝る。

明るくなったらとりあえず身体を起こしておいて、暗い時は寝転がっていればいい。


 「お前は、とっておきだから。」

そう、いつもおばさんが言うけれどこのまま取っておかれたら私も姉さんやおばさんになるのだろうか。
ずっと、この部屋で。

ただ、毎日雲を眺めるだけ。

それだけで。








 「やっとお前の使い道が決まったよ。これまでとっておいた甲斐があったもんだ。」

そう、おばさんが嬉しそうに言ったのはいつだったか。

それから少しして、一人の人が部屋に来るようになった。
この、狭い部屋に。

私は何も、言わなかった。
その人も、何も言わなかったし何を言えばいいのか分からなかったからだ。

そうしてその人は時々この屋根裏へ来る様になった。

何も話さないし、何をするわけでも無い。

でもおばさんの機嫌が良かったから、それはどうでも良かった。
私の食事も、少し豪華になったし。


そうしているうちに、私はその人に少し慣れて、その人を見る事が出来る様になっていた。

白っぽい金の髪に金の瞳のその人は、見ている分には飽きなかった。

そう、彼は私に似ていた。

おばさんの話から、彼が「男の人」だと気が付いたのは大分後になってからだ。
私は「男の人」を見たことが無かったし、その人は言われなければ判らない程度には女の人に見えたから。

長い髪、背は高いけれどおばさんよりは横に大きくない。
背が高いお姉さんかと思っていた。新しい、人なのかと。

おばさんが私に話し相手でも、と気まぐれでも起こしたのかと思っていたけど当たらずとも遠からず、ただその人が「男の人」だったと、いう事だ。

その時は、そう思っていた。







彼はいつも、何かを私に持ってきてくれた。

初めは本だ。

流石に本だけは与えられていた私は、嬉しかった。
部屋から出られない私は、館にある本は全て読んでしまっていたからだ。

ただ、無言でズイと机に置かれたその本をどうしていいのか分からなかった私は、そのままにしておいた。
彼が帰ってから、その本がまだそこに置かれている事に気がついて「そうなのか」と気が付いたのだ。
おばさんは「本じゃなくてもっといいものを強請りなさい」と言っていたけど。

本の次は、筆や便箋、綺麗なカード、不思議な小さな細工物。
どれも私の好きな本に出てくる不思議なものに見えて、見る度に顔が緩むのを知られていただろうか。
隠していた、つもりだけれど。


彼が持ってきてくれるものは、どれも私好みでおばさんは変な顔をしていたけれど私は嬉しかった。

やっと彼の顔が見れる様になり、顔を見るのに慣れてきて、とうとう口を開いて最初に出たのは本のお礼だった。
ずっと、言わなければいけないとは、思っていた。

けれども、私にとっての「言葉」とはそう簡単に発せられるものではなかった。

おばさんには「出来るだけ喋るな」「変なことを言うと来なくなるかもしれないよ」と、そう言われていたからだ。


そう、お礼を言える頃には。

私は、彼の来訪を心待ちにしていたのだ。







「今日は、来ないのかな。」

屋根裏から、雲を眺める。

何かを探して窓の外を見る事なんて、無かった。

ただ、ただ流れてゆく白い雲、何も無い世界。
青い空を見たことがあると思ったのは、本の世界だったのか。
それとも私の夢の中か。

毎日目が覚める度に、空が白い事に違和感を覚えていたのは、何故だったか。

彼が来るようになってから、何故だか思い出される青い、空。

それが恋しくなると共に、彼に会いたくなるのは何故だろうか。
白と、金色で彩られた彼に青の要素は無いというのに。

もっと、話してみたら。
触れて、みれば。


その答えが、分かるのだろうか。



いつか。

彼と青い空が見れるだろうか。










そうして私の生活の中に、「彼を待つ時間」が加わった。

「彼に会う時間」ではなく、「彼を待つ時間」なのは、その時間の方が圧倒的に長いからだ。

それに比べれば、「彼に会う時間」など瞬き程の瞬間でしか、なかった。


ただただ過ぎてゆく時間、想いだけが、募って。

少しだけ、少しずつ交わした言葉から彼も思っている事が知れる。


私達が「もっと」と求め合うのに、そう時間は掛からなかった。

そう、それは必然の様に、感じられたのだ。




思えばそれも。

全ては彼等の思惑の内だったかも、しれないけれど。



それでも、良かった。

それ程には、私達はお互い、一人きりだったからだ。

そう、出会う、前までは。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...