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7の扉 グロッシュラー
青の家の役割
しおりを挟む「あなたまた、とんでもない事をやりましたね?」
「えっ?」
図書室の、ラガシュの空間。
いつもの落ち着く灯りの中、待っていた様にいつもの場所に座っていた彼は、私達二人をすんなりと迎え入れ、そこに座らせた。
とは言っても、気焔は私の背後に立っているけれど。
そう、ここは狭いラガシュのスペースだ。
これから、「禁書室へ移動するかも」と思っていた私の思惑は外れて、このままここで話を始めるらしいラガシュ。
もしかしたら。
青の家の話だから、他の家にあまり聞かれたくないのかも、しれない。
確かに初めに話した時も、かなり秘密の雰囲気が漂っていた青の家の話。
「誰にも言わずに」と言っていた、彼の言葉が思い出される。
その時から比べると、大分味方は増えた、気がするのだけど。
彼的には、どうなのだろうか。
何から話そうかとぐるぐるしながらラガシュを見ていた私は、相変わらずテキパキと本を片付ける彼の動きに感心していた。
きっと私達が来るまでにやっていたであろう、作業の片付けをしている彼は私が話し始めるのを待っているのだろうか。
さて、それなら何から訊いたら、一番いいか。
そう私が本格的に、悩み始めた所でその言葉が出てきたので、ある。
「今回の祭祀は来ないと、言っていたのに。「行く」と言われてしまいましたよ。それも、あの人に。」
「あの人?」
「ああ、あの婆さんが来ると最悪だ………いざとなったらそちらへ行こうと思っていたのに…。やはり見れないのか…。」
うん?
ラガシュが恐れる、お婆さん?
なんだか怖そうだな………それは。
急に頭を抱え出したラガシュを見ながら、首を捻っていた私。
それにしても。
他の家は沢山、人が来ている。青の家は、その人しか来ないのだろうか。
それに、気焔の事もある。
ここでは。
彼は、青の家の者になっているけれど。
向こうの人が来ても、大丈夫なのだろうか。
心配になって振り向くと「心配するな」と金の瞳は言っている。
ラガシュと相談して、上手くやってくれるといいのだけど。
くるりと視線を戻すと、もう灰色の瞳は私に向けられじっと、何かを考え込んでいるラガシュ。
えっ、と………?
結局、なんでだっけ?
その、お婆さんが来るのは私の所為って、こと………??
「そうですよ。決まってるじゃないですか。あんな、光を降らせて。」
また、丸っと顔に出ていたのだろう、ラガシュはどうやらアラルエティーとの歌の話にご立腹の様だ。
「え、でも。仕方無いですよ。駄目なんですよ、もう。黙ってたって。なんにも。良くは、ならない。不満があるなら言わなきゃ分からないし、できる事から変えていかないと。ぶっちゃけ、私は青の少女はアラルでいいし、彼女にも。本来、力は備わっている筈だから。」
「そう、なんとかなりますよ。多分。」
目の前で、大きな溜息を吐かれたけれど。
知ったこっちゃない。
私達だって。
言いたいこと、あるよ。
一人フンフンしている私を宥める様に、肩に手が置かれる。
じんわりと染み込んでくる金色に、安心しながらもこれを奪われる、そんな運命は想像できないし、したくもないと、思う。
でも。
それが、普通に行われているのがデヴァイなのだ。
そんなの。
「駄目駄目。…………まだ。落ち着かなきゃ。」
一人、肩からの温かさを感じながらも落ち着こうとしている私を見て何やら再び考え始めたラガシュ。
そうして少し、考えると彼は「もしも、ですよ?」と一つの仮説を話し始めた。
「正直、僕はあなたさえ、いれば。確かにその「青の少女」とやらは、誰でもいいのです。しかし、アリススプリングスの計画ではあの子を代わりにしてあなたを、連れて行く、となっている筈だ。」
「それが、逆になるとすれば。結局、「生贄」になるのはあの子、という事になる。あなたはそれを。許せますか?」
え?
「生贄」?
再び出てきたその、言葉。
それが、何を指しているのか。
そもそもそれが、分からない。
「ラガシュは何を知っているんですか?青の家は、どんな家なの?「生贄」、って何??」
「リン」と再び震える空気と更に守りが硬くなった、雰囲気。
変化したその空間に、これから話が始まる事が、分かって姿勢を変える。
正面の灰色の瞳はあの時、私に跪いた深い色に変化した気がして思わずぐっと近づきそうになる。
この、彼が持つ特別な雰囲気は。
「青の家が持つ役割」と、関係があるのだろう。
そう、私の中には自然にその考えが湧き上がってきて。
この、タイミングで再びこの話になったこと。
「あの時」解らなかった、長とあの子の関係、アラルとの事、他の、みんなが抱える問題、この世界のこと。
色々な、以前見えなかった事が見えてきてこのタイミングで「生贄」の話になって。
それが、本当はどういう事なのか。
沢山の思惑の中に隠された真実は、一体何なのか。
青の家が独立していること。
どこの派閥にも属さないこと。
長が、元々は青の家だということ。
セフィラが引き取られたのが、青の家だと、いうこと。
そうして彼の言っていた「人ではない役目」とは。
「代わり」を見つける、と。
言っていた、その、意味は。
ふと、頭に浮かぶ白の本の冒頭、「この絵に祈りが集まる事で少しでもヴィルが救われます様に」というセフィラの祈り。
ああ、そうなんだ。
自分の中で辻褄が合ってきて、どんどん何かが繋がり出す。
そうして以前、跪き彼が言っていた言葉が、脳裏を過ぎる。
『次の「代わり」が見つからなかったら。しかし「代わり」を見つけた所でそれはまた一時凌ぎだし、その「代わり」にまたその「人ではない」役目を押し付ける重さ。
そして。とうとう現れた「光を灯すもの」の存在。
しかし、それは希望なのか、それともただの「代わり」なのか。
僕たちはその存在に「何を求めるべきなのか」。
「求める事が赦されるのか」。』
そうだ。
ラガシュは迷って、いた。
その、代わりは。
そう、人ではない役目を、する事に、なると。
知って、いたからだ。
「人ではない」役目。
私達は「人」として、生きられないのか。
この、悪しき輪の中から。
抜け出すことは。
できない のか。
灰色の瞳から視線を外し、膝の上、銀糸の美しいローブを見る。
走る、黄色のライン。
今日は、オーロラのスカートだ。
そう、私の中の、色。
この、灰色の世界にだって。
本当は、沢山の色が、眠って、いて。
今はただ、隠れて、隠されて、いて。
それを再び、表に出すこと。
色を蘇らせ、この世界に力を与えること。
あの、揺り籠で、話したこと。
この輪の中から抜け出す、第一歩を踏み出す、こと。
それを、できるか、どうか。
その、答えを。
私は、知っている。
でも。
少しだけ、自分の中の何かが足りなくて胸に手を当てた。
チカラが。
要る。
できる。
知ってる。
わかって、いるんだ。
でも。
居て、くれるなら。
もっと、全力で走れるから。
そっと目を瞑り、伝わる温かさをもう一度味わうと、くるりと振り向いて金の瞳を確認する。
ああ、この美しい、金色。
今日も、昨日も、いつだって、初めから。
それに。
きっと、ずっと、ずっと、これからも。
燃え続けるであろう、その美しい焔を目に映す。
私の、焔。
私の、チカラ。
私の、原動力。
「フフッ。」
あ。変な顔してる。
大丈夫、暴走、しないから。
信用無いなぁ。
うん?自業自得??
止めて?その目は。
私達が目で会話している間に、背後が動いたのが知れる。
ああ、仲間外れはいけない。
彼は、同じく共に、風を起こす者だ。
でも。
私達、二人の間には。
何者も、侵れないから。
うん?
ヤバ。
ちょ
ちょっとその目やめて?
うん、分かった、わかったから。
はいはい、ラガシュが見てますよ?
ねぇ、私が、無理………なんですけど…………。
言葉にできない、その金の瞳の色と焔を頑張って視界から外す。
駄目だ。
どうしたって。
囚われて、しまう。
パチン、と両頬を叩いてくるりと向き直った。
「ごめん、なさい。」
ラガシュの顔。
物っ凄くしょっぱいものを食べた様な表情の彼に、謝る事しか、できない。
うん。
仕方、無い。
未だ張り詰めた空気のまじない空間は、時折「リン」と彼特有の音が鳴って。
しかし、私の意識が変わったのか。
それは、先刻よりも涼やかな音に、聞こえる。
そう、きっと、どうしたってそれは、「事実」で。
「あの場所」と同じで、私が受け止めなければ、いけないことだ。
腐ってたって、泣いたって。
同じ様に、時間が過ぎるなら。
金色を、チャージして少しでも進んだ方がいい。
そう、私には。
最大の、金の、石が。
ついているの、だから。
そうして私は盛大な溜息を吐くラガシュに謝ると、再びその大きく黒い、問題を考えるべく事情聴取を始めたのだった。
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