透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

最終打ち合わせ

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大人達があれこれ話している様子を、少し離れた所から見ていた。


あの、みんなの様子。

以前からここに集まって、話し合いをするのが恒例となっている雰囲気である。
私のいない所でも、色々と根回ししてくれていたのだろう。
今日のメンバーを見ても、それが分かる。



もう、祭祀は明日に迫った。

よっぽどの事が無ければ同じ日に雨が降るという、ここグロッシュラーの天気予測に拠れば、明日が本番だ。

そして今日最終確認の為に禁書室に集まっているのは、ここへ訪れた初めの頃からは想像できないくらいの、人数。


いつものメンバー、この部屋の主とイストリア、ウイントフーク、クテシフォン、ラガシュ。
気焔にベイルート、朝もいる。

そしてブラッドフォード。
今日は、ミストラスもいる。

一応、ここの責任者だしね?

ラガシュと話しているのを見て、「やっぱり仲が良いな」と思いながらも視線を滑らせていく。


意外なところで、レシフェとシュレジエン。
これで全員だ。

禁書室に入った時、シュレジエンの紺の癖毛が目に入り、ちょっと感動してしまった私。

レシフェはなんだかんだ言っても、神殿に出入りがある。

しかし、シュレジエンの扱いがどうなっているのかは知らないが。

これまでならばきっと、あり得なかった事が起きているのだけは、解る。


其々が自分の役割を確認しながら自由に話しているのを見て、思わず顔が緩む。

気焔だけは、じっといつもの場所で私の様子を見ているけれど。
うん。

なんだろ。

心配なのかな?
大丈夫、だよ?


そうこうしていると、「パンパン」と本部長が手を叩いた。

「さあ。各々自分の役割は確認したかと、思うが。何か心配な点や確認事項はあるか?合図としては、向こうの神殿から光が気焔に飛ぶ。それが、始まりの合図だ。」

ウイントフークの呼び掛けにみんなの視線が中央に集まる。
隅に居た私も、なんとなく呼ばれる気がして長椅子の方に歩いて行った。

「光が飛ぶのはいいが、気焔はどうする?吸い込まれるだろう?」

レシフェが問題点を指摘して、再びあれこれ話が始まる。

長椅子に座らせてくれたクテシフォンにお礼を言いつつも私の頭の中も、ぐるぐるし始めた。



扉を出す、許可は貰った。

始めに光が降るのか、扉が出るのか。
でも扉から光が降ると、公言したならば。

先に、扉を出さないと駄目だよね?

でも始めに「みんな」を送ろうと思っているから。
それで、丁度いいだろう。

そうしてみんなを探して扉へ送って………えっと、アラルの方にも扉出すんだっけ?
二つ………どうやって出そう?

赤い石を目掛けて出せば、その辺に出るかな?
そんな行き当たりばったりで大丈夫かなぁ。

「いつもの事でしょ。」

うん、まぁ、いつもそんな感じだけど…。


チラリと隅で寝ている朝に視線を送ると、少しだけしっぽが動いている。

きっと話を聞いているのだろう。
一人でぐるぐるしつつも、朝のツッコミが頭の中に聞こえてきてなんだか可笑しくなってきた。


「ヨル、どうした?大丈夫か?」

私が少し、おかしかったのだろう。
クテシフォンが声を掛けてくれ、みんなの視線が私に集まる。

さっきの話は、終わったのだろうか。

そう思っていたら、ウイントフークにもその点を質問される。

「お前、扉はこっち側に出せるのか?」

「それなんですけど。」

アラルとは、大体話したけど。

最初は「巨大な扉」を出そう、と言っていた私。

しかし流石にこのグロッシュラーを覆う、大きさの扉が出たならば。

「そんなの、怖過ぎてみんなが逃げ惑うわよ。」

そう言われてしまったのである。


まぁ、言われてみれば。

そう、なんだけど。

自分でも想像してみたけれど、相当怖い事になる事に、気が付いたのだ。

そうして結局「なんとかする」と、言っておいたのだけど。


「一応、扉を二つ、出そうと思ってるんですけど。」

「「二つ?!」」

うん?

おかしい??

しかし、驚いているのはクテシフォンとシュレジエン、ミストラスとブラッドフォード。

ウェストファリアは何かをメモしているし、イストリアは楽しそうだ。

レシフェと朝だけは「やれやれ」という顔をしているけれど。

どういう事だ。


「二つなんて、出せるのか?」

事務的に質問するウイントフークに、少し考えつつ答える。
頭に浮かんだことを、そのまま漏らしてみた。

「だって。そもそも、「扉を出す」事自体が、「出るのか出ないのか」的な話じゃないですか。だから、一つなのか、二つなのかは。関係無いと思うんですよね………多分。」

「多分。」

朝が復唱している。

しかしウイントフークは納得した様で、それについてはもう何も言われなかった。
ただ、私が心配だったのでちょっとアラルの事をお願いしたくらいだ。

「そっちの扉に、「みんな」が入るかは、分かんないですけど。光を降らす事はできると思います。それに、なんとなく上から降ればみんな錯覚すると思いません??」

「それはそうかも………。」
「しかし、今回は年寄り連中が多いですよ?疑り深いかもしれません。」

「まあ、その辺りは頼むよ。」

イストリアが気焔に丸投げをしているが、金色はチラリと片目を開けただけだ。

でも多分。

私の光を、なんとかできるとすれば。

確かに彼しか、いないだろう。


あれこれみんなが話し始めて、再び私も考え始める。


扉を出して、光を降らせて。

「みんな」を、送って。


あとは?

何かあるっけ?

無いかな??



顔を上げ、ぐるりと部屋を見渡すとイストリアの薄茶の瞳に捕まった。

私を見る楽しそうな、しかし少し切な気な瞳。

きっとまた私の事を考えてくれているのだろう。
それが嬉しくて微笑むと、イストリアは頷いて私にこう尋ねた。

「君は。何か、あるかい?私達にして欲しい事は。お願いしてばかりだからね。この祭祀でして欲しい事があれば。できる事は、大概やれると思うが。」

いつの間にかみんながイストリアを見ていて、同意の空気が流れているのが分かる。

自然と白い部屋は静かになっていて、午前中のまだ優しい光がイストリアを背後から照らしていた。

少し、目を細めて艶が光る薄水色の髪を目に入れた後、考える。


して、欲しい事?

あるかな?

「お願いばかり」とは言うけれど。

顎に手を当て、考えてみても。

なんだかんだ、私のフォローをしてくれているのが、みんなで。

私は、「祈りたいから祈ってる」だけで。


うーーーーん??

何か、あるかなぁ?


ビロードを一度撫でると、立ち上がり部屋を見渡す。

みんなが、私を見ている。


それぞれの表情が、明日へと望む心を映していてなかなか面白い。

不安そうなクテシフォンはきっと祭祀が心配と言うよりは、私の心配をしてくれているのだろう。

純粋に興味がある、という顔はブラッドフォードとミストラス。
ウェストファリアは少し違うけれど、まあ似た様なものかもしれない。

楽しそうなのはイストリアだけだ。

おかしいな?
多分、めちゃくちゃ、いいギフトが降る予定なんだけど??

思わず腕組みをして、残りの「やれやれ」メンバーを見る。


いや、一番おかしいのはここかも………。

「程々にしとけよ」
「頼むわよ、心臓が止まらない程度で」
「収拾がつくようにしろ」

それぞれの目が口ほどにものを言っていて、ちょっと楽しくなってきた。


気になるのは、私の金色だ。

話の始めから、基本的に目を瞑っている気焔は何を考えているのだろうか。

後で、充電すれば大丈夫かな………。


でも、みんなの顔は思ったよりも明るい。

「もしかしたら、何か起こる」という本部長の、注意も。
きっと、このメンバーなら乗り越えられる。


だから。

…………うーん、やっぱり…あれ、かな?


お願いと言うか、何というか。

ぐるぐるしながらも私の思考はやはり漏れ出していた。

「でもな…お願い、にはなるのかな?その前にどうなんだろうか………。あの?」

「どうした?言ってごらん?」

「皆さんに、訊きたいんですけど。祈る時って、何を考えてますか?いや、今までじゃなくて、今回、何を祈ろうかと思ってるかの方がいいかな………。」

イストリアに訊かれたので、いつもの様に思考が纏まっていない。
そのまま垂れ流される私の考えを、しかし遮る者は誰もいなかった。

「多分。今回の祭祀がいつもと違うのは、皆さんの方が承知かと思うんですけど。そして多分、前回のイレギュラーとも、違う筈で。その上で、光が、あの、また凄いの降りますよ、多分。えっと、その、光が降るにあたって。何を、思うのかなぁと。祈るのか、か。………どう、ですかね?解ります??」

自分で話しながらややこんがらがってきた私は、とりあえず答えを回答者任せにする事にした。

受け取ったまま、答えてくれたら、いい。


そうしてそれぞれが、考え始める様子を見ていた。




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