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7の扉 グロッシュラー
朝とブラッドフォード
しおりを挟む「ねえ。向こうに、猫っているの?」
「は?」
あら。いい反応。
組んでいた腕を下ろして、私を見ている茶髪の彼は髪の色こそ違うが本当に大きいベオグラードみたいで、面白い。
ついつい揶揄い口調で始めちゃったけれど、この人は弟と違って油断ならない筈だ。
でも、私猫だし?
油断するなら、あっちよね………。
そう思いつつ、反応を見る。
少し、考えてブラッドフォードはこう答えた。
「いるにはいるが、多分まじない猫だろうな。お前は………少し、違うな?」
あら。
私の事、判るなんて中々じゃない?
多分、まじないが弱い者だと私とエルの様なまじない猫の区別はつかない筈だ。
試した事、ないけど。
多分、そう。
彼の全体の雰囲気とこのやり取りで、話ができそうな事が判る。
猫に、周りくどい事は向いてない。
とりあえず本題から、訊いてみる事にした。
「あんた、依るの事。どう思う?」
さっきのみんなの話で、あの光の原因が依るだという事は分かっている筈だ。
でも。
一番の気になること、それは。
そもそも、あんな光を、見て。
あの子を「何」だと、思ったのか。
もしかして、考えが変わっていたり。
恐れを抱いたって、不思議じゃ、ない。
光の柱は見ていないけど。
まあ、あれは見ないと凄まじさは分からないわよね………見ない方が、いいかも。
案の定、ブラッドフォードは私の質問の意図を考えつつ、答えを探しているのだろう。
中々返事は返って来ない。
チラリと向こうに目をやると、問題なくワヤワヤと話をしているので私達は放っておかれるだろう。
丁度いい。
今のうちに心配事は皆、訊いておこう。
あの依るの騎士はこういう事、向いてないからね………。
相変わらず皆の話を聞きながらも壁際から動こうとしない気焔。
あの光が降った後、多分そのまま依るをイストリアの空間に連れて行った筈だ。
そうして戻ってから、方々片付けを手伝いつつも何故だか無言を貫いているあの、石。
あの二人に、何があったのかは分からないけど。
いつの間にか依るを連れて来て、あの騒動を収めた気焔。
でも多分、本人は依る無しでなんとかしたかったんだとは、思うけど。
結果オーライだったから、いいじゃない。
何を悩んでるのかしら?
まあ、悩ませとけば、いっか………。
依る曰く、「気焔は人になったばかりだから」と言っていて人間の機微が解るようになるには時間がかかるのかも、しれないけど。
でも、私と同じで「人と一緒」であった時間はかなり、長い筈だ。
まぁでも。
きっと「依るが大事だから」悩んでるんだと思うけどね………。
それは、素直に私も嬉しい。
あの子が初めて、「恋」をしたこと。
一緒に扉を巡る者が、いること。
姫様を探すのが、簡単じゃない事は流石に私だって解る。
それを一緒にできるのが、「ただの石」じゃなくて、「お互いに大切な者」と一緒にできること。
そんないい事って、無いわよね………。
あの子達が最終的にどうなるのかは、分からないけど。
「ま、ハッピーエンド以外は、いらないけどね…………。」
「何を言っている?」
「ん、ああ、こっちの、話。」
すっかり忘れてたけど、ブラッドフォードはきちんと考えていた様だ。
いかんいかん、私もすっかりあの子に毒されてるわね…。
とりあえず座り直して、体裁を整えた。
「正直。俺には判らん。」
「うん?」
腕組み体勢に直っているブラッドフォードは、いきなりお手上げ宣言を、した。
でも、ぶっちゃけこれがホント正直な気持ちよね、きっと………。
その返答で、大体この人が少しは腹を割って話すつもりなのが判る。
私だって向こうの情報が欲しいし、できるなら。
「婚約者役」とはいえ、仲良くやれるに越した事は、ないのだ。
きっとそこそこ長い、付き合いになるに違いない。
うーん?
そう、すると………??
「ねえ?向こうに行ったら。とりあえず、婚約者じゃない?」
「まあ、そういう約束だな?」
「それって、あなた的に「いつまで」とか決めてるの?年齢的に、すぐに結婚してもおかしくないわよね?」
ブラッドフォードは見た目年齢は多分23~4くらいだと思う。
リュディアは16で婚約者が決まると、言っていた。
多分結婚するとすれば、早い年齢ではないだろう。
少し、考えた彼はチラリと横に視線を投げるとやや声を張ってこう、答えた。
「そうだな?まあ、約束を破るつもりは、無いが。俺自身としては、結婚自体してもいいと思う。家には得しか、ないからな?しかしなにしろ、あの子次第だろう。向こうは、こことは違う。俺は俺のやり方で、やらせてもらうさ。」
「ふぅん?まあ、あの子の気持ちを尊重してくれるなら、いいけど。奥手なんだから、駄目よ?」
「まあ、そうだろうな?」
ちょ、そっち向いて言うの止めてくれないかしら?
後で大変なの、私なんだけど?!
多分、わざと気焔に聞こえる様に話すブラッドフォード。
中々の挑発ぶりだけど、この人は何がしたいんだろう?
でも婚約者の件が決まってから、確かに彼は気焔を気にはしていた筈だ。
三角関係とか、遠くでやってくれる分にはいいけど、ウチでやるのは止めてくれないかしら…。
「ねえ?今回、光が降らなかった人って。あなた的には、心当たりがあるんじゃないの?」
とりあえずどうにもならない問題は横に置いて、確認したい事を訊く事にした。
うん、私がヤキモキしても、どうなるものでもない。
「そうだ、な?しかし問題は「行動を起こした者」が全てではないという事だろう。上の方には多分まだ向こうの年寄り連中がいるだろう。結局実行するのは、身分はあるが下っ端という事さ。」
「ふぅん?じゃあ、取り急ぎとっちめなくても大丈夫、って言うかトカゲの尻尾切り的な感じになるって事ね?そうなんだ…。」
「お前。猫、だよな?」
「ええ。残念ながら。人なら、私が嫁に行ってあげても、いいわよ?まあ嘘だけど。」
「…………。」
その目は止めてくれないかしら………。
嘘だって言ったじゃない。
「それと。何か、する事ってあるの?婚約すると。」
「まあ、披露目の会は何かしら必要だろうな?茶会でいいか。」
「普通はどうなの?」
「夜会か、もっと盛大な披露目会をやる所もある。本当なら、銀と銀だ。そのくらいは、やらねばならんだろうが。」
だから、見るなって。
「多分、茶会くらいで丁度いいだろう?」
「まぁね。あまり、遊ばないでやって??」
「フン。俺にはそのくらいの権利はあるがな。」
「まぁ。そう?かな?」
なんとなく、納得した様なしない様な………。
でも、少し話してこの飄々とした男が思いの外気に入った私。
きっと、依るの事を傷付けようとして何かする事は無いだろう事が、判る。
それなら、いいんだ。
どうしたって。
大変な事は、大変なんだから。
そうして私は下らない質問をしつつ、ウイントフークに呼ばれるまでこの男を観察していたのだ。
うん、まあまあ。
合格点かしら、ね??
あっちの方でちょっと燃えそうな人、いるけど。
ま、そっとしときましょ。
何か、思うところがあるんでしょう。
そうして私とブラッドフォードは、最終確認の為向こうに合流したのだった。
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