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8の扉 デヴァイ
スピリット
しおりを挟む背の高い大きな扉を潜るとそこは、さっきとそう違わない景色が続いていた。
広い、廊下。
だがしかし荒れ放題のここを、掃除するというのだろうか。
うん?
めっちゃ、時間掛かりそうだけどね??
しかし、やはりどこからかの明かりがあるこの廊下も、静かな空気で満たされていて「荒れてはいるのだが乱れた様子が無い」という、なんとも不思議な雰囲気なのである。
ただ、ただずっと、ここに、在って。
それが、そのまま朽ちている様な。
そんな、雰囲気なのだ。
埃を立てない様、静かに歩を進めているうちに自分の感覚が同時に拡がるのも、分かる。
何故だか、あの闇の中と同じ様に。
なんとなく、私に馴染むこの空気は自然と私を取り込み心地良く、させているのだ。
ズンズンと真っ直ぐ進んでいるウイントフークが遠くに見えて、中々の長い廊下を歩いて行く。
荒れてはいるが、私好みの調度品が時折見えて段々と楽しくなってきた。
前を歩く金色、それを見ながらいつの間にか鼻歌が出ていた様で、ヒラリと自分から蝶が出たのが分かる。
足取りも軽く、歩いていた。
中々、デヴァイもいい所じゃ、ない?
そう、思った矢先。
「バチン」と視界が途切れ、再びの真っ暗闇に放り出された。
突然、何も見えなくなったのだ。
「え?何??!」
前を歩く金色も、少しの明かりも、見えない再びの、闇。
しかし自分を少し拡げていた私は、さっきの空間と場所は変化していない事が、解っていた。
え?
なんで?
なに?
誰の、仕業?
私の蝶達は無事だろうか。
気焔は?
心配、してるかな?
これって、外からどう見えてるんだろう…?
さっきと違って、拡げた私は途切れていない。
だから多分。
危険な空間では、ない筈なんだ。
それにしても。どこ?
ううん、でも金色の気配は、する。
もしかしたら、これって私だけ、この中なんじゃないの?
金色に、焦りの気配は無い。
と、いう事は。
「誰。」
なにかが。
私だけを、この闇の中に放り込んだと、いう事なのだ。
しかも、悪意無く。
悪戯?
それにしちゃあ、タチが悪く、ない??
そう考えると、無性に悔しくなってきてどうにかしてここから出てやろうと鼻息が荒くなる。
うん?
この鼻息で、金色が気付かないかなぁ?
いや、そんなくだらない事考えてる場合じゃないよ………。
どうすれば?出られる?
でも、絶対。
糸口が、ある筈なんだ。
だってこれは。
悪戯なんだから。
そう、小さな「クスクス」という声が何処からか聞こえてきて。
確実に、自分が揶揄われているのだと、試されているのだという事が、分かる。
そんなの。
やってやろうじゃん。
何処だ?ヒントは。
必ず。
ある、筈なんだ。
再び意識を広げて、この空間に綻びが無いか探し始める。
自分が目を瞑って歩き続けているのは分かるので、なんだかおかしな感じだ。
でも。
うーん?
どこだろう?
意外と、隙間が無いな………。
この、黒い空間は案外居心地が良くて。
何故だか、ずっと、前から知っている様な。
懐かしいものに、出会った様な。
そんな気すらする、この、何も見えない空間。
「あ。」
見つけた!
光も無い、何も見えない、この空間に「顔」だけ在るのが、見えて。
「結構怖いんだけど…。」
アーモンド型の不思議な瞳と、その下に何か動くもの、笑った口が空間に現れる瞬間が一瞬、見える。
多分、目と口を閉じたなら。
見えない仕様になっているに、違いない。
「いや、見つけたのはいいんだけどどう、すれば出れるんだろ…?」
そう、見えたのはいいが再び一瞬で消えた、その「顔」は既に気配を消していて。
「でも、それって。狡く、ない?」
だって。
「かくれんぼ」なら。
私の、勝ちでしょう?
そう、思った瞬間。
「パシン」と空間に亀裂が入り、その亀裂からどんどん光が、差し込んで。
見慣れた金髪、荒れた廊下、どこかの扉を潜ろうとしている後ろ姿が見えて。
未だ手を引かれたままの自分にも気が付いて、やはり私一人が「あの中」にいたのだと判る。
どうやら私達はあの廊下の突き当たりまで進み、そこの扉を潜る所らしい。
とりあえずは何事もなかった様に、手を引かれそのまま歩いて行った。
余計な事を、言ったなら。
面倒な事になるのは、分かっているから。
「うん?お前、何だそれは。」
その扉の奥、荒れた広い場所で待っていたウイントフークに、指をさされる、私。
その突き当たりの部屋は、どうやら礼拝堂に似た祈りの場の様だ。
案の定、辺りに気を取られていた私は始め、自分の事だと気が付いていなかった。
「ヨル。それを、何処から拾ってきたんだ?」
「はい?」
それ?って、どれ?
私が気が付くのと、金色が振り返るのは同時で。
驚きに見開かれた、その金の瞳に私が驚いてしまった。
こんな顔。
初めて、見たんだけど??
その、大きく見開かれた視線の先を辿ると視界の端に毛の様な、羽の様なものが映る。
「えっ?!何?!?」
確実に自分の肩に「いる」、それに対して驚き後ずさって、みたけれど。
それは、私の肩にくっ付いたままだ。
「え?え??なに??取って、取って!!」
得体の知れないものが付いている私を、苦虫を噛み潰した様な顔で見ている、気焔。
え?
なんで??
取ってくれないの??!
しかしその反応で、これが危険なものではない事が、解る。
けれども「得体の知れない」事には違いないので、できるだけ顔を離して、恐る恐る、それを視界に入れた。
「ん?………鳥?」
近過ぎて、よく分からない。
けれどもなにやら、派手なのは、判る。
目の端に映るそれは、この世界に似つかわしくない程の「極彩色の鳥」の様に、見えたからだ。
しかし、私の言葉にパッと飛び降りたそれは不満気にこう、言ったのだけど。
「鳥じゃあない。私は、私。」
「ん?あれ?れ?」
目の前に降りたそれは、小さな狐の様な姿に、変化していた。
んん?
でも、さっき絶対、羽だったよね??
しかしよくよくその毛並みを見ていると、羽と見間違えるのも頷ける。
フサフサとした深い紫に茶が入った毛並み、光を受ける部分は金色に輝いて「あの焔」に似たものすら感じさせる美しさだ。
顔の割には大きな耳がピンと立って、狐というよりはフェネックに近いかもしれない。
所々、赤や銀灰の様な毛も混じる見事な尻尾、なんとも複雑な色合いのこれは。
やはり、まじないの類いなのだろうか。
でも?
さっきの、反応………。
チラリと金色に視線を飛ばすが、素知らぬフリをしているのが見え見えだ。
どうやら言う気は無いらしい。
それなら、仕方無いか…………。
まあ、危なくないならいいんだよね?
「さっきの、あなただよね?」
「そうだよ。」
「なんで?そんなこと、したの?」
その、小型犬程度の大きさの狐に見える生きものは、じっと私を確かめた後ウイントフークとシリーも、確認した。
でも、やっぱり金色の事は。
確認、しなかったけど。
ていうかホント、どういう関係………?
「いいや、久しぶりに「ここ」へ来る客人が、どんなものかと思ってね?しかしまあ、いいだろう。手伝ってやっても、いい。」
「ああ、それなら有り難いな。」
ん?
その、提案に。
返事をしたのはウイントフークだ。
何それ?
どーなってんの??
ふわりと、私の蝶が戻って来て。
それと共にふわり、ふわりと、部屋の中に浮かび出てきた、沢山の「なにか」。
「えっ?なに??!」
「「スピリット」だ。イストリアはそう、呼んでいるらしい。しかし、本当にいるんだな………。」
「えっ?えーーっ??」
「五月蝿いわよ。」
「えっ?朝は?吃驚しないの??」
「まあ。長いこと生きてると、色々あるからね。」
「え、うん?まあ。そう、なの??」
私が一人騒いでいるうちに、部屋の中に出てきた光の靄は、どんどん形になってゆく。
しかし、靄のままのもの、形になりどんどん「なにか」になってゆくものと、違いがある様だ。
そうして部屋に拡がるその、靄を。
兎に角、じっと。
何が出てくるのかと、見ていたのだ。
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