透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
427 / 2,079
8の扉 デヴァイ

その、扉

しおりを挟む

「ああ、因みにフェアバンクスの家は。「石」を、扱っていた。」

そんな気になる事を、朝になって言い出したウイントフーク。
パンをちぎりながら、何気無く始まったその話に私は勿論飛び付いた。


昨日はそんな事、一言も言ってなかったのに。

不満そうな私の顔を見ながら、「俺だって今朝思い出した」というウイントフークは、何故今その話を思い出したのかを説明し始めた。

「ほら、お前が前にあの扉へ夢で入ったと言ってたろう?が、鉱山なんじゃないか。」

「…………うん?…………ああ!」

夢と言われて首を傾げたが、ジュガの空間での事だろう。

確かに、言われてみれば。


あの、空気感と岩肌、暗く狭い道。

それに、あの男の子に。
「石」の話を、していた筈だ。

「え?でも待って下さいよ。鉱山って、デヴァイの、鉱山?うん?山って、一つしかないの?なんで人がいたんだろう………?なんとなく私、ラピスかと思ってた………。」

その私のぐるぐるをじっと見ているウイントフーク。

嫌な色の瞳と、目が合ってしまった。

あれは。
何か、そう、危険な目なのだ。

私に、無理難題をふっかける時の。

「御明察。多分、俺としては鉱山は一つだと思っている。元々な。フェアバンクスはラピスに移ったのだと思うんだが。まぁ直接今度訊いてみるが、お前一応あの扉が開くかどうかだけ調べておいてくれ。」

。勝手に、行くなよ?」

「………うっ。はーい。」

そんなに念を押すなら、私に「開けるな」って言えばいいのに。
目の前にニンジンをぶら下げられて、触れるのに食べるなって言われてる感じ。


でも。
なんとなく、だけど。

あの扉を開けられる可能性があるのは、多分ここでは私だけなのだろう。
ウイントフークの口調で、判る。

ジュガの空間と、私のまじないで直した、この場所。
何かそれが、関係あるのだろうか。

「なにしろ今は、暫く使われていない筈だ。何があるかは、判らん。開くかどうかだけ、確認しておけ。」

「それ、開かない扉を開けろって言われるより嫌ですね………。」

言うだけ言って、さっさと部屋へ引っ込んだウイントフーク。

とりあえず私も、朝食を終えてホールに行ってみる事にした。
なんとなくだけど、見て、確認したかったのだ。




「今って、石はどうしてるのかなぁ。」

「知らん。」

「まあ、そうだよね………。」

千里に訊いたつもりは無かったけど。


私の独り言に返事をした千里は、今は狐の姿でホールを彷徨いている。
私としては、こっちの方が可愛いからいいんだけど。

しかしその可愛らしい姿で、千里は気になる事を言い出した。

「しかし今は、ウイントフークのまじないがあるからいいだろう。石はもう枯渇し始めていたからな。何事にも限界は、ある。与えもせずに、採り続ければ。何れ限界は迎えたろうな。」

「え?」

振り返った私を、無視して廻り続ける千里。
また、答える気がないに違いない。

自分で考えろと、いう事だろうか。

ていうか、そんだけ喋るんだったら教えてくれてもいいじゃん………。


そう思いつつも、私もぐるぐる、廻る。

どうせ扉を確かめて、開いたとしても今日は。
中へ、行く事はできないのだ。

それならとりあえず千里の言っていた事が気になる。

「石が、枯渇する………。」

ずっと前、まだラピスにいた頃。

ハーシェルから聞いた話で、みんなは子供が産まれると鉱山へ行くと言っていた。
それに、一人で幾つか石を持っている人だっている。
ハーシェルも、そうだ。

「確か、三つくらい持ってたような…?」

あの、ウイントフークの店にあった屑石も。
やはり、採りすぎると無くなってしまうのだろうか。

まあ、それはそうか………。

それに、もしここが本当にラピスと繋がっているとすれば。

「全部の扉の、石が。一つの、鉱山から賄われているって事だよね…?そりゃ、無くなるか…。」

だから?
だから、フェアバンクスの家はここを閉ざして。

ラピスへ、移動したのだろうか。

この家が、石を供給しなくなってからはみんなどうしていたのだろうか。


えー、もし、それで石が足りなくなって。
「奪う」という事に、発展したのだとすれば?

え?フェアバンクスさんの、所為?
そんな事………うーん?ない、よね?

でも、石は継ぐこともあると言ってた筈だ。

なんにせよ。


「無いから、奪う、って言うのは。ちょっと暴力的よね………。う、キャッ!?」

青のタイルを見ながら、ぐるぐると廻っていた私は。

何かに、ドスンとぶつかって転びそうになった所を、その何かに支えられが千里だと分かる。

「ちょ、何?」

キロリと睨んだ先には、高い位置にある紫の瞳。

そう、いつの間にか人型になっていたのだ。

「そろそろ、試した方がいいんじゃないか?」

「え?………ああ、そうか。」

すっかり忘れて、ぐるぐる廻っていたけれど。

私の目的は扉を確かめる事だった筈だ。

「だって千里が気になる事言うからじゃん………。」


ぶちぶち言いつつも、もう一つの青い扉へ向かって歩く。
あの時「別の人」の中から見た、あの扉と寸分違わぬ出来栄えの、その扉は。

記憶の中のその様子を思い出させるには、充分にそっくりな空間である。

そうして、ある事も一緒に思い出した私。
確か、この扉を開ける時に。
「あの人」は、何かを呟いていた様に感じたのだ。
それがあの時は、何だか分からなかった。

「えっ、まさかの、まさか?」

とりあえずノブに手を掛け、回してみるけれど。

案の定、開かないのである。
多分、その何か言葉が必要なのだろう。


「えーー………、千里?」

くるりと振り返って、確認する。

チラリと見えた、その極彩色の尻尾は一つの通路を消えて行くところで。

「え?ちょっと、何処行くの??」

私が開けられないと踏んだのか、何処かへ行ってしまった千里。

知ってるかと思ったんだけどな………。


真鍮色の、そのノブをじっと、見つめる。

派手過ぎないその彫りが、シンプルな扉にピリリと効いている、その様子を見てふと、思う。

「………やっぱり。」

扉と言えば。

試す価値は、アリじゃない?


チラリと振り返っても、極彩色は見えない。

それなら。


そうして私は、小さな声で呟いた。

「開け、ごま。」

そう、やはり開かない扉と言えば。

そうしてそっと、ノブを回したので、ある。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...