透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
445 / 2,079
8の扉 デヴァイ

金色の焔

しおりを挟む

久しぶりの、燃える金の瞳が目の前にある。

それは、あの窓辺で見た時の様に恐ろしく綺麗で、吸い込まれそうな、瞳。

この前、空間を直してからハッキリと物が見える様になり、細部も鮮やかに感じられる様になった。

まさか。
その、成果が。

ここにも出ているとは、思わなかったけれど。



ううっ、綺麗。
綺麗、過ぎる。

何故だか少し、変化して見えるその焔は複雑な色を含んで私の目の前をチラチラしている。

そう、始めは瞳の中で揺らめいているだけだった、あの焔はいつの間にかそこを飛び出し彼の周りを回り始めた。


透ける様な金髪、燃える焔の瞳、その眩しい彼と私の間を時折チラチラと通り過ぎる焔。
少し、気になるけれど。

それすら有り難かった。


この、瞳の前では。

何も、誤魔化せないし。

私が感じた、不安も、不快感も、緊張も驚きも、そう、意外とお兄さんと楽しく会話してきたことも。

何も、誤魔化せないからだ。


そこまで考えて、はたと気が付いた。

成る、程。

私、案外楽しかったのが後ろめたいんだ………。


そもそも「ブラッドフォードの婚約者」という、意に沿わない役をやる事になったこと。

「悪の枢軸」の本拠地が実は、私にとってはかなり魅力的だったこと。

そして。

「今度連れて行ってやる」

そう、ブラッドフォードとは約束までしてきた。
まるで、デートの様だと。
側からみれば思う、様な。


彼はどう、思っただろうか。


眼前の焔はまだ楽しげに舞っているし、美しい金の瞳は。

揺らがずただ、真っ直ぐに私を、見ている。

その、瞳を私も真っ直ぐに捉えると、少し落ち着いてきた。


恥ずかしくて、後ろめたくなって反省して、ぐるぐるして、上目遣いになって。

無意義に、甘えるように「許して欲しい」と思って、しまった。


だって。
仕方なかったんだもん。
緊張したし?
多分、無理にでもテンション上げてないと駄目そうだったし?
行ってみたら本の街だったし、私の好きなものばかりこれでもかって並べてるし…。
お兄さんとの関係も、ギスギスしたってしょうがないし…でも私がこの人他の人とデートの約束してきたらもう、ダメかも………。


自分の中での言い訳が、泥沼に嵌った頃。

ふわりと、温かい腕に包まれた。


久しぶりの安心感、何よりあの森のお風呂よりも格段に落ち着くこの小さな空間に、改めて驚く。


その、温かさが心地良過ぎて。

思考を放棄して、ただ、それに身を委ねていた。


そう、イストリアさんも「ただあれ」ば、いいって、言ってたし。

ていうか、もう、無理………。



微睡まどろみの中、段々と金色の体温が私に浸透してきて。

彼が、怒ってはいないこと。

ただ、私を心配していたこと。

ただ私を、包みたいこと。

ただ、私を。

想って、いること。


それが伝わってきて、自然と涙が、出る。


最近、泣いてなかったのに。
なんだ、ろうか。

この、涙は。


悲しくはない。
寂しくも、今は、ない。
嬉しい?
いや?

安堵?

なんだ、ろうな………。



ただ、涙が出ること。

この腕の中では泣いてもいいこと。

その、涙の意味が「何」であったとしても良くて、ただそれを包み守って、癒してくれること。


そんな有り難い存在が。
在っても、いいのだろうか………。




いや。

いいよね?

私、頑張ってるし?

一人で扉に旅に来て、いや一人じゃないけど人間は一人………
まぁそれはいいか。


自分で自分を慰め出した頃、腕が動いていつもの様に髪を梳き始めた。


暫く、その心地の良い感触に微睡んでいたが、ふと顔を上げる。

彼は今、どんな顔をしているのだろうか。

それが、気になったのだ。



えっ。


言葉が、無い。

その瞳は、深みを増した焔が静かに揺らめいているだけで、これまでよりもぐっと、落ち着いて見えた。


あの、色が増えてから。

こうもあからさまに瞳に現れることは、無かったけれど。

様々な色を含んだ焔は、いつもより重く太く揺れていて更に強固になった彼の意思が見て取れるものだった。


何ものにも、揺らがない、焔。

自らの意思で揺らぎそれを燃え上がらせる事はできるが、決して他者からの干渉は受けない。

そんな、力強さを感じさせる焔なのだ。


私はただ、そんな彼の瞳をじっと、見つめていた。


ああ、「変わった」んだ。

成長、したんだ。
石は、変わらないのかと思ってたけど。

いや、でも。
私のキラキラを取り込んで変化はしてたな?

また?
成長、したの?

これ以上?

私を、置いて、行かないで………?



侵し難いその雰囲気、だがそれすら私の中の何かは求めて止まなく、自分の中が彼を欲しているのが解る。


ああ、あれが、欲しい。

あの、美しい焔。
何ものにも、侵す事のできない、けれどもどうしても魅力的な、あの。

私の。


私の、だよね?



瞳の焔が一瞬赤く染まり、「了」の意を汲むと背中に電流が走る。

何をされた訳でも、ない。

彼の手は私を抱え、片手は髪を梳いたまま。

ただ、私はその瞳を見上げ「色」を確かめただけだ。


で。


 何故こうも、心も、身体も。

震え、血が沸騰した様に熱くなり背中には電流が流れるが如く、ビリビリとして。
自分のものではないような身体、震える心、しかし心地よくもあるその、感覚。

一瞬で、私を変えてしまう彼。


なんだか悔しい。

でも、それは心地よくもあって。

少し恥ずかしくも、ある。


だって………。


「感じるままで、良いのだ。」


見上げた私に、再びの言葉。


今、それ、言う………?
でも。
抗えない。

その、魅力には。


「新しい、色なのかな。」

「さあ?お前の「中」に。取り込んでみれば、解るのではないか?」


………ずるい。


なんかこれ、半分揶揄われてない?

でも。
結局。

お願い、しちゃうんだけど。


でも。
あなただって、欲しいでしょう?


「いっぱい、頂戴?それで、を、治めて………。」


多分、金色を注がれれば。
このゾワゾワも、落ち着くに違いないから。


「勿論。吾輩はいつでも、お前を欲しているからな。」

更に私の全身が熱くなったところで、それを治める様に、金色が注がれる。

わざとだ、ろうか。


勢いよく流れ込んでくる金色に混じって、沢山の、複雑な色が。
光、が。

まだ、とても小さいけれど以前は無かった焔の色が橙と金色の大きな羽を彩って更に美しく変化したのが解る。


それはもう、夢の様な現実で。


そんな、景色が、あること。

彼の、中に、私の中にも。

そうしてきっと、それは、この世界にも創ることが可能なのだろう。

あの、暗い廊下やこの闇の中の世界にも。

少しでも、光の届く場所が、あれば。


この、焔で照らし何もかもを明るい、光の元に晒せば。


「できる、かな………?」

「お前が、望めば。」

新しい金、強い瞳。


あの、「望めば、成そう」と言っていた頃の彼とは少し違う。

多分、芯は変わっていない。
だけど、きっと。

より、広く、深く、きっと「私と共に」在ると決めてくれた、彼ならば。


より良い、変化となるのだろう。



「うん………じゃあ、頑張る。とりあえずは、敵状視察からだね。」

「あまり張り切るな?碌なことがないからな。」

「ちょっと、今いい話だったんだけど…。」

「それにも、気に入らないしな。」

珍しい。

ハッキリとそう口にした気焔に、やはり変化を感じる。

私の身体を抱きしめたまま、腰の辺りを撫でているのはブラッドフォードの所為だろうか。
それとも、あの悪戯狐の所為か。


なんだか、段々くすぐったくなってきて緩い腕を解く。

そうして、彼をベッドへポンと座らせると。

「久しぶりに、ゆっくり話そうよ?」

そう言って隣に腰掛け、青の家の話を聞く事に、した。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...