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8の扉 デヴァイ
白い部屋
しおりを挟む遠く、近くに。
見える 青灰の 長く高い木立
その 樹に葉は無く 枝も無い
だが 樹だと分かるその太く細い 柱の様に立ち並ぶ
樹樹の 中央に。
白く 薄く 光る何か
湖面の様な地面は 鏡の様に
その上に居るものを 映して
その 静寂の中にいる
ひとりの ひと なのか
何 なのか
ただ
遠くに見える その 浮かぶ 人影
その影に胸を締め付けられるような気がして
目を 開けた。
うん?
白い
白いよ?
目、開けたけど?
真っ白、だな…………??
目を、覚ましたのか、なんなのか。
自分が何処に居るのか把握できない私は、とりあえず身体を起こして辺りを見渡した。
「あ。」
どうやら、ここは。
「久しぶり………。の?」
あそこ………だよ、ね?
何処までも拡がる白い空間、浮かぶ扉たち。
以前訪れた時と、寸分違わぬその部屋はいつもの不思議な空気に包まれている。
そう、あの白い部屋だ。
えっ。
いつぶり?これ?
グロッシュラーで、最初?
めっちゃ始めに、シンが?
うん?シンがネイアになってて、それから何か気焔との関係が変わった気がして………。
んん?
それからあの人は。
確か、「在り方」が変わって「手を出さない」と。
基本的には、「傍観」だと。
言っていたのは、金色だったか。
それとも私が、そう。
思って、いただけだったのか。
うーーーーーーん。
思い、出せない。
でも。
「まあ、それはいいの。でも、じゃあ。シンが、いるってことだよね………。」
そう呟きながら、ゆっくりと立ち上がった。
座っていても遠くまでは、よく見えるけれど。
なんとなく、立ち上がり「彼」を。
探したかったのだ。
そう、きっと私を助ける為、いや何かのヒントを与える為に。
ここへ招かれたのだと、感じたから。
もしかしたら今回も、「あの扉」じゃなかったからかもしれないけどね………。
そう言えば。
彼は、ここでは「シンラ」の筈だ。
でも、グロッシュラーでは初めて「あの人」に会った筈。
「姫様」を探しているのは「シンラ」で。
シンは、別の………うん?石、なんだっけ??
でも、ここでは「シンラ」だけど外でシンなだけなんだよね?
結局、同じなの?
うん??
よく、分かんないな………。
私が一人、俯いてぐるぐるしていると少しだけ場の空気が変化した。
いつもなら、考え事の途中で気が付く事はまず、ない。
だが流石にこの「場の主」が、現れた空間は震えて私にその来訪を知らせた。
何処へ行っていたのか、分からないけど。
一瞬にして変わった場の色が、彼が来た事を告げているのだ。
これ多分。
背後に、いるよね?
振り向かなくても、判る。
気配があるからだ。
懐かしい様な、切なさと胸に沁みる何か、ジワリと私を侵食するその温かさはしかし私の中の金色を押しやっているのも、分かる。
なんとなく居た堪れなくなって、とりあえず振り向く事にした。
「久しぶり、だね?」
うん?
でも、あの青灰の館、三階で。
出会ったシンは、………ああ、ややこしい。
しかし、私の目の前にある瞳の色を確認すると、その言葉が正解である事が分かる。
きっと本能的に「違う」と認識したのだろう、そう思ってきちんとシンラの顔を見ると、やはりあのシンとは、違う。
吸い込まれそうな美しい金の虹彩、その複雑な濃淡につい、手を伸ばしてしまいそうになるけれど。
その雰囲気はやはり、触れてはならないもの、で。
同じく美しかったあの部屋、夜のビロードの上で、銀色に浮かび上がっていた彼を思い出して改めて違いがはっきりと分かる。
でも。
私は「知っている」。
この彼も、あの彼も、「求めているもの」は同じで、私がそれを探しているという事。
「ごめん、なさい。」
「何故謝る?」
静かに私を見つめる彼に、返す言葉が見つからない。
これじゃ、あの時と同じだ。
あの、グロッシュラーでなんとなくフワフワしていた最初の頃。
私は自分の小さな下心に隠れたこの目的を、見ないフリで誤魔化していたのだ。
無意識の、うちに。
でも、今回は?
「あっ、そう、か………。」
そうだ。
それも、途中で気が付いた筈だ。
あの人、ディディエライトも彼女の金色を探して、いて。
きっと、その道の先に。
私が求めるものも、ある筈で私は誰のことも、放って行く事はできなくて。
それぞれの、「還りたい場所」へ連れて行くこと、みんなが、辿り着いて幸せになること。
それを、求めて、進んで行けば。
自ずと、答えが見つかるだろうと思うこと。
「うん、でも。まだ、どうしていいかは。分からないんだ。」
金と赤の混じる瞳、白い睫毛。
ゆっくりと揺れるそれは、私に続きを話す様促している。
自分の中を探しながら、ゆっくりと言葉を取り出し並べてゆく。
間違っても、いいのだけれど。
できるだけ、自分の、真ん中に近い言葉で伝えたいと思ったのだ。
「自分が、気負っていたのは気が付いたの。だから、まずここでもきちんと自分を捕まえて。フワフワ、しない様に自分の整え方は見つけた気がするんだけど…。」
「でも、まだそれ以外は何も。してないし、できてない。次に何をすればいいのか、見当もつかない。私に、何が、できるのかも。この広く暗い、世界で。」
くるりと瞳が回って、胸がドキリとした。
その、動きは。
人では、なかったから。
しかし静かな声で彼は話し始める。
「灯りは、燈った。」
「光は、此処へ。届いたのだ。」
灯り?
光?
意味は、よく分からない。
しかし、私に差し伸べられている言葉だという事だけは。
解る。
私が「暗い世界」と、言ったからだろうか。
光とは、灯り、とは。
きっと、同じことなのだろうとは、思うのだけど。
光、灯り。
あの、大きな礼拝堂で小さな灯りなら燈した。
私の空間だけの、光は、ある。
でもそれだって、まだデヴァイの一角だけだ。
まだまだもっと。
きっと、ずっと大きな、光が。
必要なことは、分かる。
どうすれば、集まる?
私は、その術を。
持っているのか、どうか。
再び、顔を上げた。
やはりそこには、美しい瞳があって私をじっと、見つめている。
鮮やかな赤い唇が、再び開いた。
「暗闇に在る、光が。とてつもなく小さなものだったとして。「光」が、見えないと思うか?」
それだけ言うと、再び閉じられた赤。
その、瞳は。
私に「どうだ?」と問いかけている様で、そのままスポンと自分の中に堕ちてゆく私。
闇の、中で。
何も無い、あの扉を潜った時の様に黒すら無いと思える闇の中。
しかし、ただ目を凝らして。
探す。
光を。
何か、何でもいい、見えるものを。
その場に立ったまま、ぐるりと回り闇を確認していく。
漏らさぬよう、ゆっくりとだ。
「あ」
思わず声が出た。
ある。
あった!
多分、あれじゃない?
遠くに見える、とても小さな、光。
きっとまだ針穴の様な大きさに違いない。
瞬きすれば、無くなってしまいそうな。
そんな、小さな、光だけれど。
一歩、また一歩と進むうちに、その光が大きくなるのが分かる。
そうして近づき、瞬きしても消えないと安心できる位置まで来ると。
ホッと息を吐いた瞬間、私は白に掬い上げられた。
少しの眩しさに目を細める。
真っ白な空間に、帰ってきたからだ。
ゆっくりと目を慣らし、その金の瞳を確認すると私は無言で頷いた。
「あれは。お前だ。」
「えっ。」
突然の言葉、ポッと胸に灯った光が嬉しさと照れ臭さ、そして「まだまだ」という枷を引き出した。
私の中に存在する、どれも正直な気持ちだ。
勿論、あんな風に。
在りたいとは、思うけれど。
そう、在れるだろうか。
不安が顔に出ているのだろう。
私を見て少し、再び赤い唇が開いた。
「謙遜は辞めろ。自らを虐げるな。遠慮は要らない。ここには。お前、ただ一人しか。居らぬだろう?」
「何を恐れる?」
「恐るな。怖がるな。それは、己の内の、声。自らの声なのだ。その証拠に。ここには誰の声も届かぬし、誰に聞かれるでもない。何故、そうだ?何故、まだ。未だ。幾重もの、殻を被る?」
「その殻を、一枚一枚、脱ぎ去り。「お前」が「剥き出し」に、なった時。」
「そこには。「なに」が、残る?」
真っ白な空間、赤い唇から目が離せない。
白の中にある更に美しく光る白い髪、銀色に輝き始めたその艶、内側から発光するような、力。
それに、問いかけられる。
ただ、真っ直ぐに。
「それは「なに」を、求める?」
「何も持たぬお前が。ただ一つ、求めるならば。」
「どうやって、それを見つけるのか、それに見つけてもらうのか。どの様にして、それを手に入れるのか。」
「お前が望む、方法、方向、在り方は。」
「なんだ。」
私?
私、は。
「なに」を、恐れて?
「なに」を、求めて?
いつだって、取り繕えていない、私に。
未だ、何重にも、殻を被って、いる、と。
この人は、言う。
いや、人なのか、神なのか。
もう、私の中では大分、「私達」の中に馴染んで。
「神」という、遠いものではなく、手の、届く。
存在であろう、彼。
でも、わかっている。
彼は元々は人間が作った、神で。
その、私達人間の「想い」できっと、力を持った彼。
私達を見守り、時には助けてくれようと。
思っているのは、分かる。
彼は私の家の扉の中に、ひっそりと存在する、神様だけど。
きっとその「神」という存在の中に、大小、優劣は無くて。
無い、筈で。
だから、きっと。
彼と私も、違って、同じで、きっとずっともっと、殻を剥いて私が丸裸になって、その「存在」だけに、なったなら。
「うん、………光る、な。」
何故かは分からないけど、そう思った。
頭の中での「理屈」は繋がらないけれど。
私の、「真ん中」は。
そう、言っているのだ。
ああ、そうか、だからか。
再び顔を上げ、その美しい色を目に映した。
その姿は既に、かなり明るく発光していてこの時間が終わりに近い事を示している。
ギュッと締め付けられる胸、私の中が「まだ」「もっと」と言うのは、解るのだけど。
「ごめん。きっと、必ず。連れて、行くから。」
胸に手を当て、言い聞かせる。
自分にも、「あの人」にも。
私の中にいる、全ての、「想い」達にも。
そう、沢山連れてきた。
みんなの、それぞれの、「あるべき場所」「還りたい場所」を、求めて。
そうか。
大丈夫、「光」ならば。
何処に、いても、どんなに小さくても。
見えるんだ。
消えないんだ。
「私」が、諦めない限り。
「ありがとう。…またね。」
剥けていた自分の殻が幾つか戻るのが判るが、何も無いままの外はまだ。
危険なのは分かる。
でも、要らないものは、置いていく。
最低限、一人で立てる、歩いて行けるだけの殻を再び被って。
光の中、薄れる気配と景色、しかし私を取り巻く絶対的な安心感に、そのまま、身を委ねた。
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