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8の扉 デヴァイ
俺たちの光
しおりを挟む「ヨルには言っていないんだろう?」
「勿論。反対されるに決まってるからな。可哀想な事をしたが、幸い何故か今日はまた撒き散らしていたからな。すぐに回復するだろう。」
ウイントフークの口から「可哀想」なんて言葉が出る事自体、ヨルの影響だろう。
凡そ人を実験台にする事など、何とも思わなそうなこの男が今回向こうへ派遣したのはハクロだった。
各家の調査へ、空間の通り抜けができるスピリットを派遣する。
それ自体は合理的な作戦だと思う。
今が、あんな状況で、無ければだが。
「三日もすれば元通りだろう。それまでは別の仕事を頼んでいるとでも、言っておくさ。でも、お前は大丈夫だろう?やはり、違うのか………。」
茶色の視線をスイとかわして、少し離れた本の山へ飛んだ。
もう、散々こねくり回されたのだ。
もう俺に見るものなど、何も無い筈だ。
そう、随分前から俺はここデヴァイへ単身乗り込んで調査を始めていたが特に影響は無かった。
しかし、披露目の日も近くなり「人手が欲しい」と言い始めたウイントフークは、手を挙げたハクロの提案を断らなかった。
きっと。
今はスピリットの棲む事のない向こうへ、行ったなら。
何か影響があるであろう事を想像できない奴ではない。
だが、今はヨルの光を摂って力が増してきたハクロに、どこまでやれるのか試したい気持ちが勝ったのだろう。
そうして無事、ウイントフークからの任務を終え帰ってきたハクロはかなり薄くなっていた。
今は部屋で養生している様だが、人型に成れるのには時間が必要だろう。
それも、実験の一つなのかも、しれないが。
「千里に行かせた方が良かったんじゃないか?」
「………それはあるが。今の状況を試したかったのと、アイツは居ないと、すぐにバレるだろう?」
「まぁな。ハクロには悪いが、とりあえずは成功、って事か。俺は初めて来たからこんなものかと思ってたんだが、変化してるのか?」
ウイントフークが昔、滞在していた時よりも。
状況は芳しくないと、言っていた。
だが、俺達にはヨルの言う「全体が暗い」「黒い」という意味が、解らなかったのだ。
「まああれは特別だからな。そもそも俺達とは違うのかもしれん。だがラガシュの話を合わせても、目には見えなくともやはりその「暗い方向」へは向かっているのだろうよ。」
「………で?どうだったんだ?」
「まだ不明な部分も多いが………。」
ウイントフークが調査しているのは、雨の祭祀後の各家の動きだ。
あの時。
光は、「ヨルの好きな色だけ」降りた筈だ。
しかし、俺達には眩し過ぎて「何色が降りなかったのか」は判らなかったのだ。
まあ、多分誰も。
あの光をまともに見られる奴なんて、いないとは思うが。
…………いや、あいつならもしかして?
俺の動きで気が付いたのか、丁度良くあいつの話が始まった。
「気焔は銀の家の事も知っている様だった。あいつらの「仕組み」は、よく分からんがヨルの事はなんでも分かるって事なのか?だがしかし、「光の色」に関しては、何も言わなかった。俺の予想だと、ラガシュと何かあったのかも知れん。だがラガシュはそうじゃ、ないだろう?」
「うん?ヨルのことをって事か?」
「まあそうだ。気焔が警戒していると、何かと面倒なんだが。」
「うーん?そんな感じは………無い、とは言い切れないが無いとは、思うけどな?」
ラガシュは初めこそ「ヨルに興味がある」という素振りだったが、「姫」と呼ぶ様になってからは。
そっち方面は無いと思ってたけどな…?
しかし、人の心なんて。
分からないものだ。
しかも、ヨルだ。すぐに何処かで、「信者」を増やしてくるんだ、アイツは………。
まあ、ただの「信者」なら気焔の警戒する意図は分からないが。
「しかし、危険がある様なら話すだろう。でもお前の事だから、気焔の情報が無くともほぼ目星は付いてるんだろう?」
「まぁな。」
ハクロは満遍なく、どの家へも侵入した筈だ。
あの祭祀へ来たのはどの家も長老クラスだった為、普通に会うのは難しいらしく、そして手続きが面倒らしい。
俺も殆どの場所へは入った事があるが、最奥はどの家も。
守りが、固かったのだ。
ぐるぐる回っていたウイントフークは、溜息を吐くといつものソファーへドサリと身を投げ出した。
予想通りだと、しても。
殆どの家の長老が関わっている事がはっきりとした今、どう動くのか考えあぐねているのだろう。
「しかし、そろそろブラッドフォードに渡した薬の噂が。回る筈だ。そうすれば、動きが出るだろう。炙り出されるだろうな、光が降りなかった者が。」
「やはり、関係あると、思うか?」
「ここが。弱っているなら、それ以外は無いだろうよ。」
ふぅむ。
ウイントフーク曰く、あの薬は。
きっと、あの光と同じ効果を、発揮するだろう、と。
うーーーん。
大丈夫なのか?
「いいのか、そんなに。光を、撒いても。」
俺の質問に、視線を変えぬままこう、答えた。
「…あいつも。事態が長引く事は望んでいまい。気掛かりは幾つかあるが、ここは守りがあるしこの前は友人に石をプレゼントする、と。既に、種は撒かれているさ。後は群がる虫を、潰していけばいい。」
「…お前、ヨルにそれ、言うなよ?」
「言うと思うか?」
「いいや。しかし、回収不能な事態には、してくれるなよ?」
「それは俺じゃなくて、向こうに言って欲しいものだな。」
飄々とそう言って、実験机へ向かったウイントフーク。
もう、話は済んだという事だろう。
勝手に始まり勝手に終わるのはいつもの事だ。
俺も、一人ヤキモキしても始まらない。
とりあえず、ラガシュの所にでも行くか。
そうしてウイントフークの言う「気になる事」には蓋をして、再び調査へ向かう事にしたのだった。
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