透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

新しい出会い

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「「郷愁の回廊」とも、言われているからな。俺からしてみれば、にいる奴等なぞ、皆取り憑かれてる様なものだ。」


その日の、昼食時。

デヴァイについての話を聞いていた私に、ウイントフークはこう言った。

「取り憑かれてる………。」

「まぁな。、良かったらしいからな。それもどの位、昔なのか。分からんが。」


この後は、白の家へ行く予定だ。

幾つかの注意事項を聞いた後、私がデヴァイについての質問をしたところでウイントフークは逆に私に、こう訊いた。
「お前からは、見える?」と。

私は正直に「全体的に暗い、澱んでる気がする」と、言ったけれど。


それが、外が見えない閉塞感なのか、が。

本当に、黒いのかは。

まだ、解らないと思っていた。

結局、銀の家へ行っても大きな問題は起こらなかったし。
そう、嫌な目にも遭っていない。

寧ろ「嫌な目に遭う」前提で、銀の区画へ乗り込んだ事を少し恥じていたくらいだ。


どんな世界へ行っても、いい人、嫌な人がいるという事はもう知っていた筈なのに。
どうしてこう、先入観というものは私の頭を占拠するのだろうか。

カチリとスプーンを置き、溜息を吐いている私を慰めてくれるのはベイルートだ。

「まあ、ヨルがここへ来たからな。そのうち明るく、なる。」

私が悩んでいたのは別の方向だったが、ベイルートの気持ちが嬉しくて頷いておいた。

「私が来ただけで、明るくなるなら本当にいいんですけどね………。」

そう呟きながら、再びスープを口に運んでいると二人は顔を見合わせて肩をすくめている。
いや、すくめているのはウイントフークだけだけど。


「何しろ食べたらすぐに出るからな?とりあえず、いいと言うまでは大人しくしていろ。ほら。」

再びあのベールを受け取った私。
何故だかあの日、銀の家から戻った後「俺が預かる」と、研究室へ持って行ったからだ。

「………まさか。」

「阿呆。少し調整しておいただけだ。」

「調整?」

「ああ。お前、油断すると蝶やら何やら、出すだろう?それは膜の様な役割をする。少し厚目にしておいたからな。今日はまじない道具も多いし、何しろあそこは危険だ。」

「………。」


て、いうか。
そこまで言われると、逆に今から出そうなんですけど?

ニヤニヤしている私を、嫌な顔で見ながら「じゃあ早く支度しろよ」と食堂から出て行ったウイントフーク。

そうと分かれば私だって、急いで食べるしかない。
まじないが、私を待っているのだ。


「あらあら。お行儀が悪いわよ?」

「ごちそうさま!美味しかった。」

朝にツッコまれ少しむせてしまった。
シリーにお水を貰いながらも食事を終え、着替えに急ぐ。

特に、ドレスアップしろとは言われていない。
いや、ウイントフークが服装を気にするとも思えない。何も考えていないに、違いないのだ。

クローゼットを開け、少し悩んだけれどとりあえず無難なワンピース に着替えて、急いで部屋を出た。

「よっしゃ。」

そうして小さく呟くと、青の廊下を走り始めたのだ。






「ヨル、お前「お淑やか」とはどういうものか、解るか?」

「ベイルートさんに「お淑やか」を説かれる日が来るとは思いませんでしたよ……。」

黒い廊下を、静かに歩く。

あの、青の廊下を走ってホールに着いた途端、男三人に小言を言われた私は大人しく静々と進んでいた。

そう、浮かれて半分スキップをしながら走っていたところを叱られたのだ。

千里だけは、面白そうな顔をして笑っていたけれど二人は呆れ顔だった。
いや、この人は光ってただけだけど。


とりあえず「白も近い」というウイントフークの言葉の意味が解るのも、すぐだった。

こうして考えると、青がかなり遠かったのが解る。
とは言え、やはりこの空間がそう広く無い事も確かだ。遠いとは言え、30分も歩いていないだろう。

ま、時計持ってないから分かんないけどね………。


千里から聞いて書いた地図によると、白の区画は私達の空間から行けば銀の隣だった。

流石に銀の様に出てすぐに着く、という事は無かったがやはり近い。
あの大きな黒い扉を横目に通り過ぎ、少し歩くと。
白く、大きな扉が見えてきたのだ。


コソコソと肩のベイルートと話していると、もうそれはすぐ目の前にあった。

「………わ。」

いっけない。

パクンと口を閉じ、気持ち的に「気をつけ」をする。
そうして息を止め、大きな白を見上げた。


四角い両開き、白の区画への入り口。
その、白い扉には勿論美しい彫刻が施されていて。
「白」という雰囲気に相応しく、すっきりと風を描く様な曲線、さまざまな線が重なり合い模様を作る不思議な意匠だ。
やはり、銀とは雰囲気が全く違う。

目だけを忙しく動かしながらも、どうしても内部に期待してしまう心を、ぐっと抑える。

ここで既に、興奮し始めると危ない。
「何か起きたらすぐに帰るからな?」と釘を刺されているのだ。

一つ再び大きく息を吐いて。

そうしてウイントフークが扉の前に立つのを、じっと見て、いた。








「て言うか、結局。自分が行きたかっただけですか?…まぁ私はいいけど…。」

「でもヨルは他の色も見たかったんだろう?」

「………まあ。そう、ですね。」

何故、私がブツクサ言っているのかと、いうと。



「じゃあ後は入り口で集合だ。よろしくな。」

「はい。お任せ下さい。」

白の区画に入って、すぐ。

ここでもまじない人形に開けられた扉の、すぐ側で待っていたのはあの、男の人だった。
そう、私が「見られた」と思った、くるくる紺髪の彼だ。

すっかり銀の時と同じ様に、挨拶に行くと思っていた私は、のっけから拍子抜けして思わずツッコみそうになるのを我慢していた。
ウイントフークはその彼に、私と千里を預けると自分だけスタスタと奥へ歩いて行ってしまったのだ。


「ユークレースです。は、どうも。」

意外と気軽な雰囲気で挨拶をした彼は、千里をチラリと見ると「奥へどうぞ」と私達を案内してくれる様だ。

そうして私は肩に留まったままのベイルートに愚痴を言いつつ、歩いていたのである。


「そもそも。こっちは銀だ。他所に、挨拶に行く必要は無いんだろうな。」

「確かに。そう、ですよね…。」

最初の頃のベオグラードの態度を思い出し、一人頷く。
確かに、よく考えればこちらから挨拶に行く筈がないのだ。
すっかりウイントフークに騙されたと、思ったけれど。

しかし、よくよく考えるとあの人なりに私の為を思って連れてきてくれたのかもしれない。
本当なら。
一人で、来た方が楽に決まっているからだ。

「でも、逆に怖いな………。」

何かたくらんでいるのではないか。

そう、思ってしまっても仕方がないだろう。
うん。


しかし白の空間は予想通り素晴らしく、私のぐるぐるはすぐに何処かへ飛んで行ってしまった。

それに、堅苦しい挨拶なんて。
無いなら無いに、越した事はないのだ。

「ウフフ」

「気を付けろよ?」

そうしてベールの内側にいるベイルートに「大丈夫ですよ」と、目で挨拶をすると。

きちんと辺りを確認してから、思い切りキョロキョロする事に、したのだ。





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