透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

図書館

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「仕事だ!起きろ。ああ、千里はそっちの姿で、いい。」

「ひぅえっ?」

ベッドの上、おかしな声を上げ飛び起きた。

「へ、うん?」

視線を向けた時には既に、扉へ消えてゆく水色の髪と白衣。
寝ている乙女の部屋に。
勝手に入って、大声を出すのは如何なものか。


「え、………ていうか。仕事?って、なに………。」

再び横になろうとしている私に、目覚まし代わりのキーワードを言ったのは千里だ。

「………図書館、じゃないか?」

耳をピコピコとそばたてながら、紫の眼をキロリと光らせ部屋を出て行った。
多分、着替えて来いという事だろう。

「むん。図書館か………それなら起きねばなるまいな?」

まだ回らない頭で、身体は自動的にベッドから下りクローゼットへ、向かう。
やはり、「図書館」というキーワードは強力なのだ。


それに。

昨日の夜、チェックを兼ねてたっぷりと金色を注ぎ込まれた私は、自分からキラキラが漏れ出しているのを感じて、いた。

思い出すと、フワリと温かくなる身体、熱くなる顔、湯気が出ていそうな頭を扇ぐ。

そう、キラキラが漏れ出していることを自分で感じる程、体力は有り余っているのである。


そうして一人、誰も居ない部屋で金色の真似をして思い出しつつも、ゆっくりと身支度を始めた。









「随分と久しぶりだ。しかし君の好きな本は新しく入っていないと思うな?」

余りにも自然に、話しかけられたものだから。

「えっ。残念。」

反射的に、そう答えていた私。

「ヨル。」

ベイルートのピリリとした声で我に返る。

そう、ここは。
念願の図書館、しかし銀の家揃い踏みといういただけないおまけ付きの、魅惑の場所である。


急いで朝食を食べながらウイントフークから聞いた、その「仕事」の内容とは案の定ザックリとした話だった。

「本を片付ける仕事だ。」

そう、言っていたウイントフーク。

「そんなの楽し過ぎるじゃないですか。」

イマイチよく分からないがなんだか楽しそうな事だけは確かだ。
とりあえず図書館をご褒美に頑張っていた私は、そう答えてルンルンと浮き足立ってやって来たのである。
入り口から、まさか扉に話しかけられようとは。
思って、いなかったけれど。


立ち止まる訳にもいかず、白衣に続いて中へ入る。

元は何色なのかも判らなくなった古い扉は、しかし細部まで丁寧に磨き上げられた重厚感のあるアンティークだ。

しかし、私達以外にも人が入って来る扉の前に陣取る訳にはいかない。
とりあえず後でまた来ようと、入ってきた男性に会釈しつつも水色髪を追った。

勿論、待ってくれる筈がないからだ。


て、言うか。

デカっ。
広っ。

いや、流石に「図書」と言うのだから。
グロッシュラーの図書室より、広いとは思っていたけれど。

「…………予想、以上…。」

「これは凄いな。」

流石にベイルートも賛同してくれた。
この、図書館は多分まじないなのだろう。

天井迄続く本棚、太く巨大な柱の面も全体が書棚として機能しているのが分かる。
どこまで続いているのか分からない壁面は、勿論一面本棚だ。

中央に立つ棚は、人の背丈程の高さもあれば「どうやって作って、入れたの?」という程高いものも、ある。


そしてそのうちの僅かではあるのだろうが、しかし膨大な数の本が、床一面に。

散らばって、いるのである。

そう、まるでぶちまけた様に広がって落ちているその本を見た時に、私はやっと意味が解った。


「ここは、時折「震える」んだ。」


道すがら、言っていたウイントフークの言葉と「片付ける」の、意味。

それに、例えるならば余震の様に。
ここへ来てから、少しだけ場が揺れる時があるのが分かるのだ。


でも、これ………。
地震って言うよりは、「打ち震える」みたいな…感じ………?

時折身体に感じる微弱な振動と、何かの声の様な、音の様な、もの。

まるで、大きな誰かの中で打ち震えている泣き声を。
聴いている様な、そんな気分なのである。

なにしろ。
とりあえず、あまりいい気分ではない。


寧ろ、「泣いている」なら。

歌でも歌って、あげましょうかね………?


チラリと視線を飛ばすと、珍しくこちらを見ていた本部長に手招きをされた。

肩に掛かる髪を流し、頷いて歩いて行く。
今日はベール無しで、来た。

「お前の好きにしろ」と言っていたウイントフークは、特に咎める様子もなくそのままここへ来たのだが。

もしかして、今気付いたんじゃないでしょうね………。
これから怒られるとか、嫌なんですけど………?


チラチラと行き交う人に見られつつも、足元の極彩色を踏まない様注意して歩く。
何故だかウイントフークに「狐の姿」を指定された千里は、なんだか楽しそうである。

今日は片付けで、銀以外の家は不在の為この姿でもいいと判断したのだろうか。
まあ、本部長の考えなんて私には見当も付かないけど。


「今回は中々揺れがデカかったみたいだな?普段は男だけの仕事だがお前の他にも女の姿がある。良かったな、悪目立ちしなくて。」

「そう、ですね?」

床に散らばる沢山の本、各所に片付ける人達が数人でチームを組んでいるのが見える。

拾い集める人、仕分けする人、棚に戻す人。
その中には確かに、女性の姿も見える。
しかし見かける女性は全て、私の母親くらいの年齢だ。
どうしたって目立つ髪色、若い娘、そしてベール無しの姿。

解ってはいたが、想像以上に注目を浴びている事に今、気が付いた。
この人は、これでも「悪目立ちしていない」と言うのだろうか。

しかし、表立って近づいてくる人は流石に無くそれがブラッドフォードのお陰なのか、それとも先日の呼び出しの件なのか。
それについて私がぐるぐる考え始めると、本部長が本題を口にした。

「で?さっき扉がお前に話しかけていたろう?」

「はい?そうです、ね?」

嫌な予感。

ブツブツと「ベール無しは昔もあったのか…」と言いながらも私の姿を観察している。
今更、何処か見る所があるのだろうか。

この、隠さないことを決めた私の出立ちは、結局「似ている」疑惑に関しても「そのまま」を貫いている。
あの扉が勘違いしたのは、どちらなのか、誰なのか。


うん?
でも。
ディディエライトは、には。
来て、ないんだ………。


自分の中の事実確認をしている私を、そのまま引っ張って奥へ向かっているウイントフーク。

珍しい。
しかし、今日は千里が狐の姿だ。

声が響くこの場所では、自分で引っ張った方が早いと思ったに違いない。
何処へ行くのか、そちらに興味が移って静かに後をついて行った。



暫く奥へ歩いて、ウイントフークが立ち止まったのは少し大きめの扉の前である。

大きな柱に、ポンと扉だけがあるこの場所は異質だ。

どの壁にも本が詰め込まれている、この場所にある白い、柱。
そう、柱面に棚は無くただ、白いのである。

そうしてきっと、本部長の予想通り。

私を目の前にすると、その扉は再び同じ事を話し始めたのだ。


「随分と、久方ぶりだね。今日は何を?探してやろうか?」

チラリと茶の瞳を確認する。
無言で頷いた、この人は。

いや、解ってたなら何探してるのか教えといて下さいよ………。

私のジトっとした目をかわしながらも、顎で返事をする様言っている。


もう………知りませんからね?
適当に、言いますよ??

でも多分、入りたいんだよね………。
て事は?
ここって………。


正面にある、その扉はこの中にあるにしてはシンプルな扉である。
何も、表示などは無いが「この場所まんなか」「何も無い、この場所では特別な白い柱」「ウイントフークが入りたい扉」と、言えば。

「禁書室」

ポン、とその言葉が頭の中に浮かんで。

急に合点が入った私は、急回転でぐるぐるをしこの場での「最適解」を弾き出した。
まるで、肩のベイルートが乗り移ったかの様だ。


「青の本を、探してるの。中に。あるかしら?」

ちょっとだけ、お淑やかに。
訊いてみた。

「さぁて?残っては、いたか、いないか………。」

パッと思い浮かぶエイヴォンの事、青の家に残る本、ウェストファリアの禁書室の数と自分の部屋の本のこと。


うん?
あと何冊?あるんだっけ?

そうして再び私が、ぐるぐるを始めるのと目の前の扉がカチリと開くのは同時だった。


そう、多分私を「勘違いした」その扉は。

「どうぞ」と、禁書室への扉を開けてくれたのだ。



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