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8の扉 デヴァイ
全体礼拝 2
しおりを挟む扉が閉じた瞬間、この空間が別の場所だということが分かった。
「ブン」という感覚、何も動いてはいないが自分の磁場が移動した様な頭の中。
扉を潜ったあの感覚とも違う、何かが感じられて本能的に身体が強張る。
私の右にいた千里が左に寄り、右にはフォーレストが寄り添うのだけが分かって。
そのまま暫く、辺りを窺っていた。
周りの様子は少しも。
変わっていなかったからだ。
中央通路を入り口側から歩いてくる人、白の祭祀服の様なものを着ている男性が祭壇の横へ立つ。
それが合図なのか、横の入り口から見知った男が入って来た。
アリススプリングスだ。
私が初めてこの礼拝堂へ入った時に通った、祭壇へ近い入り口。
その通路は勿論、私達がいる銀の通路の前を通る。
目の前を通る際、一瞬だけ目を見開いたが直ぐに表情を改め祭壇へ向かって行った。
皆、この場の変化には。
気付いて、いないのだろうか。
隣のフードを脱いだ水色髪は、通常運転の様である。
極彩色と青緑は、ぴったりと私にくっ付いてはいるものの大人しく礼拝を見守る様子だ。
気の所為………だったのかなぁ?
私がそう、思い始めた頃。
壇上のアリススプリングスが、始まりの声を上げた。
あっ。
この人、悪い人じゃ、ない。
その、第一声を聴いた瞬間にそう解った。
しかし瞬時に飛び出して来た私の蝶、ミストラスと同じ抑揚の祈りを先導する声と渦巻く靄、沢山の澱みの濃灰と微かな純粋な色。
その、圧倒的な量に気圧されているうちに。
あっという間に、吸い込まれて行った大量の靄と、蝶。
その大きな飲み込む様な動きを前に。
私は、何もする事が、できなかったのだ。
「シッ!大丈夫だ。まだ。いるのは、解るだろう?」
耳元のベイルートの声。
「どうしよう」で頭の中がいっぱいだった私は、その言葉に自分の中を探り始めた。
いる。
確かに、私の蝶達はまだ私の中にいるのは、分かる。
でも。
あの、吸い込まれた子達は………?
何処へ、行っちゃったの……………??
サワサワとベイルートが私の髪を登るのが分かり、バレないのか気になって思考を止めた。
「大丈夫、ですか?」
「ああ。帰って来たな?なら、暫く大人しくしていろ。もうすぐ終わる筈だ。」
私を現実に戻す為に身を晒したベイルートを無駄にする訳にはいかない。
髪飾りの様に留まっている感触を確かめながら、辺りの様子を窺ってみる。
しかし。
辺りは何事もなかった様に、祈りは最後のフレーズに差し掛かり人々は頭を垂れていた。
えっ。
ウソでしょ?
アレって、私だけ??
え?
えーーーーー…………???
周りの人々に、特に動揺した様子は見られない。
寧ろみんな。
落ち着いて、祈りを捧げているのだ。
まるでそこに。
神が、座すかの様に。
音が耳に届く様になった頃。
再びの騒めきの中、背を押され手前の通路を無意識に進んでいた。
私の前には目印の様な極彩色、背後にはフワフワが居るのがなんとなく、分かる。
そんな中、「ああ、帰りはこっちなんだ」
そう、脳裏で考えながら。
私の中に、いない蝶達を確かめていたのだ。
「後で呼び出されるだろうな?」
「どうだか。少し様子が違った様に思えたが。」
「ああそれは。俺かも知れん。」
「うん?お前、何かして来たのか?この間、ヨルを迎えに行って悪戯でもして来たのか?」
「いいや?」
「ヨル。心配無い。いや、無いかどうかは、分からないがいないのは。暗い色の、ものばかりだろう?」
「…………。」
ベイルートのその言葉に。
私の中を、もう一度浚ってみる。
みんな、いる?
どう?
どのくらい。
いなく、なっちゃったの………?
私の呼びかけに応えて、蝶達が舞い出てきた。
色とりどりの、蝶がいるけれど確かに。
少し前に増えた、暗い色の蝶がいない。
「あの渦は、黒っぽかったからな。」
「えっ。ベイルートさんは、見えたんですか?」
この、広く明るい青の空間、私達のホールに辿り着く迄に。
その話をした人はいなかった。
「いや、こいつらも分かったろうよ。しかしスピリットにしてみればあまり異質ではないんだろう。驚いた様子がない。」
「確、かに………。」
千里は既に人型に戻っていて、ウイントフークと話しているし、フォーレストは。
まだ私に寄り添って、じっと黙っている。
うん?
私の前だけでしか、喋らないのかな………?
「とりあえず、俺はそう危険な場所へ行ったとは思わないけどな?お前達は繋がってるんじゃないか?探ってみたらどうだ。」
「探る?」
「そう。少し考えてみろ。いや、「感じてみる」方がいいか。まだ繋がっていれば、少し様子がわかるかもしれない。」
確かにいつも、私の気持ちに反応して出て来るあの子達ならば。
もしかしたら、何か感じるかもしれない。
みんな、大丈夫………?
目を瞑り、ぐっと自分の中へ入ると舞い出た蝶達が戻ってくるのも分かる。
仲間を探しているのが分かるのだろうか、そのまま蝶達が同調するのが分かり、しかし自分を拡げた私は。
「この空間にはいない」事が、解ってしまった。
でも。
多分。
消えては、いない。
苦しんだり、辛い目にも遭っていない様だ。
ただ、なにやら暗い空間を漂っているのだけは、分かる。
「あの、先が。在るって、こと?」
「おい。」
本部長の、少し高い声。
聴こえたんだ。
「それについては、食堂で。ゆっくりと、話そうじゃないか。」
えぇ~~………。
私、ちょっと落ち込んでるんですけど??
キロリと水色髪を睨んでみたが、既に後ろ姿のウイントフークはさっさと扉へ向かい歩いている。
「諦めろ。しかし、お前も。見たんだろう?」
そう言って私の腕を取る千里も。
きっと、あの台の下の黒い靄に気が付いていたに違いない。
そう、初めてあの礼拝堂へ入った時、とてもいい雰囲気だと思ったのだが一つだけ。
異質な、黒い空間があった。
あの、祭壇の前アリススプリングスが祈りを先導していた場所にある、台の下に。
モヤモヤと渦巻く空間があったのだ。
もしかしたら千里も何か知っているかもしれない。
教えてくれるかは、分からないけど。
なにしろここでぐるぐるしていても仕方の無い事だけは、確かだ。
「大丈夫。」
そう言って千里の手を外し、フォーレストの背に乗せフワフワを確かめる。
「うん。」
そう言って一つ頷くと。
新しく生まれた小鳥達が薄茶の角に留まり、励ます様に歌ってくれる。
それに合わせる様に、毛を撫でる手にリズムを刻みながら。
極彩色の後を追って、扉を潜って行った。
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