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8の扉 デヴァイ
行き着く先は
しおりを挟む「おい、そろそろ起きろ。」
「へっ?」
ユサユサと、揺らされて目が覚めた。
「ふん?」
「お前、急にあれから寝こけてここまで運んだんだぞ?感謝しろ。」
「うぅん??」
見ると、辺りは見知った本部長の部屋、いつものソファーである。
しかし。
きっと食後に眠り込んだ私をここへ連れて来たという事は。
今日中に話を聞く事を、諦めていないに違いない。
まあ、確かに。
私も本部長の知恵を借りれるものなら、借りたいけれど。
「千里、は………?」
千里も何か知っているだろうと思っている私は、同席しているものだと思い込んで極彩色を探していた。
まさか、視界に映らないあの色は。
一人、逃げ果せたのだろうか。
「狡いな………多分、千里も何か知ってると思うんですけどね…?」
「ああ。そっちの話は、もう聞いた。」
「だからか!」
やられた。
きっと、その話の内容も教えてくれるものとくれないものがあるに違いないのだ。
だから一緒にいる時に聞きたかったのに~~!
「まあ、いい。とりあえず飲んだら話せ。」
一応、私が疲れていると思ったのか珍しく気を遣った本部長は糞ブレンドを入れてくれた。
ありがたくカップを手に取ると、何から話そうかと頭の中を見直してみたけれど。
うん?
そんな話すこと、無くない?
確かあの廊下が明るくなった話は、したでしょう?
それで………。
あの、台の下が…でもそれは千里から聞いてるよね?
それなら?
「えっと。あの、台の下の話は聞きましたよね?」
ウイントフークが何を聞きたいのかいまいち分からない。
できれば、質問してくれると助かるんだけど。
その私の様子を見て、きっと意図を察したであろう本部長はしかし、それを許してはくれなかった。
「ああ。しかし、お前から見た様子も聞きたい。最初に礼拝堂へ行った時にあそこには気付いていたんだって?その時の様子と、今日、あそこで。何があったのか、見たもの全てを話せ。」
ううっ。
それって、めっちゃ長い話じゃん。
自分の記憶に自信の無い私は、とりあえず始めから、一つ一つ、ゆっくりと話し始めた。
黒い靄の話、礼拝堂の扉が閉まってから何故だか空間が違った気がする話、祈りが始まってから。
アリススプリングスがミストラスに似ていた話と、きっと「力」が。
吸い取られて行く、話だ。
時々考えながら話す私に相槌も打たずに聞いていた本部長は、話が終わるとこう言った。
「で?お前は、その力がその靄の中へ吸い取られた、と。感じたという事だな?」
「そう、ですね。多分。あそこに………。」
「その濃い灰色と、少しだけ綺麗な色がある力と、お前の濃い色の蝶。でも、目を開けても見えなかった……。」
いつもの様にぐるぐると周り始めた本部長。
独り言なのか、私に訊いて、いるのか。
とりあえずは私も自分の中を、ぐるぐるしていた。
そもそもあの礼拝堂に、悪い気配は、無い。
でも、あの扉が閉じた時。
一瞬で何処かへ移動した様な、時空がズレた、様な。
そんな気がしたのも、確かなのだ。
その後飲み込まれて行った、あの、力であろう色の靄。
もしかして?
ズレたから、「繋がった」のかな………?
あの、黒い靄の先に?
ていうか。
何処?
でも。
グロッシュラーと同じく、「力の行き先」が。
「長のところ」ならば?
「えっ。いや?でも………黒い、しな…?でも黒いかも。しれない………?」
長が居る場所、それはきっとあのアリススプリングスの家の奥、地図の場所の筈だ。
私の勘は、そう言っている。
多分、それは確実だろう。
それで………その場所が?
うん?でも、こないだシンが…。
あれ?あれは夢で?
どう、なったんだっけ………?
薄らとしか思い出せない、何か不思議な木立の様な空間にいる光るシンと、あの人。
多分、その人が。
「長」、なんだよね………?
しかし、自分の中をどう確かめてみても。
私の蝶が居る、その暗い空間とシンがいるであろう、少し暗いが清浄なその空間とが結び付かない。
多分、違う場所の筈だ。
きっと「同じ」ならば。
流石に、判ると思うのだ。
えーー?
それなら?
ここでの、力の行き先って違う場所なの??
長は?
力を、注がれてるんじゃないの?
うん?人に、力って注げるのかな………?
「お前も。いつも、注がれてるじゃないか。」
「ヒャッ!!………っくりしたぁ。千里、止めてよ!」
完全なるぐるぐるに沈み込んでいた私の背中に、尻尾を差し込んだのだ。
まさかの感触に、思いっきり飛び上がってしまった。
プリプリしている私を尻目に、話を繰り返す狐。
「何を考えてたんだ?「人に力を注ぐ」?」
「あっ。えっ、はっ…!」
急に千里の言った意味が分かって、どんどん顔が熱くなってきた。
えっ。
やだ、嘘。
でも。
長は、まさかあの方法じゃ、ないでしょう………??!
一旦深呼吸して、パタパタと顔を冷ます。
するとタイミングが、良いのか悪いのか。
その、元凶が部屋へ入ってきた。
金色だ。
「あの後の事だが………。」
チラリと私を確認すると、なんだか落ち着いたらしくそのままウイントフークの所へ話に行ってしまった。
えっ。
助けて欲しかったのに!
まだすぐそこにいる千里は、ニヤニヤしながら私を見ている。
勿論、狐の姿だけれど。
何故だかニヤニヤしているのは、分かるのだ。
「ちょっと。何か、知ってるんでしょう?教えてよ。」
悔しくなって、パッと捕まえ膝に抱き逃げられない様にする。
そうして紫の眼を、覗き込むと。
その、美しさに負けないよう、気を強く持って問い詰めにかかったのだ。
「俺達がそのまま行った理由は、お前から目を逸らす為だ。」
「………ふぅん、成る程。それで?あの黒い靄は、何処に繋がってるの?知ってるんでしょう??」
「………まだ。知らない方が良いとは思うけどな。とりあえずお前の蝶達は無事だろう。しかし、お前の側にいれば浄化が叶ったろうが、きっと向こうでは。あのまま、だろう。」
「………無事なら。また、会えれば大丈夫だよね?」
「多分。あれはあれで、ああいうものだからな。それ自体で舞っている事に問題は無いだろう。何処にいるかは、あいつに任せる。」
そう言って千里が尻尾で指したのは、金色だ。
まだ、ウイントフークと話し込んでいる金色も勿論礼拝には参加していた筈だ。
あの様子を見て、どう思ったろうか。
それに。
私に、千里が教えない事を教えてくれるだろうか。
………微妙。
でも、どちらにしても無事ならば。
あまり心配し過ぎない方が、いい。
「あの子達は大丈夫」、そう強く思って、私は私のやることを。
ここで、しっかりやらなければならないからだ。
うん?
でも「私のやること」ってそのままなこと、だよね………??
なんとなく、こんがらがってきた所であの二人の話が終わった。
近づいて来た金の瞳に、上から下までじっと見られて。
折角冷めてきていた、顔がまた熱くなる。
「なに。」
少し言い方が冷たかったかもしれない。
しかし。
私は恥ずかしさに、顔を手で半分、隠していた。
お化粧をするのは久しぶりだし、自分でやるのは初めてだ。
それに。
すっかりお昼寝までして、きっともう顔はぐちゃぐちゃに違いない。
ちょっと、乙女心を察しなさいよ………。
いや無理か。
そうして私達は、暗黙の了解で。
書斎を出て、斜め向かいの私の部屋へ向かったのである。
うん。
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