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8の扉 デヴァイ
言葉にすると
しおりを挟む「愛してる」とか 「愛」とか
「光」とか
「恵み」とか 「癒し」とか。
「言葉にすると。なんか、陳腐………って言うか、「解ってんの?」って自分でも思うし、解ってるのかも分かんないし、でも。」
「?」
「だから。謳う、のかもね…………。」
店主不在の、店の中。
今日も天井から下がるドライはモッサリとこの空間を包んで、隙間から降りる光が優しく店内を照らしている。
空が、見えたからか。
以前よりも種類が増えた気がするハーブやハーブティーの袋を眺めながら、暫し久しぶりの魔女の店を散策である。
そう広くはないから、多分すぐに終わってしまうけれど。
しかし、沢山の魅力的なものがあるこの店内をじっくり見ようと思えば、明日までだって見れる気がする。
「ふぅむ。」
手に持ったままだったベールをテーブルに置くと、腰に手を当て店内を本格的に見る事にした。
そうして暫く。
幾つものテーブルを渡り歩き、美しいガラスに入った何かの実を眺めていると、入り口のベルが鳴る。
「やあ、待たせたね。」
「イストリアさん!お久しぶりです!」
既に懐かしい気すらする薄茶の瞳へ駆け寄ると、ぐるぐる周りながらあれこれ訊く。
「私も畑に行けますか?子供達は?みんなどうですか??空はどんな具合に?お日様はどのくらい出ますか?」
そんな私の様子を見て「ハハッ」と笑う、イストリア。
中二階を指すと、チラリと金色を見て頷いているのできっとお茶にするのだろう。
どうやらあの人はまた参加しない様だけど。
「いただきます!」
私は勿論、即答していい音のする木の階段を駆け登った。
「どうだい、向こうでの生活は?でも君の空間にしたのだから、過ごし易いだろうね?そのうち私も遊びに行きたいものだな………。」
「え?今すぐにでも来て下さいよ。全然、大丈夫ですよ?」
あのフェアバンクスの空間は、少し離れているし基本的にお客様もそう来ない。
イストリアならいつでも行き来できそうなものだが、無理なのだろうか。
そう言えばまだ来てもらった事はないのだ。
ピンクの花に緑の葉の紋様が美しいカップに注がれる、紅いお茶。
満たされてゆく紅とギリギリまで注がれるその様子に、今日は紅茶なのだと判る。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
ゆっくりと細い取手を手に取り、香りを嗅いでいると、返事が来た。
「こちらはまだ、手が離せない場所が多い。君の所にはゆっくり行きたいんだ。それに、どうしたって館は通るからね。まだそう頻繁には、出入りできないだろう。」
「もう少し。もう少し、人の動きが多くなって女達が動き出せば、違うのだけどね。」
その言葉に顔を上げる。
確かにパミール達は「私達はまだまだよ」と、言っていたけれど。
イストリアがこう言うのならば「絶対、無い」訳では無いのだろう。
それとも。
誰も動かない、という状況もあり得るのだろうか。
いやいや、私とフリジアさんで行くもんね………うん、そうすればいいじゃん。
でもその場合、誰に許可取るんだろう?
私のぐるぐるを微笑んで見ながら、お茶を勧める薄茶の瞳。
確かに私の手には、まだ熱々のカップが握られたままだ。
フーフーしながら、口に含むととても、美味しい。
爽やかな香りと少しの甘さが絶妙なブレンドティーだ。
「うーーーん。美味い。」
「それは良かった。それでだけどね………。」
そうしてイストリアは、さっき私が矢継ぎ早にした質問の答えを述べ始めたのだ。
「畑に関しては、この間の石で問題は無いよ。ありがとう、あれもまた素晴らしい石だったね?結果的に子供達の畑には撒けなかったから、見せなかったがアレは喜んだろうな…」
「そう思います。」
「しかしこの頃また、力が漲っている様だね?」
「えっ?」
確かにあの星屑は、これまで私が創った中でも最高級の美しさだ。
しかし少しの含みを持ったその問い掛けに、他にも意味がありそうだと首を捻る。
しかしその答えは、すぐにやってきた。
「さっき、歌った?のかい?暫くの間太陽が綺麗に見えて、今迄で一番、日が差したよ。君が神殿にいると聞いていたからもしかして、と思ったんだが。」
「えっ。あっ、謳いました。うん。」
あの、頭上から眩い光が降りた時。
あれは、本物の「お日さまの光」だったんだ………。
想像すると、自然と笑みが出る。
一人ニヤニヤしている私を他所に、話は続く。
「それはとてもいいね。しかし、それならまだ暫く外はお預けかな。「君と光」は、どうしたって繋がってしまうだろうし、子供達の態度もきっと危ない。何より君が隠そうとしていても、「君に対するみんなの態度」から、勘繰る者がいるだろう。今はデヴァイからの人間もいるからね。」
「…………確かに。」
「まあ、そのうち落ち着くだろう。しかし私の予測からいって君がこちらへ姿を表せるのは。冬の祭祀の後だろうね。その頃にはアラルエティーの扱い、畑の様子、諸々落ち着くだろう。」
「えっ、アラルはどうですか?大丈夫ですか?」
思ったよりも、グロッシュラーを味わうのは後になりそうな事に驚く。
もっと気軽にお庭感覚で行き来したかった私としては、かなり残念な結果だ。
しかし、イストリアの返事を聞いて少し楽しそうだとも、思ってしまった。
「あの子は思ったより肝が据わっているね。頑張っているよ。この頃は子供達のウケもいいし、あの子の畑も順調だ。祈りも、美しい。」
「それに、太陽が出ただろう?冬の祭祀は通常、まだ先だけれど太陽と作物の様子からしてこれ迄とサイクルが変化している可能性がある。君が移動してからはそれについても調べ始めていて、ウェストファリアが張り切っているよ。もしかしたら、祭祀も早まるかも知れない。」
「えっ。なんですかそれ、楽しそう。」
「まあ、あまり急激な変化でも、困る。その辺りは様子を見ながらだけどね。だからと言っては何だが、君には冬の祭祀も参加して欲しい。多分この前と同じくこちらの神殿で祈る事にはなりそうだが、やはりこの大地には「君」が必要なのだろうな。さっきの光を見て、そう思ったよ。」
優しい黄味を含んだ、茶の瞳が緩りと細まる。
あの光の柱の暖かさが思い出される様な、そのふんわりとした瞳に、言葉が出ない。
「……………。」
なんか、泣きそう。
そんな私の様子を見ながら、席を立ち後ろの棚を探り始めたイストリア。
きっと少し、時間をくれるつもりなのだろう。
その心遣いがまた私の心にポッと、灯りを燈す。
あの時、繋がったこの大地のこと。
旧い神殿が、応えてくれたこと。
少しずつ、変化しているのだ。
「なにか」が通った、グロッシュラーになって、また新しい世界が始まること。
繰り返す歴史の、止まっていた部分が動き始めたこと。
きっと、これまでならば。
また奪われ、争いが起こり「無に帰した」と言われている、豊かさ。
繰り返さない様にする為に、私達ができること。
それは。
………なんだろうか。
「なにか。「大きなもの」である、必要はない。」
うん?
突然、降ってきた金色の、声。
いつの間にか私の背後に立っていた彼が、突然そう言った。
きっと私の顔が言っているのだろう、続けてこうも、言う。
「お前が。撒いているものは、なんだ?」
私が?
撒いているもの?
「………星屑?光?………でも優しい魔法が、いいな…。」
ポツリ、ポツリと思っている事が、口に出ていたのだけど。
顔を上げると、優しく微笑む薄茶の瞳が私達を、見ていた。
うっ。
なんか、恥ずかしいのは、何故。
「君たちは。………いやまあ、それはいいか。なにしろそういう事だろうな。君は君の。思う通りに。」
ニコニコしながら再び椅子に座り、そう言うイストリア。
その話し方で、何を言われているのかはピンと来る。
そうか。
「輪を。回せば、いいんですもんね?」
「そうだ。難しい事は私達の役目だ。君はそのままで。それが、一番のギフトだよ。私達にとっても、ね。」
「…………いつも。ありがとうございます。」
「それはこっちのセリフだけどね?まあ、それも含めて君のいい所だ。………可愛くて仕方が無いだろう?どうだ、ブラッドフォードとは?」
後半、背後の金色に揶揄う言葉を向けつつお茶のお代わりを用意してくれるイストリア。
こうして金色を揶揄うのは、きっとイストリアくらいだ。
何故だか背後は振り向けない。
ううっ、どうしよう。
そうしてイストリアのクスクス笑と共に、その他の報告も聞く事になったのだった。
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