透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

見えない 種蒔き

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この間、確信を得た私は。
とりあえず、実行をすることにした。


「お前、この頃一体何をしてるんだ?」

「え?まあ、いいじゃないですか。実験ですよ、実験。」

茶色の瞳をかわしながら、パクパクと朝食を頬張ると楽しそうな紫の瞳が揶揄ってくる。

「種蒔きを、始めたんだよな。」

「まあ、そうとも、言うね?」

「………何か起こす前に、報告だけはしろよ?」
「ハイハイ」

何故だか極彩色にそう注意した本部長は、既に飲み終わっていたお茶をリトリに託すと食堂を出て行った。


カチリと扉が閉まると、くるりと紫の瞳へ向き直る。

「知ってたの?」

「まあ、俺には見えるからな。」

「そっか………そうだよね。でも、他の人には見えないよね?」

「まあ。には、見えないだろうな?」

ふぅむ?


鼻に届く、いい香り。

食後のお茶が運ばれて来て、シリーと顔を見合わせニコリと笑う。
今日も若草のワンピースがよく似合う、飴色の瞳は優しく細まって私にまた新しい「色」を齎すのだ。

「うん、この組み合わせもいいね。」

「ありがとうございます。エプロンも幾つか用意してもらったので、毎日選ぶのが楽しいですよ。」

「うんうん。」

選ぶ楽しみがあるのはとても良いことだ。

これ迄は無かった、「選ぶ」こと。

選べる楽しみと色を組み合わせる楽しみ、それを纏う楽しみと、私が愛でる楽しみ…………。

「うーーん、最高じゃないのか………。」

「何言ってるんだ。今日も行くのか?」

「そうだね?とりあえず特に用の無い日は、散歩がてら行こうと思ってる。結構歩いてるだけでも楽しいしね?」

「なら、後で迎えに行く。」

「分かった、ありがとう。」

何処へ行くのか、食堂を出て行った極彩色の後ろ姿を見て「狐の方が可愛いんだけど」なんて思いつつ、お茶を飲む。


この頃、黒の廊下を彷徨き始めた私は千里とフォーレストを引き連れ散歩と称してぐるぐると回廊を歩き回っているのだ。

本部長をして「郷愁の回廊」と言わしめたここ、デヴァイの廊下は確かに造り的には「回廊」である。

そして、黒い。
少し、暗い。

でも、美しくは、ある。

もし、この空間が。

少しでも、明るくなって?

途中、途中にある黒い窓から。

「青」が、見えたなら。


「それ、即ち。最高、であって。」

そう確信した私は、散歩がてら「なにか」を「振り撒く」作戦を開始したのである。


ぶっちゃけ、ノープランだ。

「それ」をして、「どう」なるのかも、よく分かっていない。

「どうにもならない」のかも、知れないけど。


「やらぬなら、やってから言え、ホトトギス。」

「何、言ってるんですか?」

クスクスと笑うシリーの可愛さに癒されながらも、お茶を飲み終わり席を立った。

とりあえずは実行あるのみ、なのである。

「ごちそうさま!今日も美味しかったよ。」

「はい。ありがとうございます。」

そうしてまだクスクスと笑うシリーに手を振ると、支度をする為青の廊下を戻って行った。






「ねえ、千里っていつからに、いるの?スピリット達はこっちに出れないみたいだけど。どうやってあの地図、調べたのよ?」

つらつらと疑問を垂れ流しながら、視線を彷徨わせ黒の廊下を歩く。

右には豊かな極彩色の髪、そっぽを向いている千里は今日、人の姿だ。

正直、狐と羊の方がバランスが取れると思っている私は「なんで」と一言言ったのだが「今日はこれ」と言われ、訳は分からなかったが頷いておいた。
千里がそうするならば、彼なりの理由があるのだろう。

そう思い、左にフワフワ、右に派手なまじない人形、の体で散歩と洒落込んでいるのである。

いや、散歩というよりは調査なのか、なんなのか。


思い付きで黒の廊下を歩き、「なにか」を「溢し」始めた私の楽しみは調度品を堪能することでも、ある。

そう、「溢す」「撒き散らす」と言っても何も無い所では中々難しく、しかしこうして美しい物があったならば。
観察していると勝手に溢れ出してくるのだ。

「全くもって、便利だな。」

千里に「便利なもの」扱いされても気にならないこの時間を、私は殊の外気に入っていた。


そこまで巨大ではないこの回廊は、何度も巡っているうちに何処に何があるのか大体は把握出来る様になってきていた。

「今日は赤の方へ行こうか。」

「………赤か。」

「なに?駄目?」

「いいや?行こうか。」

気になる素振りの極彩色だが、反対はしていない様子。

それならば調査を進めねばならぬだろうな?

以前千里に聞いて作った地図に、素敵な調度品を書き込む事を「調査」と呼んでいる。
少しずつ埋まってきているその地図を、夜眺めながら寝る前のお茶を飲むのがこの頃の楽しみでもあるのだ。

「いざ、行かん。」

そうして赤付近の地図を埋めるべく、私達はいつもの様に歩き始めたのである。






「私は 小さな~星 ♪ 」

「喜ばしいこと」

私の溢した金平糖の匂いを嗅ぎながら、フォーレストが何やらいつものセリフだ。

小さな声で歌いながら美しいものを観察していると、余計に溢れる事を発見した私は、そうする事にしていたのだけど。
歌は意識しなくても、出る。


美しい彫刻が施された大きな箱を舐め回しながら、「ほうほう」言いつつ違いを確認していた。

各家の付近にある、調度品は勿論場所によって違う。
だが、一定の傾向がある事を発見していた私は、赤の付近の共通点は何かを探るべく、大きな箱をぐるりと検分していた。

「赤はあんまりイメージ無いもんなぁ。入った事、無いし。」

ブツブツ言いつつ、モチーフを眺める。


例えば白の区画ならば、「線」を意識した意匠が多くやはりあの大きな扉に似た彫刻が多い。

アール・ヌーヴォーをもう少しスッキリさせた様な意匠が多い白の区画の辺りに対して、赤はもう少し重めだ。

「しかし。この、芸術を一部で独占し閉じ込めたままとは。けしからん。これは美術館にすべきではないか。」

独り言を言いつつ、扉を見ればヒントがあるかと思い付いた。

どの家も、あの大きな入り口の扉にはその家を表す紋様が描かれているからだ。

彫刻なのか、色なのか、塗りなのか、絵なのか。

それはそれぞれ違うのだけれど、その家の「顔」である扉はやはりその家の「色」をよく表し、その「持つもの」を上手く表現していると私は思っている。

赤の扉には何が描かれているのか。

ワクワクしながら振り返ると、「ポスン」と大きな胸に突っ込んだ。

「むん?」

見上げた長い髪が、少しピリリとしているのが、分かる。
その時、声が聞こえてきた。

聞き覚えの、ある声だ。

「やあ。久しぶりだな?」

げっ。

これは。
私の、天敵………って訳じゃ無いけど、苦手な。

チラリと大きな体の陰から顔を出す。

すると、見知ったあの紺色の瞳がキラキラと私を覗き込んでいるのが見える。
赤ローブからチラリと見える、その遠慮の無い視線と水色の癖毛は相変わらずのハーゼルであった。






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