透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

赤の区画 2

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「て言うか俺は。てっきり、隠しておくんだと思ってたけどな?」

「?!」

いきなり背後からヒョイと赤ローブが現れて、軽く飛び上がってしまった。


奥へと進んだ私達は、赤ローブの集団が見えなくなった場所で一旦立ち止まっていた。
少し先に、お店であろう素敵な小さい洞窟達が並んでいるのが見える場所だ。

これからお店が見れるのかとワクワクしていた私は、二人の話し声を背後に、顔はしっかり明るい店先を向いていたから。
視界に突然飛び込んできた赤いものに、数センチは飛び上がったと思う。


この人、パーソナルスペース、おかしくない??

そう思いつつも、何の事だか判らずに首を傾げてみる。
そう、私には隠すべき事が沢山あって、どの事を言っているのか判らないからだ。

チラリと極彩色を探して見るも、そっぽを向いている彼。
聴こえているが口を挟む気は無いのだろう。
それならあまり話してはいけない事では、ない筈だ。
きっとすぐにボロを出す私を止めないという事は、そういう事なのだろう。

そう勝手に判断して、きっと「見た目」の事だろうとアタリを付ける。
それか、この人があの時の人達ならば「金ローブ」の事か。

どちらにしても私が「長の血縁」という事に変わりはない。

とりあえず様子を見ようと「何の事ですか」という表情を貼り付けて、紺色の瞳を見上げた。


「ふぅん?意外だな。でも、逆に上手くいったのかもな?」

「何がですか?」

そんな私の顔を見て、同じく首を傾げたハーゼル。

「いや。婚約の件だ。結局、青の奴と解消しても、ブラットフォードに、狙われてる訳じゃないだろう。上手く目を逸らせたな。」

「………そう、ですか?」

もしかしてそれは、私が「悪い女」的な事になっている件だろうか。

それと、隠す?
何か関係、あるっけ??

首を捻っていると、答えが降ってきた。

「一部の者しか、知らなかった事実を今や殆どの者が知る事となったからな?ある意味、隠すよりは上手い手だ。みんなが狙うならば逆に手は出し辛い。姿は晒すし、薬も特別。いやはや、俺の予想はやっぱり当たってたって事だよな。」

何故か得意気なハーゼル。

しかしこの言葉を聞くに、やはり私がだという事を、「みんな」が知る事となった、という話なのだろう。
「噂は風の様よ」と言っていたのは、ガリアだったかパミールだったか。

きっとあの全体礼拝から、私の姿の件については殆どの人が知る事となったのだろう。
それが本当に抑止力になっているなら、いいのだけど。


ふむふむと一人、頷きながら店の並びを眺めていた。
ハーゼルの話は、半分独り言の様な納得で終わったからだ。

「どうして方向転換したのか、とか。危険はどうするのか、とか。まあ、君に他意は無いんだろうな。見てれば判る。でも、周りはじゃないのが問題か………。」

何やら勝手に悩み始めたハーゼルを放っておいて、少し離れた場所に立つ極彩色に確認をしに行く。
できれば店が、見たいのだけど。

きっと言いたい事が分かるのだろう、紫の瞳はチラリと私を見ると無言で首を横に振った。

解ってはいたが、やはりガッカリは、する。
チラチラと小洞窟を見て、小さく溜息を吐いた。


あの、小さな洞窟にそれぞれ灯る、揺れる灯りにカラフルな小物達。
ううっ、絶対可愛いに決まってるのに…。
赤って、何を扱ってるんだっけ??
でもあれは絶対、可愛いよね。少し民族チックなのかな………。


しかし。

しょんぼりしながらもぐるぐると妄想している私に、とても魅力的な提案がやって来たのだ。


「仕方無い。約束だ。「秘密の場所」を見せようじゃないか。」

「えっ、秘密??」

くるりと振り返った勢いに、何故だか笑い出したハーゼル。

「まあ、ついてきな。」

そう言って、正面に見えている店の並びとは違う、隅の方へ歩き出した。


向かう方向には一際暗い一角、少し色の違う岩肌のも中々楽しそうだ。
薄暗く先の見えない感じが「いかにも」という雰囲気である。

名残惜しいが、店ならまた来る機会があるかも知れない。
チラリと振り返り、可愛いらしい店を確かめつつも赤ローブについて行った。






うーーーん?
思い、出せない。

何だっけ………四文字だった気は、するんだけど??


少し柔らかい「コツコツ」という足音、重さの違う三つの音だけが木霊する、この、静かな空間。

「ああ!「セレベス」だ!」

急に大きな声を出した私の前では、フードの外れた水色の癖毛が揺れている。
きっとまた、笑っているに違いない。

しかしこの場合は、仕方が無いだろう。

私はハーゼルの相方、グロッシュラーでいつも一緒にいたもう一人の図書室のネイアの名前が思い出せなくて一人、心の中でウンウン言いながら歩いていた。

ハーゼルに続いて入って行ったのは少し暗い、洞窟なのか、穴なのか。

そこは、薄暗い通路が迷路の様に延々と続く、見るものの無い濃茶の道だったからだ。
その、なんとなく下っている様な何も無い道を、黙って歩く二人の男。

私のぐるぐるも、捗ってしまうのは仕方が無いだろう。
うむ。


「もうすぐだ。」

少し浮いた声が、そう教えてくれる。

多分、まだ笑ってるな………。

しかし、「もうすぐ」という言葉と「約束」というさっきの言葉、それの意味する所が分からなくてとりあえず訊いてみる事にした。
すぐに着くと思い、訊かなかったのだが存外道は長かったからだ。

「約束、って誰としたんですか?何処に向かってるの?」

訊きたい事はもっとある様な気はしたが、とりあえず思い浮かんだ言葉が口を突いて出る。

その問いに、含みのある顔で振り返った紺の瞳。

一応始めは「僕」と言っていたハーゼルも、デヴァイここでかしこまるつもりはあったのだろうか。
しかしすっかり「俺」に戻った彼は、怪し気な声色まで出し口の横に手を当てる。

そうしてヒソヒソと話し始めたその「秘密」は、とても興味深い内容だった。


「俺の予測では。何処の家にも「秘密」の場所は、多分ある。」

「えっ?」

「秘密の場所」?
さっきも言ってたけど。
何が、秘密なんだろうか。


キョロキョロと辺りを見渡しても、土か岩か、秘密がありそうには見えない。

そんな私を面白そうに見つつも、再び口を開くハーゼル。

「多分、昔使われていた何かだと思うんだけどな?とりあえずここだ。」

そうして一見、何も無い壁に手を当て力を込め始める。

すると。
フワリと一瞬、赤ローブが揺れた。


「えっ。」

少しだけ光が漏れる隙間が現れ、「それ」はどんどん筋になり伸び、扉なのだと認識できる頃には。

すっかりとその部分だけ、色が変わった扉の様なものが出現したのである。


そのままグッと力を入れ、ハーゼルはその扉を押し始めた。
ゆっくりだが、意外とすんなり奥へとズレてゆく扉。
開くというよりは、ずらして中へ入る形なのだろう。

いちいちこれやるの、大変そう………。

そんな事を思いつつも、その先に何があるのが目を凝らして。

その、赤黒い岩の奥を見つめていたのだ。



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