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8の扉 デヴァイ
作戦本部+メディナ
しおりを挟む「俺が呼んだ。」
固まっているラガシュを見ながら、しれっとそう言っているウイントフーク。
いきなり現れた、「女」の存在に。
男達が固まっているのは、無理もないだろう。
しかし、メディナは流石青の現当主と言うだけあって俺達の態度は気にする事なくラガシュが空けた席に収まった。
そうして。
その意図をウイントフークが説明し始めるまで、俺達は気まずい時間を暫し味わう事になったのだ。
まあ、俺は隠れているだけだがな?
ぐるぐると周っていたヤツは、考えが纏まったのかピタリと止まると口を開いた。
「俺もお前らを糾弾する為に呼んだ訳ではないからな。この、世界に存在する者は。誰しもが何かしらの片棒を担いているんだ。俺も、例外じゃない。」
きっと後半の意味は解っていないだろうが、その言葉を聞いて安心した様子の若者達。
ラピスの事、フェアバンクスの事、レシフェの事。
色んな事が頭を掠めているうちに、どうやら話は進んだ様だ。
きっと始めに貴石の話をしたのも、このメディナが関係しているからだろう。
二人が話す内容を若者達は黙って聞いていた。
いや、口を挟む術が、無かったとも言うな。
兎に角、それは。
きっと長い間、デヴァイでは「当たり前」だったであろう、その場所の在り方の話だったんだ。
「何故、セフィラを引き取ったのかその辺りは解っていないのか?」
「いいや。それは暗黙の了解だろうよ。そもそも、男の子なら普通にこちらへ混ざるんだ。誰が、どう、なのか。それは本当の所、母親達と連れて来た男しか、分からない。」
「まあ、色々な意味での「暗黙の了解」だろうな。それは仕方が無いのかも、知れん。しかし母親はどうしたんだ?」
「そこまでは………。お前さんは、知ってるんじゃないのか?」
「まぁな。だが、「本当のところ」は、分からない。知りようが、無いからな。しかし信用できる筋から聞いた話だと、「消えた」という事なんだ。」
「消えた………。」
「ああ。それで?いつから、在るか分かるか?」
「そんなのお前さん、デヴァイが出来てすぐじゃないのかい?知りようがないよ、それこそ。しかしね、巧妙だね。さっきの話、聞いていたが。概ね、合っているだろうよ。誰も、表立っては言わないし、考えもしないのだろうが。いいや?考えるのを、避けているのだろうね。」
「まあ。みんな。隠しておきたい、部分だろうからな。だから、成り立つんだ。」
「…………本当に嫌らしいよ。」
そう言って口を噤んだメディナ。
やはり女性としては、複雑な想いが色々とあるのだろう。
それは俺の、思いも付かない、ものなのだろうけれど。
どうすればここが、もっと良くなるのか。
少しでも知恵を働かせようと、考え始めると再び話が始まる。
しかし、話始めたのはブラッドフォードであった。
「誰、が?こんなこと、を?」
シン、とする書斎、その答えを知る者はいないだろうが。
意外にも隣の男がその問いに答える。
きっとそいつしか知らない、その話は俺があの図書館で聞いた話の続きであろう事は、すぐに気が付いた。
「誰、でも無いのかも知れん。もしかすれば。」
「どういう事だ?」
訊き返すブラッドフォードにしたり顔のウイントフーク。
きっとこの話が聞きたかったに違いない奴は、しめしめと腕を組んで俺に合図をした。
きちんと聞いておけという事だろう。
とりあえず本の間から少し頭を出して、合図をした。
「長老達の一部で、私の知らない動きをする者がある。この際だから話すが。私達が全体礼拝で力を送っているのは、長の元では、ない。」
瞬間、誰も何も言った訳でもないが空気がザワリと、した。
きっと薄々気付いていたであろう、面々ではあるが。
やはり、本丸からこの話を直接聞く事は大きな事なのだろう。
「それで?」と口を開いたのはメディナだ。
頷いて続きを話し始めるアリス。
誰が来る場所でもないが、自然と声は小さくなりみんなが顔を突き合わせ話を聞く体勢になっていた。
「正直、私も全てを把握している訳ではない。父が亡くなったのも、急だったし全ての引き継ぎが終わっていた訳では無かったからな。」
「しかし。いつから居るのか分からない、「長の代理」、直接会えなくなったのはここ何年か。それに対して全体礼拝での力の行き先は変わっていない筈だ。私が言われていたのは。「ここを保たせたければ。決して、全体礼拝は絶やすな」それだけは、昔から強く言われていた。」
「ほう。」
面白そうな声を出すなよ………。
チラリとウイントフークを見たが、気付いちゃいないだろう。
しかし長に会う会わないの話は、俺も初耳だ。
確かヨルがベオグラードは会った事があると、言っていた様な………?
「それならあの子は。あの人は。何の為に、犠牲になったんだい。」
いきなり強い口調で、メディナが言う。
それに対してラガシュが頓珍漢な返事をしていたが。
「いや、まだ姫は犠牲になっていませんよ。」
「まあ、「まだ」なだけだがな?このまま行くと、確実にあいつはこの山に頭を突っ込む事になる筈だ。」
「は?!貴石にですか??」
「まあ、そうだろうよ。あそことあいつは。切っても、切れないからな。」
ぐっと押し黙るラガシュ。
対してメディナが冷静に、こう言った。
「まあ、あの子にとっては。必要なこと、なのだろうよ。そういう目を、してる。」
「はあ?あの子はまだ、子供です!」
「その子供と婚約してる奴、いるけどな?」
「ハッ、違いない!」
ハーゼルが突っ込んだ所為で、アリスに笑われ立場の無いブラッドフォード。
しかし、ヨルは凡そ「子供」とは言い難いのだ。
気持ちは、分かる。
助け舟を出してやりたいが、横から船はやって来た。
「まあ、あれは。特別な、娘なのだろうよ。そう虐めてやるな。」
「今、笑いましたよね?」
「まあまあ。」
ラガシュに嗜められ、その場は収まったが嗜めた本人はメディナをまだじっと見ている。
納得いかないのだろう。
あいつはヨルに対して異常に過保護だからな?
それを解っているメディナは、こう問い掛けた。
ラガシュの目を、真っ直ぐに見ながら含みのある、言い方で。
「純粋無垢で。真っ白な、ままだけが。「美しい」のだと、思うかい?」
そのメディナの問いに。
俺達は誰も、答える事ができなかった。
正面から問い掛けられているラガシュは勿論、その後ぐるりと見渡されている、男達の誰も。
その、問いに対する「正しい答え」を探すばかりできっと、その本質は。
考えていかなったのかも、知れない。
「お前達、若い者にどうこう、言うつもりは無かったが。きっと、爺共にはもうその「頭」が、無いだろうからね。年はとりたくないもんだ。どうしたって、頭が固くなるからね。特に、この狭い世界では。」
黄緑の瞳を見開いて、一同をぐるりと見渡す。
俺も、見つかった気がして縮み上がるってしまった。
なんだかバレている気がするのは、気の所為だろうか。
「私がね?馬鹿だなあと、思うのは。それが心地良いと、思ってしまう事なんだよ。いつだって、私達には考える事、考えられる、疑う「機会」というものは与えられていたと思うよ。どう考えても、おかしいだろう。だって。」
「まかり通るかい?そんな事が。私達が「神の一族」だから。いつだって、欲しいものが、欲しいだけ、与えられて。だが、外は穢れている。「与えられたものだけで満足するよう」、整えられていて。誰も、文句は言わない。言っても、すぐに居なくなるんだ。どうされているのかは知らない。考えたくは無いが。」
「いるよ、それは。時折。異を唱える者、貴石の者を本当に。愛してしまう者も、いた。だが、それがそうなる事はなく。いつの間にか。消え、元に戻る。これは、考えてはいけないものなのだと。考えては、いけない事なのだと。私達には、本能的に刻み付けられるんだ。」
「それで。見ないフリを、するという事ですか。」
口を挟むとは勇気があるな、ラガシュは。
他の奴らは初めてなのだろう、メディナの話を圧倒されながら聴いている。
銀の、二人ですら。
多分、女にこうして話されるのが新鮮なのだろう。
そのくらい、この世界の女達は大人しかった。
俺が見た、限りでも。
「まあ、でも。百歩譲って。それでも、いいよ。この際恨み言は言いっこなしだ。私達は、みんなこの子が言う様にこの世界の片棒を担いでいるのだから。」
メディナにかかればウイントフークも「この子」らしい。
一人本棚で苦笑しながら、耳を澄ます。
部屋は、静かだが。
沢山の事を含むメディナの話は、ともすれば思考が彼方此方へ行きがちだからだ。
「だがね。「目的」が、判らないんだ。こうなっているからには、こうした者がいるという事だろう?まあ、それがあんたの所かと思っていたが何やら違う様だし。一体、「本当のこと」は何処へ行ってしまったんだね?」
「それは俺も思っている。」
「それと姫が貴石と関わるのに関係ありますかね?」
「お前さんしつこいね。あの子は、そういう子だよ。止めなさんな。」
「それじゃ納得いきませんよ 」
「諦めろ。あいつは。やる気だ。」
「「「えっ。」」」
何故だか三人が、そう言った。
三人とは、ラガシュ、ブラッドフォード、アリススプリングスの三人だ。
ラガシュとブラッドフォードは解るが、何故アリスもだ??
俺が考えている間にも、話は進んで行く。
「ちょっとどうしてそんな事になってるんですか…」
「まあ色々あってな。」
「何ですか。色々って。」
「一応それは俺も聞かなきゃいけない話じゃ、ないのか。」
なんだか混乱してきた男どもを取り成したのは、何故かハーゼル。
一番似合わない奴が、ヨルと貴石の話を纏め始めた。
「でも、俺としてはあの子なら。なんとかしちゃいそうな気が、しますけどね?だって勝手に、反応しちゃうでしょう?あの子。それに、相手も。」
「相手、とは?」
腕組みをし始めたウイントフークは危ない。
ピタリとハーゼルの背後に止まり、きっと自分の答えが出るまで離さないだろう。
ロックオンされたハーゼルは、その白衣を振り返りながら話し始める。
「こないだウチに来たじゃないですか。あの時…」
「おい、聞いてないなその話。」
「ややこしくなるので口を挟まないでくれませんか。」
「お前段々遠慮が無くなってきてるな…?」
「姫より貴方が上な訳ありませんからね。」
「おい。」
「それで?その、相手とは?」
なんだかごちゃごちゃしてきたな………。
「まあ、「相手」って言うか。「もの」とか「場所」とか、なんか色々だと思うんですけどね?多分、あの子。なんか鼻がいいんだか、きっとその「所」に来ると分かるんでしょうね。それで勝手に、通じ合うんですよ。分かります?この説明。」
「ああ、大丈夫だ。まあ、そうだな。あいつはいつも、そうだ。」
成る程。
他の三人がワヤワヤしているうちに、ハーゼルとウイントフークは合意を得てどうやら会議はお開きの方向である。
メディナがラガシュを捕まえているので、そうなるだろう。
あいつは帰ったら大変そうだな…………。
そうして、男達とメディナを見送りながら。
結局、ウイントフークの話は何処へ落ち着いたのか。
改めて考えてみたが、俺には解らなかった。
本人は満足そうだったのできっと、求めていた情報は得られたのだろう。
それなら、いい。
そうして俺は男臭い書斎を出ると、向かいの猫用扉から青い部屋へ帰ったのだ。
やっぱりあそこが、落ち着くからな。
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