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8の扉 デヴァイ
若者達 2
しおりを挟むそうして暫く。
静かだった書斎の中に、響いた声はレシフェの声だ。
あいつは頭の回転も早い。
きっと一番に思考を切り替えられたに違いないな。
「やってやろうじゃないか。その、糞ったれ共に。爺だか神だか知らんが。その、目の前の罠に騙されずに。進んで行ってやるさ。大人しくしてるうちに搾取だけしようったって、そうはいかねぇからな。」
「あなた少し、そこ言葉遣い何とかなりませんかね?まあ、言いたい事は一緒ですけど…。」
「なら、いいんじゃ?」
「あなたは同類でしょう。とりあえず黙ってて下さい。話がややこしくなる。」
「ややこしいと、言っても。事態はそう、複雑な訳じゃない。だが、どうするかが問題だな………。」
「いいえ?充分、複雑だと思いますけどね?僕達の、と言うか人間の。弱く、醜い部分を上手く使ってる。とても上手ですよ。敵さんながらに、ね。」
「どういう事だ?」
そのラガシュの言葉に、首を捻る一同。
レシフェだけは。
多分、なんとなく気付いているのだろう。
ローブを羽織る面々の表情を、じっと観察している様だ。
暫く皆の顔を確かめていたラガシュは、諦めたのか小さな溜息を吐いて口を開いた。
「あの人が、言っていたでしょう?利用している部分が、せこいんですよ。「女」という、デヴァイで言う立場が弱い、もの。しかし僕達「男」にとって。最高の「エサ」でもある。ここを絡めると一気に複雑になるんですよ、感情が絡んできますからね。確かに「事実」は、大切だ。しかし「事実」だけで。処理できる問題じゃなくなるんです。ああ、僕の苦手分野なのに…………。」
そう言って頭を抱えるラガシュに、笑うハーゼル。
「笑い事じゃないですよ」と言われているが、見ている分にはやはり、楽しい。
その悩んでいる姿が、小さな希望に見えて仕方が無いのは俺が歳を取ったという事だろうか。
「確かに。「事実」だけでは、納得は勿論、説得も。難しい、だろうな。」
「あなたは貴石に、そういった人が?」
ポロリと漏らしたアリスが気不味そうに俯いた。
しかしハーゼルが脳天気な声で茶々を入れる。
「俺も無理かも。そもそも、女に口で勝てる気がしないわ。何しても言い負かされるからな、あいつらの言い分で。でも納得しちゃうのも事実………」
「それは女性に対して失礼ですよ?あなたがそれだけの事、してるんでしょう全く………。」
「いいや、俺は誠実だ。」
「嘘くさ……… 」
ラガシュにハーゼル、アリススプリングスがわちゃわちゃとやっているうちに、レシフェがブラッドフォードに話し掛けている。
確かこの二人は、禁書室で一緒だったよな??
そう考えていると、話題はやはりあの子の話になっている様だ。
俺的にブラッドフォードはヨルの事を気に入っているし。
あわよくば、そのまま結婚してもいいと思っているに違いない。
気焔との事を何も言わないのだって、ヨルに嫌われたくないからなんじゃないか?
チラリともう一度そちらを見ると、立ち上がり二人で話し始めていたレシフェとブラッドフォード。
しかし一応、表立っては未だ婚約者の彼にどうやらレシフェは注意を促している様だった。
「下手に動くと、勘付かれるぞ?あいつが首を突っ込む前に、お前達はなんとかする算段はあるのか?」
確かに爺さん連中は、流石の年の功で鼻が効く。
時折見つかりそうになった事がある俺も、それには同意だ。
それに、「見つかる」と言うのは。
「誰に」なのか「何に」なのか。
そもそも敵が分かっていない今の状況では、どう気を付ければいいのかも難しい所である。
「それも、あるが。どこからどう、動くのかはウイントフークが戻ってから相談だな。だが、ヨルはこの件も既に首を突っ込んでいる、と。知ってしまった事は仕方が無いが、一人で危ない事をしない様に言わないとな………」
「言って大人しくしてるタマなら、いいんだがな………。」
レシフェが呟いていると、アリスが立ち上がり参戦する。
「確かに。あの時だって、そうだった。あの物怖じしない態度は何処にでも突っ込んで行くのだろうな?しっかり、捕まえておけよ?」
「あの子は勘がいい。あまり会わないようにしておこう。」
「それでも図書館で会うのでは?」
「それに、ウイントフークがもうあの子はやるつもりだと…。」
「寂しいだろうが、少し我慢しろよ??」
「は?そんな事になってるのか?気焔は………?」
また話が混乱してきたな………。
ヨルの話題が出ると、なんだか男達は話が何処かへ飛んで行く。
落ち着いて欲しいものだ、俺みたいに。
いつもあの子には、振り回され慣れているからな。
「僕としては姫がどう首を突っ込んで来るのか、心配ですけどね………。」
溜息を吐きながらラガシュも、まだその話をしている。
しかし、それはあいつに嗜められた。
ヨルの事を、きっとこの中では一番よく解っている、あいつだ。
「首を突っ込むな、と言っても。無理なんだろうよ。これまでずっと、あいつは。俺達が見落としてきた、置いてきた様な小さなものだって拾ってきたんだ。あんなデカイもの。放っておける、訳がない。」
「まあ、そこが姫のいい所ですけど…。」
きっとラガシュの方が年上だろうに。
言い聞かされている様子が中々面白い。
「お前、それは諦めろ。俺だって散々………いや、何だろうな?しかし、あいつは一人じゃない。これまでだって、そうやってやって来たんだ。これから何がどう、なるのかあいつに関しては予測不可能だが。まあ、百戦錬磨が付いてるからな………。」
ちょっと嫌そうな顔なのが気になるが、それは貴石のあの人の事だろうか。
「俺も毟り取られた」と言っていたし、そうなのかもな?
様子を見ていると、再びレシフェが腕組みをして話し始めた。
先程とは雰囲気を変え、まるで挑発する様に。
また、嫌らしい話し方をしている。
少し落ち着いて話し合う気は無いのか、コイツらは。
「そもそも俺は。この話が、議論されている事の方に驚いたがな?ここの連中に、そんな気概のある奴がいるとはな。」
「どういう意味だ?」
「いいや。大概の男ならば避けて通りたい道だろう?知らぬふりをして。大声を上げ、威嚇し「無かったこと」に「有耶無耶」に、する。これまでずっと、そうしてきた筈だ。真正面から。自分の事を、見れない奴が大半だからな。」
押し黙る銀の、二人。
少し上向きだった部屋の雰囲気が、再び一気に暗くなった気がする。
「…………お前は……いや、いい。」
「知らなかったんだ。だが………」
「知らなかった、だから。罪は、無い、と?」
「罪とか…そういった話では無いだろう!」
「いいや。これに関しては言いたい事があるね。」
「お前には解らない!」
「知りたくもないね。何人、死んだと思ってる?」
チラリと浮かんだ、レシフェの姉の、話。
貴石の、「消えた」とされる女の話。
ずっと昔にハーシェルが曇らせていた、瞳が浮かぶ。
「それだってこの仕組みの所為だろう。今は気付いたんだ、だから…」
「ふぅん?無かったことに、またするのか?」
「お前!!」
「ちょっと、あなた達……… 」
「おっ?やるのか?まあ、この場で。俺より、強い奴はいないがな?」
「だから!ちょっと貴方達。それこそ、姫が嫌がっている方法でしょう。どうしてそうすぐ、揉めますかね………。」
ラガシュが間に立ち、睨み合う男達。
確かに、レシフェの言う事は合っている。
この場で。確実に一番力の強い石を持つのは奴だし、そもそもの場数が、違う。
デヴァイで育ったお坊ちゃん達の敵う相手では、ないのだ。
しかしわざわざ揶揄う程でも無い筈なのだが、奴的にもここの人間にまだまだ言いたい事はあるのだろう。
さっき俺が言った事を含めても。
一言言わないと、気が済まなかったのかも知れない。
まあ、デヴァイの所為で俺もこうなった様なものだしな………??
いかんいかん、俺は大人だ…。
しかし俺が自分を省みている間に、しっかりと場を納めたのはラガシュであった。
「だから。そもそも。僕達がしっかりと見つめなきゃいけないのは、「事実」だけでそれ以外の何物でもないんですよ。」
一度言葉を切り、皆の瞳を確認する。
「誰もが、この世界の片棒を担いでいて。少しでも「軽減されたい」と、その罪から目を背けようとすると。「やり返したい、解らせたい」と、立ち向かおうとすると。争いが起こる。そうして、ずっと矛先がずれて、きたんだ。今迄、ずっとね。」
「誰も、どこにも。「責任転嫁」なんて、できないんだ。僕らだけは、それをきちんと解っておく必要がある。」
キッパリと、そう言い切ったラガシュ。
真っ直ぐに全員を見てそう言った姿は、覚悟を決めた様に見える。
皆も、それが分かったのだろう。
静まり返った部屋の中。
それぞれが自分の中で想いを巡らせ、きちんと考えようとしているのが見て取れた。
すぐに散らかる、若者達の話がどうなるのかと心配していたがこの分ならば大丈夫だろう。
もし、道が逸れたと、しても。
それはそれで、彼等が自ら修正していく事が必要なのだろう。
失敗から学ぶ事も多いからな。
そうして再び、騒ぎ始めたハーゼルの声を聞きながら部屋の主人を待つことにしたのだった。
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