透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

未来のこと

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しっとりと落ち着いた空気、再び翳る中二階の白いテーブルクロス。

以前は気が付かなかったが、まじない空間だからなのか。
どうやら日に何度か光が回るらしい、この店内は今は一階のガラス戸棚に光が入り、私が残して行った石達が嬉しそうに光を浴びているのが、見える。

その美しく優しい光景を眺めながら、未だ腕組みのまま、考え事をして、いた。



この、世界のこと。

どの扉でも、表立っては普通にしている人々、けれどもみんな同じ様に其々に懸命に、生活していること。

どの扉でも「良い所」「良くない所」その両面があって。
そして見え隠れする、全体の「仕組み」を創る「なにか」。
だから一概に、「どこが悪い」とも言えないこと。

昔はあったけれど、今は無くなってしまったもの。

見えないけれど、「ある」もの。

降った光、降らなかった光。


そして。

「愛」の、こと。


降らせた光が、「愛」だと気付いて嬉しかったこと。

雨の祭祀では「好きな色だけ」降らせたけれど。

が、「愛」であるならば、やはり「みんな」に降らせたいと、思うこと。




「………うん、多分。祈れる、筈………。」

自分の中のモヤモヤが大分解消された気がして、今一度頭の中をぐるりと浚ってみるが、重たく暗いものは。
殆ど、見当たらない。

結局、残っているものは「未だ解決しない現状」ただ、それだけで。

なんとなく分かった理由、みんなの置かれている状況と、「誰のせいでもない」こと。

多分、イストリアが言う、私達に「そうさせているもの」はなんとなく人間ひとではない様な気がして。


何故だか私の頭の中は次の扉、メディナ曰くの「終焉の墓地 グレースクアッド」へフラリと旅立っていた。

私の蝶達がとうしているかも気になって、いたし。

何より、私の頭の中で「あそこが怪しい」と何かが告げている様な気がするのだ。

多分、勘だけど。
こういう時って、当たるんだよね…………。


しかし大分遠くにあるのか、何となく蝶の気配はすれどもその他に何か見えるか、判るかと言えば、何も見えない。

辿っていた接続をプツリと切ると、丁度午後のおやつを「コトリ」と置いたイストリアと目が、合った。

「おかえり。何処へ行ってたんだい?随分と考え込んでいた様だけど。」

そう言ってお皿を差し出す、その上には美味しそうなアレが乗せられている。

ずっと前に食べた事のある、フルーツとナッツを固めた様な、あれだ。

「いただきます。………いや、何処へ行ってた訳でも、ないんですけど…。」

私の蝶の話をしようかと思ったのだが、ふと浮かんだ疑問に。

完全にスライドした思考、私の口は勝手に再び頭の中を垂れ流し始めた。


「えっ、じゃあ貴石って。どう、しましょうか?レナはイストリアさんが考えてくれるって言ってたけど………?………でも?なんとか、なります…??」

自分でも首を傾げながら、くるりと水色髪へ向き直る。
しかし私の期待の瞳に寂しそうに首を振ったイストリアは、再び深く椅子に腰掛けると溜息を吐いてこう言った。

「いや、それはずっと。考えていた、問題でも、ある。だがしかしね………。君なら、解ると思うが。貴石あそこを、閉じた所で問題は何も解決しないんだよ。きっと皺寄せはまた何処かへ行って、もしかしたら今よりももっと複雑な、見え難い状況になるだろうね。………だから… 」

珍しく最後、言葉を濁したこの人の、言いたい事は、よく、解った。

多分、貴石が無ければ。

駄目なんだ。


解る、けど。

解るんだけど。
どう、したらいいだろうか。

姉さん達が、もっと?
待遇?
でもきっとエルバは精一杯、やってくれてる筈だ。

だから多分。

どう、すればいいのかと、言うと………?


チラリと顔を上げ、薄茶の瞳を確認する。

多分、イストリアも考えては、いるんだ。
でもきっと、今すぐ取れる、有効な手段は無いのだろう。

それなら?

私の、できることは?

なんだ?



「えっ。やっぱり…?祈、るってことか…………。」


ぐるぐる、ぐるぐると考える前に。

パッと浮かんだ、いつもの手段。

でも。
そんな事で、いい?

 いいや?

  思った筈だ

  知った 筈だ

  わかった  はず なんだ


 「それだけで いい」   そう。


 ちゃんと、解った 筈でしょう?



私の中から「だれか」に、そう言われた気が、して。

「だよね………。」

ポツリと呟き、また堂々巡りをしようとしていた自分に、小さな溜息を吐く。


「決まった様だね?」

そんな私を見守りながら、優しく微笑むイストリアは頭の中を見透かした様にこう、言った。

「君は、君のできる最善を尽くせば、いい。それ以外は私達の仕事だ。特に、貴石の事なんかはね。もっと私達を頼りなさい。」

「…………はい。ありがとう、ございます。」

私は、私の、できることを。

しか、できないけれど。


「なぁに、君のやることは大概、「君にしかできないこと」だ。自信を持って、やるといい。」

再び私の頭の中を見透かし、そう言うイストリア。

この人、千里と同じくらい人の頭の中を覗けるんじゃないだろうか。
そう思ってしまうくらいは、的確な答えが返ってくる。


その言葉に有り難く頷きながらも、頭を巡るのは「本当は全ての人が光を降らせることができる」という、思いだ。

あの時、朝とも話したけど。

「特別」でなければいけない、理由なんて、無くて。

空からの光は「みんな」に、降り注ぐし、「みんな」が受け取ることができて、それならばやはり「全員みんな」が。


「光だって、降らせられる………よ、ねぇ………?」

ポツリと呟いた私に、返事が来た。

「君の、言いたい事は。まあ、解るよ。でもね、殆どの人は気が付いていないし、「今を生きる」のに精一杯だ。確かに自分を満たす事から始めないと、そもそものスタートが切れないからね。」

「そう、ですよね………。」

だから。

気付いて、貰いたいから。

光を降らせたし、これまでずっと、祈ってきた筈だ。

「ていうか?そもそも?誰が?なんで??………に………?」

隠してしまったのだろうか。

色んな、ことを。


「確かにを隠して、得をする人がいたと、して。まあ、人なのかなんなのか、分かんないですけど。結局のところ、「なに」がしたいんですかね??」

勝手にぐるぐるして、薄茶の瞳を見たがきっとこの人は私の言いたい事は解っている筈だ。

腕組みをしたままのイストリアは、小さく唸ると「それは難しい問題だね」と、言った。


それ以外、多くを語らない様子を、見て。

多分、今は殆ど分からないか、言えないのか、どうなのか。
なにしろきっと、この問題を今、掘り下げるつもりが無さそうなのを見て私の思考も再び、飛んだ。

その問題に関連する、「あれ」の事に。



「でも、結局。「魂の望み」って、なんなんでしょうね?」

もし、が始めから解っているか、若しくはみんなが「繋がっていて、その為に動いている」ことが、解れば。

現状はもっと良くなるに違いない。

ぐるぐるしながら問い掛けたが、その瞳に
映るは「君はどう思う?」といういつもの色だ。

きっと私の考えを聞いてから、何か話してくれるのだろう。
そう思って、とりあえずの頭の中を再び漏らす事にした。


「うん?でも………?結局、………??」

口を開いて、思ったのだけど。

「魂の望み」、それって。

みんな、違うよね??

だから、「私の魂の望み」って事だよね?


チラリと薄茶の瞳を確認するが、まだ口を開く気は無い様だ。

それなら、と自分の頭の中を少し探して、考えてみる。



私  私の?

 魂………     


 何度も   何度も

 繰り返して。

「なにを」思った?

「なにを」考えたんだっけ?



 「沢山のいろ」が  「美しくて」

 「それぞれが 輝き」  「煌めく様を」

「充分 味わって」  「知った」「見た」


   「楽しんだ」  「遊んだ」


   「やってみた」  「いろんな色を」



 そう して?


「飽きた………んだっけ………?確か、もういいやって………もう、止めて次へ………?行こうかと、思った?でも、次って?なに??」

でも。

やっぱり。

もう、「繰り返さない」とは。

思った、筈なんだ。

充分、


もう、いいんだ。 

「多分…………。」

それは、解る。


「ん?でもその、「次」ってのが??分かんない、な??」

「どうだい?君の魂の望み、は。解ったかい?」

「ん?え?………ああ!あれ??」

イストリアに訊かれて、私の脳内がずれていたことが分かる。
しかし、それはある意味いつもの事だ。

とりあえず「次」についての疑惑は脇に置いて、「魂の望み」を考える。


「多分………、ですけど。見たかった、のかなぁ………沢山の、綺麗な色を。美しい、色を。多分、物とか景色とかじゃなくて、「人の感情」?その人其々の、鮮やかな「いろ」が、見たかったのかなぁ………。どう、なんだろうか。」

自分でそう言って、考え込む。

今は。

祈ったり、謳ったり、溢したり、そんな事が「私のやりたいこと」だと、思うけれど。


あの、ぐるぐるを通して。

ずっとずっと、一貫して思っていた事は。


多分………。


「人というものの、「輝き」とか「煌めき」が、見たかったのかなぁ、と。が。一番、美しいと思っていたのかも知れませんね………。」

曖昧な、答えだけど。

イストリアはそれを聞いて興味深そうに、しかし楽しそうに微笑んで教えてくれる。

「うん、そうなんだね。いいんじゃないか?だって、は。誰に判断されるものでもないし、それこそ、自由だ。私はまだ、自分の「魂の望み」は探し中、かな?しかし、君と出会った事で遠からず。見つかりそうな、気がするけどね。」

「………それなら。なんか、幸いです………?」

「ハハッ、じゃあ難しい話はこのくらいにして、とりあえず畑にでも行こうかね?」

「賛成です、それ…………。」


確かに。

私の頭の中は、そうごちゃごちゃしている訳ではないけれど。

整理された様な、されてない様な、重い様な軽い様なそんな複雑な、気分である。

しかし収穫はかなり、あった。

祈れる、と思えるし。

きっと、ここで話した事が今度の祭祀での軸になりそうな事はなんとなく、分かる。


それに、多分。
あの空間で癒されて、きっとまた美しい色を取り込んだならば、回復する事は必須だ。

カチカチと茶器を片づけ始めたイストリアを手伝いながら、既に頭の中は畑のハーブ達へ飛んでいて。

「じゃあ、行こうか。」

「………あっ、はぁい。」

ボーッとしていた私に、銀のローブをフワリと掛けるイストリア。

その笑顔に心配をかけぬ様微笑むと、そのままフワフワと水色髪について行った。

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