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8の扉 デヴァイ
夜のお出掛け
しおりを挟む結局、あの後。
禁書室で色々と相談した結果、私達のミッションは二つ、決まった。
とりあえずの大きな問題となる「揺れ」の事と、グロッシュラーの畑の事、そう「祭祀」の事である。
まず「揺れ」については私が謳うことと、各家に光を繋ぐことで合意した。
驚いた事に、ブラッドフォードは「ヨルが来てからは揺れは小さくなっているし、減っている」とハーゼルと同じ様な事を言っていたのだ。
話を聞くと、どうやらハーゼルと話したらしいブラッドフォードは、各家にあるというあの祈りの場所の様な所に私が赴く事を提案してくれた。
それは是非やりたい事でもあったので、捗るならば有り難い。
ハーゼルは「他の家は分からない」と、言っていたから。
ブラッドフォードがそう言うならば、「ある」という事なのだろう。
その辺りは任せる事にして、私は許可が出次第、行くつもりである。
「謳う」事については、強要することはできないから。
もし、私が謳っていて一緒に歌ってくれそうならば誘うつもりだけれど。
どうだろうか。
この前、少しだけ女性の声は重なったけれど男性はほぼ、口を開いていなかった筈だ。
隣でブラッドが渋々調子を合わせていたくらい?
かな?
そして「祭祀」に、ついては。
私から一つ、お願いをしたのだがそれについては「わからないが、努力しよう」と、言われてしまったのだった。
「………まぁね…………そう、ホイホイと上手くは、行かないよねぇ………白い魔法使いじゃ、ないんだし………。」
白い湯気、マスカットグリーンのお湯を掬いながら、いつもの様に今日の出来事を反芻する。
今日も白い湯気が辺りを漂う、夜の森。
頭上の雲は同じマスカットグリーンで、その上に被さる木の枝が丁度良い塩梅に優しく包まれ、雪が積もっている様な、夜。
そんなゆったりとした森のお風呂では、考え事も捗ろうかと、いうものである。
しかし。
私の頭の中は、祭祀のことからグロッシュラー、貴石。
そしてやはり女性の立場のこと、そこからはブラッドフォードの「あの話」へ、スルスルと滑って行った。
そう、私が頼んだ祭祀での「お願い」は「できるだけ女性も参加できるように」という事だったからである。
「そもそも、希望者がいるかどうか、だけどな。」
そう言われてしまって、少し驚いた。
当然の様に自分と同じく「外へ出たい」ものだと、勝手に思っていた私は。
その言葉にふと、「お前さんなら」と言っていた白い魔法使いの言葉が浮かんで寂しくなる。
「知らず知らずのうちに染められていくこと」
「希望を言う、いや持つ事すら。変わっているということ」
あの白い禁書室で話した、内容。
「変えられる色」「変わっていく色」。
いつの間にか巻き込まれてゆく、「運命」なのか、なんなのか。
「選択」を与えられないこと、「選択をする」ことすら、知らないこと。
ぐるぐる、ぐるぐると自分の「なか」で渦巻く思い、居た堪れなくなり「ザッ」と上がってバスタブに腰掛けた。
このままずっと、ぐるぐるしたならば上気せること間違いなしだ。
そう思って暫く、湯煙の中腰掛けて大きな黒い窓の景色を眺める。
今日も夜空は美しい紺色のビロードを広げ、星達がキラキラと瞬くラピスの空。
私が祈りを繋いだならば。
あの、黒い廊下の窓も空に変わるだろうか。
いや。
「変わる」と、「思えば」。
そう、「思って」祈りを繋げば。
「きっと、できる………うん、まずは自分が「信じる」こと、からだよね………。」
ポツリと呟いた私を励ます様に、フワリとマスカットグリーンの雲が降りて来る。
「ふふっ、ありがと。」
触れられは、しないのだけれど。
フワリと包まれた気がして、お礼を言ってタオルを掴んだ。
とりあえず着替えよう。
そして。
チラリと視線を奥に、延ばす。
「…………できる、と思えば。」
視線の先には夜の深い森、奥は暗闇に包まれ何も、見えない。
見えないけれど。
「見えないけれど、あるんだ…………。昼間の、星の、様に。そう…………」
私は そんな 星に。
なりたいんだ よ。
見上げた時に、いつもそこで光る。
小さな、星。
「よし!」
小さく気合を入れて、エローラのネグリジェに灰色のローブを羽織る。
そう、あの。
ハーシェルの灰色のローブだ。
あの時、「元気で居てくれればそれでいい」と、送り出してくれた、あのお父さんのローブ。
「………でもな…?あそこは………夜だし、ティラナを起こしちゃうと帰れないな…………私が。」
そうブツブツと呟きながら、手前の木に手を掛ける。
「おや。行くのかい?とうとう。」
「えっ?とうとう??………いいよね、夜のうちに帰って来るから。」
「そうさな…まあ、あの森までは。送ろう。」
「ありがとう!」
初めて話したこの部屋の木、しかしきっとあの森と繋がっているだろうと思っていた私の勘は当たっているのだろう。
そのまま背後を振り返ると、キラリと光る紫と金の毛並みが目の端に映る。
まあ……………仕方無いか。
とりあえず、狐の姿ならばそう問題は無いだろう。
きっと一人で出掛けるよりは、バレた時に怒られなそう………いや、どうだろうか。
そんな言い訳を頭の中でぐるぐると考えながら。
サワサワと揺れる木の枝の案内に連れられて、暗闇の中へ進んで行ったのである。
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