透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
637 / 2,079
8の扉 デヴァイ

夜のお出掛け

しおりを挟む

結局、あの後。

禁書室で色々と相談した結果、私達のミッションは二つ、決まった。
とりあえずの大きな問題となる「揺れ」の事と、グロッシュラー向こうの畑の事、そう「祭祀」の事である。


まず「揺れ」については私が謳うことと、各家に光を繋ぐことで合意した。

驚いた事に、ブラッドフォードは「ヨルが来てからは揺れは小さくなっているし、減っている」とハーゼルと同じ様な事を言っていたのだ。

話を聞くと、どうやらハーゼルと話したらしいブラッドフォードは、各家にあるというあの祈りの場所の様な所に私が赴く事を提案してくれた。

は是非やりたい事でもあったので、捗るならば有り難い。
ハーゼルは「他の家は分からない」と、言っていたから。
ブラッドフォードがそう言うならば、「ある」という事なのだろう。

その辺りは任せる事にして、私は許可が出次第、行くつもりである。
「謳う」事については、強要することはできないから。
もし、私が謳っていて一緒に歌ってくれそうならば誘うつもりだけれど。

どうだろうか。
この前、少しだけ女性の声は重なったけれど男性はほぼ、口を開いていなかった筈だ。

隣でブラッドが渋々調子を合わせていたくらい?
かな?

そして「祭祀」に、ついては。

私から一つ、お願いをしたのだがそれについては「わからないが、努力しよう」と、言われてしまったのだった。



「………まぁね…………そう、ホイホイと上手くは、行かないよねぇ………白い魔法使いじゃ、ないんだし………。」

白い湯気、マスカットグリーンのお湯を掬いながら、いつもの様に今日の出来事を反芻する。

今日も白い湯気が辺りを漂う、夜の森。

頭上の雲は同じマスカットグリーンで、その上に被さる木の枝が丁度良い塩梅に優しく包まれ、雪が積もっている様な、夜。

そんなゆったりとした森のお風呂では、考え事も捗ろうかと、いうものである。

しかし。

私の頭の中は、祭祀のことからグロッシュラー、貴石。
そしてやはり女性の立場のこと、そこからはブラッドフォードの「あの話」へ、スルスルと滑って行った。

そう、私が頼んだ祭祀での「お願い」は「できるだけ女性も参加できるように」という事だったからである。


「そもそも、希望者がいるかどうか、だけどな。」

そう言われてしまって、少し驚いた。

当然の様に自分と同じく「外へ出たい」ものだと、勝手に思っていた私は。
その言葉にふと、「お前さんなら」と言っていた白い魔法使いの言葉が浮かんで寂しくなる。


「知らず知らずのうちに染められていくこと」

「希望を言う、いや持つ事すら。変わっているということ」

あの白い禁書室で話した、内容。

「変えられる色」「変わっていく色」。

いつの間にか巻き込まれてゆく、「運命」なのか、なんなのか。


「選択」を与えられないこと、「選択をする」ことすら、知らないこと。


ぐるぐる、ぐるぐると自分の「なか」で渦巻く思い、居た堪れなくなり「ザッ」と上がってバスタブに腰掛けた。
このままずっと、ぐるぐるしたならば上気せること間違いなしだ。

そう思って暫く、湯煙の中腰掛けて大きな黒い窓の景色を眺める。


今日も夜空は美しい紺色のビロードを広げ、星達がキラキラと瞬くラピスの空。

私が祈りを繋いだならば。

あの、黒い廊下の窓も空に変わるだろうか。


いや。
「変わる」と、「思えば」。

そう、「思って」祈りを繋げば。


「きっと、できる………うん、まずは自分が「信じる」こと、からだよね………。」


ポツリと呟いた私を励ます様に、フワリとマスカットグリーンの雲が降りて来る。

「ふふっ、ありがと。」

触れられは、しないのだけれど。

フワリと包まれた気がして、お礼を言ってタオルを掴んだ。
とりあえず着替えよう。

そして。

チラリと視線を奥に、延ばす。


「…………できる、と思えば。」

視線の先には夜の深い森、奥は暗闇に包まれ何も、見えない。

見えないけれど。


「見えないけれど、あるんだ…………。昼間の、星の、様に。そう…………」


 私は そんな 星に。

 なりたいんだ よ。


見上げた時に、いつもそこで光る。

小さな、星。


「よし!」

小さく気合を入れて、エローラのネグリジェに灰色のローブを羽織る。

そう、あの。
ハーシェルの灰色のローブだ。

あの時、「元気で居てくれればそれでいい」と、送り出してくれた、あのお父さんのローブ。


「………でもな…?あそこは………夜だし、ティラナを起こしちゃうと帰れないな…………私が。」

そうブツブツと呟きながら、手前の木に手を掛ける。

「おや。行くのかい?とうとう。」

「えっ?とうとう??………いいよね、夜のうちに帰って来るから。」

「そうさな…まあ、あの森までは。送ろう。」
「ありがとう!」

初めて話したこの部屋の木、しかしきっとあの森と繋がっているだろうと思っていた私の勘は当たっているのだろう。

そのまま背後を振り返ると、キラリと光る紫と金の毛並みが目の端に映る。


まあ……………仕方無いか。

とりあえず、狐の姿ならばそう問題は無いだろう。

きっと一人で出掛けるよりは、バレた時に怒られなそう………いや、どうだろうか。


そんな言い訳を頭の中でぐるぐると考えながら。

サワサワと揺れる木の枝の案内に連れられて、暗闇の中へ進んで行ったのである。





しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...