透明の「扉」を開けて

美黎

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4の扉 ティレニア

白い森 2

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何があるのか、全く分からない扉の、中。

とりあえず力んで「えいっ!」と一歩を踏み出した。

「わ、ぁ………。」

白い、森。
そこは一言で言うと、そんな場所だった。


思ったよりも幻想的で綺麗な場所に着いて、拍子抜けしてしまった。
何となく、派手な冒険が始まると思っていた自分が、なんだか可笑しくなる。

私が立っているのは、広い花畑の様な場所。
しかし、何しろ、全てが白い。

少し奥の離れた所に、沢山の木々が鬱蒼と茂る森が見える。

だが、足元の草花、遠くの木々。
目に見える範囲のそれら全てが、真っ白なのだ。

とりあえず周囲に誰も居ないことが見て取れると、ひとまず危険は無い事にホッとした。
ナイフなんて持ってきたものの、勿論攻撃になんて使えないし、襲われたらすぐアウトだ。

しかし、何しろ人っ子ひとり、見えない。

ぐるりと見渡すと、今し方入ってきた扉が見えない事に気が付いた。


「え。扉が無い。帰れない。」

ある意味冷静に独り言を言っていたら、久しぶりに藍が答えてくれる。

「石を嵌めたら、また現れるはずよ。まずはクルシファーを探しに行きましょう。」

クルシファーというのがここ4の扉の石の名前らしい。
某映画のキャラみたいな名前だなぁ、なんて呑気な事を考えながら質問する。

「で、どこに行けばいいのかな?地図とか無いの?」


見渡す限り、白い木と花畑と、雪の様な景色。
まるで一面薄く、雪が積もっている様だ。
でも寒く無いので雪ではないと思う。
草や花もあるけど、とにかくみんな白い。

気になって蹲み込み、足元の草を確認してみる。
感触や見た感じは、草だ。

色が白い以外はおかしな所は無さそうだけど、どうして白いんだろう?

「道案内しましょうか?」

「!!」

急に足元が喋ったので、驚いて尻餅をついた。
誰もいないと思っていたのに、いきなり声がしたのだ。
それも、聞き覚えの無い、可愛らしい、声。

キョロキョロと広い白を見渡してみるが、やはり周りに人影は見当たらない。

ふと思い出して地面に着いた手のひらを確認するが、地面は冷たくないし、濡れてもいなかった。
予想はしていたけれど、不思議な感じだ。

「依る、そろそろ慣れなさいな。家の花だってお話してたでしょう?」

「あ。」

朝はため息を吐いているけど、色々あってすっかり忘れていた。

そういや、喋るんだったっけ…。

気を取り直して、一人揺れている白い花を見る。
きっと、喋ったのはこの花に違いない。


私が花の前に蹲んで、話を聞く体勢を整えると。
やはりその白い花は、葉っぱを手の様に動かしながら話し始めたのだ。

「私はナズナ。茶の石のところへ行くのでしょう?詳しい場所は知らないけれど、長老の所までならご案内できますよ。」

そう喋り出したマーガレットに似た白い花は、ちゃんと名前がある様だ。

ナズナの話によると、この白い森の主が森の真ん中にいる筈だと言う。
森の全てを管理する主ならば茶の石のいる所を知っているだろう、という事だった。

全くもって、当てがないので正直助かる。
私達は、かなり行き当たりばったり旅なのだ。

そうしてナズナにお願いをすると、早速出発する事にした。



「そう、あ、もうちょっと下です。ハイ、その辺で。はい、OKです。」

現場の指示出しのようなナズナの指示で、ナズナを摘むと出発だ。
(根っこごと運んでくれれば、また戻す時に都合がいいらしい。)

そのまま私のリュックの蓋に乗せて、進む事にした。
落ちない様にそっと乗せて、ゆっくり行くことにしよう。




道すがら、ナズナに白い森について聞く。

どうやらここはティレニアという名前らしい。
ナズナは、白い森の中しか知らないと言っていたが(花だからね)、途中で時々口を挟んでくる宙によるとティレニアには白い森しか存在しない様である。

4の扉は白い森、って事だね。了解。

白く広い花畑の中を進み、どんどん森が近付いてくると白く大きな木々が鬱蒼と茂っているのがよく分かる。
近くで見ても色が白い事以外は、所謂普通の森に見える。


しかし白い森の中へ入る前に、ナズナが聞いて欲しい事があると言う。
私達は森へ入る前の注意だろうと、立ち止まった。

「森の中で迷子になると帰れませんから、皆さんバラバラにならないようにして下さい。あと、森の中には動物はいません。木や草以外に話しかけられても、答えないように。」

「動物も、虫とかもいないの?」
「ええ、いません。もし、動物や自分以外の人間、もしくは自分に話しかけられても答えてはいけませんよ。」

ん?自分に話しかけられる??
どういうこと?

首を傾げている間に、朝が森へと入って行く後ろ姿が見えた。
見失うと、まずい。

チラリとナズナを振り返ると、置いて行かれない様、慌てて後を追った。





なんだか気持ち良さそうに鼻歌を歌う藍につられて、楽しい気分で歩く。

薄い光が差し込む森。
高い木々の間を進んでいたが、周りがみんな白いので森の中は存外明るかった。

なにしろ色が無いので、不思議な雰囲気はするけれど。
白い木々や草、倒木に苔を照らす薄い光がヴェールの様に見えて、とても幻想的だ。
獣道のような道を進んだり、木立の中を進んだりと様々な所を通ったが、比較的歩きやすいのは助かる。

途中に大きな木が倒れていたり、水溜りがあったりするけれど、本当にみんな白いのだ。
あまりに白く幻想的で、なんだか全てが造り物の様にも見えてきた。

「ねえ。これも…凄いね?綺麗…。」

そう、予想外に幻想的で美しく、ゆったりとした景色が続く世界に、私の中の警戒心は徐々に薄れてきていたのだ。



そんな中、道中慣れてきた私は大きな水溜りの白い水がどうしても気になって、触ってみてもいいかどうかナズナに訊いていた。

だって見た目は完全にカルピ◯だし…。まさか流石に飲みはしないけど。

「大丈夫だと思いますけど…。」

葉っぱを花に当てて少し心配そうに私を見るナズナ。
だけど、私の好奇心が勝った。

ちょっとだけ。ちょっとだけ、触らせて?


「う、わぁ……………。」

水の縁に蹲み込んで、そっと手を入れる。
見た目は白いが、手を入れると透明だ。

「普通の水っぽいね。」

匂いを確かめる朝に話しかけながら、もう少し深めに手を入れる。
すると、水に手首の腕輪が触れた途端、水に色が着き始めたのだ。

手首から広がっていくキラキラとした、透明の水色。
手首の側からどんどん、白が水の色に変化していく。

水底は深い藻だろうか、濃い緑で見えなくなりどの位深いのかも分からない。
波紋が広がる様に変わっていく水溜りに、「うわわゎゎ。」と間抜けな声が漏れた。

「ナズナ!どうしよう!」

慌てて水から手を抜いて振り向く。
ナズナは困ったように葉を顎?に当て、首を傾げていた。

「多分その石のせいでしょうね。水の石がありますから。」
「水の石?」

疑問符を貼りつけたままの顔で、私は自分の腕に嵌っている腕輪を見る。
水という事は水色だろう、と当たりをつけ藍に聞くと藍は事もなげに答えてくれた。

「あら。勿論私は水の石よ。それも、とびきりのね。」

え。そうなんだ。

自慢気な藍が言うには、この白い森には大きな「まじない」がかかっているそうだ。
そのまま注意もしてくれる。

「私は、浄化の石だから。全ての「曇り」を洗い流すのよ。水に触れていると、それがやり易いという事ね。でも、この森の中にどういう影響があるか分からないから、これ以上は止めた方がいいわ。」

ナズナも目的が茶の石の限りは、あまり影響を与えずに茶の石を手に入れる事を優先した方がいいと言う。

確かに、入り込んだだけの私があまり森にあれこれ影響を与えるのも良くないと思う。
既に小さな事件を起こした私は、ひとまず腕輪が他の所に触れない様にもう片方の手でそっと握り締めた。

「この池はとりあえずしょうがないよね…。」

元に戻す方法も分からないし……。

そう思いながら、池を覗く。
風もない水面は水鏡となって、そのままの私の姿を映した。

「…?」

なんだか、多少の違和感を覚えたけれど。

何かは分からなかったので、とりあえず進む事にした。


森の中の景色にも慣れ、少し飽きてきた頃。

前を歩いていた朝が立ち止まった。
尻尾をピンと立てている。

「こんにちは。」

声がした方を見ると前方の木の陰からスッと鹿のような動物が出てきた。
真っ白だけど。多分鹿、に近い。

「どこまで行くの?ご案内しましょうか?」

「森の主に会いに行くの。どこにいるか知ってる?」

「依る!!」

助かる、とばかりにすぐに返事をした私の耳には、その時。

遠ざかる、焦った様な朝の声が聞こえていたのだ。



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