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8の扉 デヴァイ
ラピス 花の種
しおりを挟む「ん?大丈夫、ヨル?」
「多、分。」
考えるより先に、胸に、きた。
え なんだろう これ
知ってる あの あの
広い 透明な あそこ
私の 場所 そこにある
あ、 そうだ 「あれ」だ。
辿った先、私の記憶なのか、なんなのか。
覚えのあるこの、匂いは。
多分、あの祭壇に捧げられていた、花の香りじゃないかと、思う。
どの、花なのかは分からない。
沢山、色とりどりの花が、飾られていたし。
祭壇に捧げられてゆく、沢山の花は、どれも。
その辺りで咲き誇る、その時一番美しいものを。
みんなが、摘んで来てくれたものだからだ。
しかしある一定の雰囲気があるその香りは、今、思えば。
きっと「空気」の、違いか。
「水」の違いか。
はたまた「時」の、違いなのか。
でもなんで?
今、ここに。
あるんだろう………???
しかも、私が「なりたいもの」を。
「あんな風に 在りたい」と、思った、矢先に。
しかし心は、静かだ。
いつもなら、ぐるぐると余計な事を考えるであろう、私の頭は何故だか沈黙していて。
「私の真ん中」が。
ただ、「そういう風に できている」と、言っているのが、わかる。
私が 思っている こと
エローラが 選んでくれた この 香り
「一致していること」
「私の思う 私」
「外から見た 私」
「内側と外側」 「なかみ と そとみ」
よく、解らないけど。
なんだか、いい? 感じ?
ふと気が付いて、止まっていた手を動かし小瓶の蓋を閉める。
そうして顔を、上げると。
私を見つめる、四つの瞳があった。
「ヨル、凄いでしょうそれ。」
「えっ、そう、ですね?どうしたんですか、これ。」
「判る?やっぱり?流石ね。それは、今年初めて成功したものでね、昔の花の種なのよ。それを咲かせて、作ったの。」
「えっ。」
ほん、とに??
まるっと顔に出したまま、止まっている私に説明を続けるルシア。
そう、いつの間にかエローラの隣にはルシアが座っていたのだ。
「ほら、この頃変わってきたでしょう、ここも。この花の種はお屋敷から貰ったものだけれど。これまでには無かった交流が始まった所も多くて、街も何て言うか………。」
「深みが、増しましたよね。」
「そう!それよ、エローラ。付き合い方が変わった、と言うのかしら?もっとお互いを知る様な、思いやる様な。兎に角、いい感じよ。その中でもほら、泉に行く人が増えたからその関係でこれを貰ったの。ずっと屋敷の奥に仕舞ってあったらしいわ。」
「………なんか、凄いですね。」
言いたい事は、沢山ある気がするけれど。
私の胸はもう既に、いっぱいである。
ラピスがいい方向に変化してくれていること。
泉が貢献できていること。
開かれた中央屋敷、ソフィアのこと、そして。
「花の、種………。」
もう一度小瓶を光に翳し、キラリとさせる。
「ん?ウイントフークさん、これ………。」
ちょ、これ。
私の石じゃ、ない?????
「ああ、それはこの間「融通してくれないか」って訊いたら。送ってくれたのよ。こんないいもの、何処で手に入れたのかしらね?小さいけど、かなりの物でしょう?」
「う、あ、はい。多分。」
チロリとエローラがこちらを見た気がしたが、スルーしておこう。
普段ならば、こんな石を見て大騒ぎするであろう私が大人しいのが、きっと不思議なのだろう。
驚いておけば良かったかな………?
いや、でも見た時驚いたから、いっか。
しかし、ヨークのガラスと私の石、昔、いや多分古代の花の種。
これだけ揃えば、なんだか何かが。
起きそうな気がするのは、私だけだろうか。
「とっておきの時に、付けてね。」
「そうね。イメージピッタリよ。」
「え?ちなみにどんなイメージですか??」
少し、興味が出て二人の顔を交互に、見た。
エローラはなんとなく分かるけど。
ルシアさんは、どうなんだろうか。
「私は………まあ、見たまんまかな?ほら、ヨルって見た目は清楚系じゃない?中身は全然なんだけど。それで今回、深みも加わった訳ですけども………。なんて言うのかな………「染まらない」みたいな。結局、ヨルはヨル、なのよね。」
「それは分かるわ。きっと私達が思うより、沢山の事を抱えてるんだろうけど。それを感じさせない強さはきっと天性のものだろうし、何でしょうね…ヨルは、多分。「穢れない」んでしょうね。」
「えっ。「穢れない」??」
ルシアから、意外な言葉が、出た。
この世界にも、「穢れ」という概念があるのだろうか。
「そうね、ほら前に説明したじゃない?あの、青の像で。ここでは、悪い事をすると石が見てる、って。まあヨルは悪い事はしないでしょうけど。何があっても。あなたの石は………きっと、自分で自分を浄化できるんでしょうね…そんな、感じよ。だからこの、「透明」が。本当にピッタリだと、思うわ。」
「ヨルは、ねぇ…。」
「そうね。この子は「芯」があるから。大丈夫よ。」
「そうですね。」
目の前で、納得しあっている二人に、涙腺君は頑張っていた。
お店で泣くのは、なんだか気まずい。
しかし、辺りを見回しハンカチを差し出すルシアに甘え、顔を隠す事にした。
多分、お客さんがいなくなったのだろう。
その、差し出されたハンカチからもフワリとハーブの香りが、して。
私の涙は、何故だか笑いながら吸い込まれて行ったのだ。
はぁーーー。
良い香り。この、ハンカチ………。
これ何のハーブかな………。
落ち着いてくると、「スーハー」とハンカチの匂いを嗅いでいる自分が、怪しく見えるのではないかと気になってきた。
辺りは、静かである。
きっとまだお客さんは入って来てなくて。
エローラは、店内を物色しているに違いない。
少し離れた場所で、コツコツと足音が聴こえるから。
ルシアさん、仕事に戻っちゃったかな………。
いやでも、これは洗って返さないと流石に気まずい…。
二人が、思っていてくれたこと。
私が、やりたいこと、なりたいもの。
どの「想い」も、置いては行けないこと。
飛ばして、謳って、溢して。
どれも美しく濾過して、この「世界」に、チカラとして戻すこと。
「うん、やれそう………かな?うん、そうなんだ。大丈夫、知ってる。」
「あ、もう大丈夫?迎えが来てるわよ?」
「ん?」
そう声を掛けたエローラの背後から、見慣れた極彩色が顔を出した。
いや、髪の毛は見えていたけれど。
「えっ、もうそんな時間?」
「まぁな。お前、どれだけ喋ってたと思うんだ?」
「えっ。」
また、聴いてたの?
どこから???
いや、でもこの人にそれは。
愚問、なのか。
とりあえず帰る支度をしようと、お会計を頼むとなんとエローラが払ってくれたらしい。
「えっ、ちょっ、駄目だよ!」
「いやいや、また今度ヨルが買ってよ。私に。」
「うん?なんかそれは、いいな??」
「でしょう?」
ぐっと迫る、寂しさと期待、半々の気持ち。
今度いつ、来られるのか、来られないのか。
でも多分。
エローラだって、それを解ってるから。
「うっ………とりあえず、じゃあ。ありがとう。絶対、次は私が買うからね??」
「はいはい、待ってるわよ。」
「じゃあちょっとルシアに顔出してくる。」
「えっ、私も行くよ。」
「待って、ヨル。」
そう、私を止めたエローラの視線は、この大きな人に注がれている。
確かに。
この店に極彩色が一人は、なんだか私も気まずい。
「ヨルは後でも大丈夫でしょ。ちょっと待ってて。」
「はーい。じゃあお願いします。」
そうしてエローラが店の奥に消えると、なんだか久しぶりな気がして、振り返った。
あの二人と話していたら。
すっかり気分は、ラピスに戻っていたからだ。
「ふぅん?」
何故か私を見て、何かを考えそう声を発した、千里。
この落ち着いた店内での意外と馴染みの良い極彩色に、感心しながらその色を眺めて、いた。
「気が付いて、いないのか?」
「えっ?」
なにが?
再び繁々と眺め、「それならいい」と、踵を返した極彩色。
えっ?
嫌な、予感?
「お待たせ!じゃあ、帰ろう。」
「あ、うん。送って行くよエローラ。」
「ありがとう。じゃあこっちからだね。それでさ……… 」
そう、その「嫌な予感」はやはりエローラとの爆弾トークで。
速攻、私の思考の隅に追いやられたのは、言うまでも、ない。
うん。
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