透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

勇気のカケラ

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「しかしあの子が賛成するとはね。何か条件でも、あったのかい?」

「うーん、賛成って。言っていいのかは分からないですけど。でもウイントフークさんなりの譲歩…なのか……いや、後が怖いのか?うん??」

混乱する私の前で、クスクスと笑うイストリアの目は優しい。

なんだかこの親子の仲の良さを垣間見た気がして、私も釣られて嬉しくなってきた。
少し重くなっていたからか。

場の空気も大分軽くなり、鼻にはいい香りも届き始めていた。


「さあ、どうぞ。それで?「ガラス」を、撒くのだろう?」

カチリと置かれたカップ、今日は半透明の美しいグリーンだ。
まじないを感じさせる曖昧な色は、フリジアの所にある物とよく似ている。
私の視線に気付いたのか、頷きながら「そうだ」と教えてくれる彼女も大分私の顔が読める様になってきたらしい。

「イストリアさん、朝に似てますね…あっ、猫に似てるって、いや、でも 」

「ハハッ、光栄だよ。」

朝は猫だけれど。
普通の猫ではないし、なんなら私の大事な家族だ。
しかし猫に例えられて、気にする人もいるかと弁解しようとしたがやはりこの人にとっては。
気にする必要はなかった様だ。

「なんか………問題はあるのかも知れないですけど。でも、折角星が降るんだから「願い」くらいは。言えなくても、「考えて」欲しいし…なんか、とりあえず。ウキウキ?楽しく?パーっと、盛り上がりたいじゃないですか。」

「娯楽も女性には、そう無いんだろうし?楽しいこと、嬉しいこと、ときめくこと。………なんだろうな………「潤い」が必要ですよね?生活には。なんか、上手く言えないけど。」

「まあ、言いたい事は解るよ。」

ニコニコしながら話を聞く薄茶の瞳は、くるりと回ってこうも、言う。

「なにしろ確かに星が降ったならば。祈りが途中で途切れる可能性はあるが、の力は得られるだろうからね。」

「えっ、そう、思いますか?」

ニコニコが、ニヤリに変わって。

テーブルに肘を着いたイストリアは、そこから予測している事を話し始めた。


「まず、畑の土は満ちるだろう。そこは、心配していない。グロッシュラーこちらの者達は「夜の祭祀」に好意的だし、何せ初めての事だけど。楽しみにしているよ。きっと予測のできないことが起こるであろう事が、分かっているんだろうね。ある意味、これも君の効果だ。」

「うっ。」

いいのか、なんなのか。

しかし「想像もできない程、美しいもの」を現すと。
ずっと思って、やって来たから。

ある意味、成功なのかも知れない。


ん?
でも?
それって………

「イストリアさん!それって………」

「ああ、「希望」だろうね。「願い」なのか。なにしろ前向きなのは間違いない。これはやはりいい展開だよ。風向きが変わってきたのが、分かる。問題はデヴァイ向こうの連中だけどね………。」

くるりと真剣な顔に切り替えたイストリアの話は、あのフリジアが心配していた内容に切り替わった。

「結局。あの子とも話したけれど。この祭祀を、「実施させたい」力が働いてる可能性が、高いと思っている。」

「実施、させたい………」

「そうだ。勿論、「君が祈る」事は織り込み済みだろう。きっとこれに意図があるならば。必ず君に繋がる事は分かってやっているだろうね。だから、祈れば何かが起こる可能性は、捨てきれない。と言うか………。」

えっ。

起こ っちゃう ??
それ、確定?


私が、思ったよりも。

イストリアとウイントフークは「私に祈らせるため」、畑が荒らされたのだと感じているのだ。

その事実を目の前にして、しかし。

私に「祈らない」という、選択肢は無かったし。
多分、この、薄茶の瞳にも。


じっと向かいの瞳を見つめ、こう言ってみる。

「私、「勇気のカケラ」を撒きたいんです。」

「勇気?それまた、どうした?」

急におかしな事を言い出した私の事を、楽しそうに見ているイストリア。
こんな時のこの人の姿勢が、とても好きだ。

何を言っても、否定する事なく。

面白がって、受け入れてくれるところ。

だから、安心して。
私の「なかみ」を、打ち明けられるんだ。


「ずっとここ最近、おんなじ所をぐるぐるしてて。やっぱり、「愛」だし「チカラ」が足りないし、「石」も無いし。どうやって「色」を。足せばいいのかも、分からない。」

「でも。多分、根っこは、おんなじで。みんながみんな、「足りてない中身のコップ」を持ち右往左往して、奪ったり、奪われたり。ずっとそんな事を繰り返してて。でも、「チカラ」って、「愛」って、降ってるもので、本当なら誰でも受け取れる物だから。撒き散らしたいんです。ぶち撒けちゃえば、いい。」

「思いっきり、空、全体に。」

熱くなってくる身体、手を大きく、拡げて。

空全体を表し、大きく息継ぎをする。

「そうして、手元に星のカケラが残って。もしかしたら、ただのガラスかも知れない、でも。それって、本人の気持ち?心?次第だと思うんですよね。それで、、思った人だけかも知れないけど。きっとそれが「勇気のカケラ」に、なるんだ。多分、…………そう、ですよね?」


「君は…………本当に。なんだ、なぁ 。」

とてつもなく柔らかい瞳で私の事を見つめたまま、途中で言葉が切れる。

なんだか、私も口を開くのが躊躇われて。
でも、何も言う必要も、無い気もして。

ただ、再び明るい光の筋が降り始めたテーブルの上を、眺めていた。

いや、勿論出されたオヤツに手は、伸ばしたけれど。


そうして。
暫く無言でモグモグしていると、イストリアがゆっくりと話し始めた。

「しかし………勇気のカケラね。確かに手元にあると、いいだろうし。あの子曰く、全体礼拝で知れたのだろう?それなら大丈夫かな…しかしこのガラスは綺麗だね?」

テーブルのヴェールを手に取り、まじまじと見ているイストリア。
その表情が本部長そっくりで、クスクスと笑っていた。

「まあ、確かに。この透明度なら。………大丈夫か。どうやって光らせたんだって?ラピスで試したのだろう?」

「フフッ、そうなんですよ。いや、実は…。」

話してみると、イストリアとヨークは知り合いらしい。
私もこの二人は、絶対合うと思っていたので嬉しくなる。

そうして工房での話をウキウキと展開していると、丁度「反応」の話をした所で。

「ん?待って。」とイストリアから声が掛かった。


「あ。」

その薄茶の視線を、ゆっくり追って行くと。

なんと、私の手に戻っていたヴェールがキラキラと光っていたのだ。

いやしかし、あの二人の時よりも、大分。
色数は、多かったけれど。


「ほう、これが反応という事かい?」

「そう、ですね?………えっ、でも?なんで?この話で?光っちゃうの??」

グラデーションで並ぶヴェールのガラスは、流石に色数も多く、更に虹色に煌めいている。
あの二人の時は、それぞれ単色で光っていた筈だ。

「これは君が持っているから光るのか、それともまじないが関係?これはヨークのガラスなんだよね?」

「そうです。多分、あのですね………。」

確かに「反応」については、さっき説明した。

でも。
そもそも、「どうして反応するのか」は話していなかった事に気付き、また頭の中をつらつらと洩らしていく。

確かに私の狙いの、もう一つは。
手元に残った時、「自分の色」で光れば。

もっといいと、思ったからなのだ。


「とりあえずこっそりお家へ持って帰って、いい感じの場所に置くじゃないですか。え?お気に入りの場所みたいなの、ありますよね?無いかな………とりあえずそれはいいとして。で、例えば嬉しい時とか、ウキウキした時とか。………いや、ありますよ、これからはきっと。うん。」

とりあえず自分で弁解しつつ、話を進める。

「で、ある時「ハッ」と気付くんですよ!「あれ?なんか光ってる、しかもこの色………好きな色じゃないかしら」みたいな。でも光は消えて、また時々光って。で、光る時と光らない時、その違いまで気付いちゃったらもう、完璧なワケでして………。はい。」

「成る程ね、成る程…、っ。」

クスクス笑いから、段々爆笑に近くなってきたその姿を見て。

腑に落ちない気はするが、とりあえず。
その、揺れる水色髪が治まるのを暫く待っていたのである。



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