透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

違い、区別、差別

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もしかしたら?
あの、お爺さんの枝みたいに伸びちゃうかも??

そんな心配を他所に、温室の花達は謳を繰り返す間、優しく揺れていただけで。
成長する事は無かったし、萎れていた花が元気になった以外、変化は無かった様である。

結局、ぐるりと温室を周りながら謳っていた私、その間、男三人は黙って花達の様子を見ていた。


そうして何番を謳っているのかもう、分からなくなってきて花達の声が小さくなってきた、頃。
アリススプリングスが席に戻り、それを見た私が口を閉じると。
同時に止んだ歌声、ホッとした様に席に着くブラッドフォード。
一応、チラリと極彩色を確認したが「座れ」という事なのだろう。

確かにまだ、話は途中なのだ。

私が「女性に参加して欲しい理由」を、述べただけで。
まだ、返事は貰っていないのである。


正面に再び座った私の顔をじっと見ながら、何故だか楽しそうな色を浮かべた灰色の瞳。

やはり、謳わない方が、良かったろうか。
いやそれも、今更だけど。

しかし、いきなりくるりと色を変えた瞳は一段、トーンが落ちていて。
再び質問を、投げてきたのだ。

「男と女、まじないの色の質が違うのはなんとなくだが、分かる気がする。しかし君は。それを足す、価値があると言うが。それは「同じ色」が、多くともだという意味か?」

「………はい。」

ん?
これ、どっち?

賛成なの、反対なの?
だって意味が無いと、提案なんてしないんですけど………??

だから、言ってるじゃん。


さっきまで笑っていた表情とは打って変わり、静かにそう問う姿は流石銀の一位、という威厳を醸し出している。
いきなり変化した彼の様子に少しの戸惑いは覚えたけれど。

私のやる事は、変わっていないんだ。

「どんな人でも。固有の色を持つと思うし、「固有の色それ」が結果、全部の糧になるんだと思ってます。」

「さっきそう言いましたよね?」という顔をしている自覚はある。
私の表情を見ながら微笑むその薄灰色の瞳は、少し冷たくて。

「俺を納得させてみろ」という、顔に見えるのは私だけだろうか。

そのまま口を開く事のない彼を見て、この世界での女性の扱いが知れる。
きっと「参加しても意味が無い」と思っているのだろう。

それか、私の今言った理由だけでは。
弱い、のか。


考えろ。
、言えば。

この人、いやこの世界の頭の固い人達を納得させられる?

納得してもらう、必要なんてない。
変えること、それもできないのだけど。

でも、「きっかけ」を作ることだけは、必要なんだ。

これまで散々、悩んできたぐるぐる、「変えようとするな」というフリジアの言葉が浮かんでは消え、複雑な色が絡み合う。


何を、どう言えば正解?

でも。「正解」する必要なんて、あるの?


  「君には君の輪を 自由に」


浮かぶ言葉はみんなが私にくれた、沢山のギフト、しかしそれはどれも大事な言葉だけれど反対の内容も含むのだ。

どう、しようか。

でも。

結局、「決める」のは「私」なんだ。


無意識に正面の薄灰色の瞳を、見て。

その隣の青い瞳も、見る。

正面の瞳はただ、私が何を言うのか興味がある、といった体だ。
少し面白がっているのではないか、この人は。

さっきまでの冷たい雰囲気は少し薄れ、花の様子を見ていた時に戻った気がする。

ブラッドフォードは、なんか。

えっ。

思わずパッと、目を逸らしてしまったけど。

なん、か…………?

なんとなく紫の瞳を探して二人の背後を見るが、見当たらなくて振り向いた。

いた。

入り口の方で静かに佇む極彩色は、表情としては大人しいけれど。
あの、目は。

絶対、面白がってるよね………!


そう、正面隣のブラッドフォードの瞳は何故だか熱を帯びていて。

思わず目を逸らしてしまった私、それがまた逆に意識してしまった様で、気まずい。
きっとそれを解っているのだろう、極彩色は面白がる方向だろうし。

アリススプリングスは、それに気付いてはいないと、思うんだけど………???


とりあえず、顔を上げられないまま返事を考える事にした。

そうそう、この問題は、後よ、後。

豪華なカップとソーサー、その少し派手な金彩を見つめながら思考を元に戻そうと手繰り寄せる。


えっ?
でも??

デヴァイここって、女の人は本当に何も、やっていないんだろうか。

家の中でも、色々やる事あるよね?

家事は勿論、あのシリカみたいに。
刺繍をしたり、家業の手伝いをしたり、してると思うんだけど??

こんな事なら、白の区画でもっと他の工房も見学しとくんだった………。
ん?でもパミールはお化粧品とか結構関わってるって言ってたな…………???


しかし、なにしろ。

「今この人が」「価値が無い」と。

思っている、事が問題なんだ。
事実は、どうあれ。

どうしてなんだ、ろうか。

「認められない」のは。


覚えがある、フワフワと浮かんで来る沢山の「想い」と「色」。

どんな時代ときでも。

「重要視されない」、日々の事柄、名前の付けられない小さな物事。

小さな物事それ」って、価値が無いのだろうか。
価値、って言うのもおかしいかも知れない。
でも、「仕事」に価値があるとしたら。

それだって、「仕事」だよね?

私達が生きていく為に、寧ろ、そっちの方がなくてはならない「仕事」の筈なんだ。

それが「くだらない」「価値の無い」「些事」「対価を得るに値しない」そんな風に、決めたのは誰?

いや、「誰が」「なにが」と言うのではなく。

「どうして」「そんな形に」なって、いるのだろうか。


「…………でもな。それって、私の世界でも、かも。あ。」

咄嗟に顔を上げるが、発言の意味に気付いてはいない様子。

そうそう、私はラピスから来た事になってるし?
うん?
多分、大丈夫、大丈夫………。
背後は振り向かない事にしておこう。うん。


でも、結構それって。
やっぱり………?

「女性に価値が無い」ことに、しておきたい「なにか」か「誰か」がいるって事だよね??

チラリと正面の瞳を見るが、この人達だってその「仕組み」の中という事だ。

ずっと、ずっと続いてきたであろう、「区別」や「差別」、が家の色や家格、セイアやロウワ、ラピスやデヴァイなのか、男女なのか、その違い、だけで。


何処に行っても、見てきた光景、「違い」について「区別」が「差別」になること。

「違う」ことは、悪い事じゃない。

でも。
それが「おかしい」とか「悪い」とか「優劣」とか。

そう、されてしまうのはどうしてなんだろうか。


「私達って。人間、ですよね………。」

ポツリと呟いた言葉に、ゆっくりと瞬きする正面の瞳。
変わらないその色に、言葉を続ける。

「動物だったら。………いや、人間も動物か…ん?これか?あの子が言ってたのって。いや、いや。」

それは後だ。

「それで、動物…獣ならば。「違い」を排除するのは分かるんです。毛色が違うものがいると、危険があるんでしょうし。でも。私達は、獣じゃないしどうして「違う」のかも、知っている。知ってるのに、何故排除…区別?差別?するんだろうか?どうしてすぐに「どっちが上、下」みたいにしたがるんだろう…あっ、すみません………??」

微妙な色になっている正面の瞳、隣のブラッドフォードは少し苦い顔だ。
確かに話が逸れた感は、あるけれど。

でも、これは。
私にとっては一続きの、切っても切れない、話なのだ。
理解してもらえるかも、分からないこの「そもそも論」的な話。
しかも、この世界の最高責任者とも言える、この人に間接的にでも「おかしくないですか?」と、言っているのだ。


怒られるかな………。

とりあえず。
口に出してしまったものは、仕方が無い。

私は「私のまま」で行く、と決めたんだし。


そうして開き直った、私は。
そのまま、まな板の上の鯉の気分で冷めたお茶を啜って、いたのだ。




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