718 / 2,079
8の扉 デヴァイ
違い、区別、差別
しおりを挟むもしかしたら?
あの、お爺さんの枝みたいに伸びちゃうかも??
そんな心配を他所に、温室の花達は謳を繰り返す間、優しく揺れていただけで。
成長する事は無かったし、萎れていた花が元気になった以外、変化は無かった様である。
結局、ぐるりと温室を周りながら謳っていた私、その間、男三人は黙って花達の様子を見ていた。
そうして何番を謳っているのかもう、分からなくなってきて花達の声が小さくなってきた、頃。
アリススプリングスが席に戻り、それを見た私が口を閉じると。
同時に止んだ歌声、ホッとした様に席に着くブラッドフォード。
一応、チラリと極彩色を確認したが「座れ」という事なのだろう。
確かにまだ、話は途中なのだ。
私が「女性に参加して欲しい理由」を、述べただけで。
まだ、返事は貰っていないのである。
正面に再び座った私の顔をじっと見ながら、何故だか楽しそうな色を浮かべた灰色の瞳。
やはり、謳わない方が、良かったろうか。
いやそれも、今更だけど。
しかし、いきなりくるりと色を変えた瞳は一段、トーンが落ちていて。
再び質問を、投げてきたのだ。
「男と女、まじないの色の質が違うのはなんとなくだが、分かる気がする。しかし君は。それを足す、価値があると言うが。それは「同じ色」が、多くともそうだという意味か?」
「………はい。」
ん?
これ、どっち?
賛成なの、反対なの?
だって意味が無いと、提案なんてしないんですけど………??
だからそう、言ってるじゃん。
さっきまで笑っていた表情とは打って変わり、静かにそう問う姿は流石銀の一位、という威厳を醸し出している。
いきなり変化した彼の様子に少しの戸惑いは覚えたけれど。
私のやる事は、変わっていないんだ。
「どんな人でも。固有の色を持つと思うし、「固有の色」が結果、全部の糧になるんだと思ってます。」
「さっきそう言いましたよね?」という顔をしている自覚はある。
私の表情を見ながら微笑むその薄灰色の瞳は、少し冷たくて。
「俺を納得させてみろ」という、顔に見えるのは私だけだろうか。
そのまま口を開く事のない彼を見て、この世界での女性の扱いが知れる。
きっと「参加しても意味が無い」と思っているのだろう。
それか、私の今言った理由だけでは。
弱い、のか。
考えろ。
どう、言えば。
この人、いやこの世界の頭の固い人達を納得させられる?
納得してもらう、必要なんてない。
変えること、それもできないのだけど。
でも、「きっかけ」を作ることだけは、必要なんだ。
これまで散々、悩んできたぐるぐる、「変えようとするな」というフリジアの言葉が浮かんでは消え、複雑な色が絡み合う。
何を、どう言えば正解?
でも。「正解」する必要なんて、あるの?
「君には君の輪を 自由に」
浮かぶ言葉はみんなが私にくれた、沢山のギフト、しかしそれはどれも大事な言葉だけれど反対の内容も含むのだ。
どう、しようか。
でも。
結局、「決める」のは「私」なんだ。
無意識に正面の薄灰色の瞳を、見て。
その隣の青い瞳も、見る。
正面の瞳はただ、私が何を言うのか興味がある、といった体だ。
少し面白がっているのではないか、この人は。
さっきまでの冷たい雰囲気は少し薄れ、花の様子を見ていた時に戻った気がする。
ブラッドフォードは、なんか。
えっ。
思わずパッと、目を逸らしてしまったけど。
なん、か…………?
なんとなく紫の瞳を探して二人の背後を見るが、見当たらなくて振り向いた。
いた。
入り口の方で静かに佇む極彩色は、表情としては大人しいけれど。
あの、目は。
絶対、面白がってるよね………!
そう、正面隣のブラッドフォードの瞳は何故だか熱を帯びていて。
思わず目を逸らしてしまった私、それがまた逆に意識してしまった様で、気まずい。
きっとそれを解っているのだろう、極彩色は面白がる方向だろうし。
アリススプリングスは、それに気付いてはいないと、思うんだけど………???
とりあえず、顔を上げられないまま返事を考える事にした。
そうそう、この問題は、後よ、後。
豪華なカップとソーサー、その少し派手な金彩を見つめながら思考を元に戻そうと手繰り寄せる。
えっ?
でも??
デヴァイって、女の人は本当に何も、やっていないんだろうか。
家の中でも、色々やる事あるよね?
家事は勿論、あのシリカみたいに。
刺繍をしたり、家業の手伝いをしたり、してると思うんだけど??
こんな事なら、白の区画でもっと他の工房も見学しとくんだった………。
ん?でもパミールはお化粧品とか結構関わってるって言ってたな…………???
しかし、なにしろ。
「今この人が」「価値が無い」と。
思っている、事が問題なんだ。
事実は、どうあれ。
どうしてなんだ、ろうか。
「認められない」のは。
覚えがある、フワフワと浮かんで来る沢山の「想い」と「色」。
どんな時代でも。
「重要視されない」、日々の事柄、名前の付けられない小さな物事。
「小さな物事」って、価値が無いのだろうか。
価値、って言うのもおかしいかも知れない。
でも、「仕事」に価値があるとしたら。
それだって、「仕事」だよね?
私達が生きていく為に、寧ろ、そっちの方がなくてはならない「仕事」の筈なんだ。
それが「くだらない」「価値の無い」「些事」「対価を得るに値しない」そんな風に、決めたのは誰?
いや、「誰が」「なにが」と言うのではなく。
「どうして」「そんな形に」なって、いるのだろうか。
「…………でもな。それって、私の世界でも、そうかも。あ。」
咄嗟に顔を上げるが、発言の意味に気付いてはいない様子。
そうそう、私はラピスから来た事になってるし?
うん?
多分、大丈夫、大丈夫………。
背後は振り向かない事にしておこう。うん。
でも、結構それって。
やっぱり………?
「女性に価値が無い」ことに、しておきたい「なにか」か「誰か」がいるって事だよね??
チラリと正面の瞳を見るが、この人達だってその「仕組み」の中という事だ。
ずっと、ずっと続いてきたであろう、「区別」や「差別」、それが家の色や家格、セイアやロウワ、ラピスやデヴァイなのか、男女なのか、その違い、だけで。
何処に行っても、見てきた光景、「違い」について「区別」が「差別」になること。
「違う」ことは、悪い事じゃない。
でも。
それが「おかしい」とか「悪い」とか「優劣」とか。
そう、されてしまうのはどうしてなんだろうか。
「私達って。人間、ですよね………。」
ポツリと呟いた言葉に、ゆっくりと瞬きする正面の瞳。
変わらないその色に、言葉を続ける。
「動物だったら。………いや、人間も動物か…ん?これか?あの子が言ってたのって。いや、いや。」
それは後だ。
「それで、動物…獣ならば。「違い」を排除するのは分かるんです。毛色が違うものがいると、危険があるんでしょうし。でも。私達は、獣じゃないしどうして「違う」のかも、知っている。知ってるのに、何故排除…区別?差別?するんだろうか?どうしてすぐに「どっちが上、下」みたいにしたがるんだろう…あっ、すみません………??」
微妙な色になっている正面の瞳、隣のブラッドフォードは少し苦い顔だ。
確かに話が逸れた感は、あるけれど。
でも、これは。
私にとっては一続きの、切っても切れない、話なのだ。
理解してもらえるかも、分からないこの「そもそも論」的な話。
しかも、この世界の最高責任者とも言える、この人に間接的にでも「おかしくないですか?」と、言っているのだ。
怒られるかな………。
とりあえず。
口に出してしまったものは、仕方が無い。
私は「私のまま」で行く、と決めたんだし。
そうして開き直った、私は。
そのまま、まな板の上の鯉の気分で冷めたお茶を啜って、いたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪
山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。
「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」
そうですか…。
私は離婚届にサインをする。
私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。
使用人が出掛けるのを確認してから
「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」
愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる