透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

箱船問題

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「全くお前は…………」
「ヨル、俺は婦女子にまさか「扉を壊すな」と言う羽目になるとは流石に思ってなかったぞ?………虫になるより想定外だ。」

「ククッ」

なんか、笑ってる狐、いるし…………。

それにベイルートさん、「婦女子」は古くないですか…………。


私が不貞腐れながらも謝っているのは。

勢い余って、キラキラの星屑と共に飛び込んだ私に、扉がそのまま吹っ飛んだからで、ある。


「ごめんなさい。」

何故だか楽しそうに扉の修理をするハクロを見ながら、そう言ってみる。

多分、悪気が無いのは分かっているのだろうけど。

心底呆れた目をしている、本部長の眼鏡の奥は冷た過ぎて見れない。
未だ星屑を纏う扉を眺めながら、気分を落ち着けようとソファーへ腰掛けた。

まだ、仁王立ちの男達に、囲まれていたからだ。

 いや、ある意味立ってるのは白衣のこの人だけだけどね…………。


反省したフリをしながらも、彷徨く白衣の様子を窺う。

本当はすぐにでもグロッシュラーへ行きたいのだけど。
きっとそう言ったならば、反対される事は必須である。

どう、話せば。

向こうへスムーズに行ける算段になるだろうか。

「うーーむ。」

「なんだ、そもそもどうしたんだ?話は済んだ筈だろう?」

「えっ。」

あれで「話が済んだ」なんて、よく言うね?

キロリと睨んだ私の事などお構いなしのウイントフーク。
とりあえず、扉の事はそう怒っていない様だ。
これなら話を切り出しても、大丈夫だろうか。

それか。

とりあえず、子供達の様子だけでも、見てきて欲しいんだけど………?


「なんだ。」

「いや、あの。」

どう切り出そうか、考えた割に何も思い付かない私の頭。
とりあえずは、いつもの事かと諦め口を開いた。

今すぐ危険は無いかも知れないけど。
長老達が根回ししていないとは、言い切れないのだ。

「あの、箱舟って。あの、なんでしたっけ…館の…あの人の、管轄なんですよね?」

案の定、名前を忘れたのだがきちんと返事は来た。

私が「不老不死」と言った時点で。
きっとこの人なら、既に予測していたのだろう。

落ち着いた口調から、そう思う。

「ユレヒドール本人がどう思っているかは知らんが。とりあえずシュレジエンは完成報告は、暫くしないと言っていた。一応、見た目だけは未完成にしているらしいが、やはりほぼ完成はしている様だからな。」

「…………やっぱり………ですかね?どう思います??」

「選択肢には入れているだろう。そもそも、元々「その為に」作っていたのだろうからな。」

「まあ、そう、ですよね………確かに。」


えっ でも?

待って??

じゃあ もし 私が「不老不死それ」を

  持って帰ってきたら??

ある意味 最初の  予言通りに  


        なる って    ?



「…………こと、だよね………???」

「まあ、待て。」

ぐるぐるが始まった私の耳元で、声が聞こえ我に返る。

助けを求め、肩に留まる玉虫色を見つめてみる。
きっと私の意図を汲んだろう、ベイルートはそのまま本部長へ提案してくれる様だ。

「なあ、一度造船所に連れて行ったらどうだ?暫く行っていないから心配なんだろうしな。それにイストリアに相談も必要だろう?」

「まあ、そうだな………それならとりあえず…………    」

何やらブツブツ言い始めた本部長、そのぐるぐる周る様子を見ながら玉虫色を手のひらへ乗せ、くるりと背後を向く。
玉虫色の煌めきを、手の角度で楽しみながらお礼を言っておいた。

「ありがとうございます、ベイルートさん。流石ですね?」

やはり、持つべきものはやはりコガネムシか。
うーむ。

そんなふざけた事を思いつつも、ニヤリと頷き合った所で足音がピタリと止まった。


「ま、とりあえずいいだろう。早目に行ける様にするが  」
「やった!!」
「良かったな。」

「おい、最後まで話を聞け。」

「「はーい。」」

一緒に怒られない様に反対側の肩へ玉虫色を乗せ、くるりと向き直り姿勢を正す。

「グフフ」

「お前、さっき迄のアレはどうした。………まあ、いいが。」

「はっ!私とした事が!?………いや、とりあえずいつ頃行けますかね?この後?明日??」

いかん。
子供達が心配で駆け込み、扉まで壊した事をすっかり忘れていた。

だって、向こうには行っていても。

大体は旧い神殿止まりだし、この前の星の祭祀は殆ど見れずに終わってしまった。
子供達に会うのも、久しぶり。

仕方無いのよ、これは…………。


そうして。

一人ウンウン頷きながらも、本部長からの注意を聞き流していたのである。







柔らかな風が、頬を撫でる。

堅く暗い石の館を出ると、ふと感じた風に顔を上げた。

「わ、あ………。」


結局、私の様子を見た本部長が早目に手を回してくれたらしく、翌日にはこの灰色の島の土を踏む事ができた。

相変わらず人気ひとけの無い館を出て、すぐに感じたその風はやはり以前は無かったものだ。
あの強い風の名残なのか、少し冷たいけれど以前は無かった風が吹くのはやはり嬉しい。

髪を撫でる、優しく柔らかい風の匂いを嗅ぎながら、辺りをぐるりと目に映した。


「しかも、なんか…………?」

「ヨルもそう思うか?」
「ですよね?ベイルートさん。」


「何処が」「何が」と言われると、はっきりとは判らない。

しかし、「鮮やかに」なった気がする、ここグロッシュラーの景色は。

また、私の目が変化したのだろうか。
それとも。

ここも、変わったのだろうか。


「でも、「どこが」って言われると、分かんなくないですか?」

「まぁな。具体的に、「物」が変わった訳じゃないんだろう。強いて言えば、「雰囲気」か?」

「いや、でも。………何だろ、「空気」?それともやっぱり「空」かなぁ…………。」

本部長の銀ローブを目の端に捉え、そのまま視線を上に伸ばし流れる雲を観察する。

以前よりは青が覗く様になった、空。

しかし私の希望するくらいの青空では、やはりない。

あの、「星の祭祀」の時に。
現れた空は、やはり特別だったのだろうか。


 何が違うんだろう………。

 心の準備?いや?どうかな??
 今日、祈りに来た訳じゃないしな??

 でも、あの時はやっぱり。


  「空」が 応えてくれている


 そう、思ったんだ。


しかし、よく見ていると流れる雲もやはり変化はしている様だ。

以前は無かった、優しい色合いの水色雲。
フワフワと大きな「それ」は灰色の濃淡の中に緩やかに泳ぎ、この世界に「優しさ」を加えているのは確かである。

絵本の世界にでも、出て来そうなその「絵の様な景色」。

その、色がジワリ、ジワリと自分の「なか」に染み込んできて。


「………やっぱり。これを残しておきたいと思ったから、芸術も生まれたんだろうし。留めておきたい、っていう想いって万国共通………。」

「でもな………写生とか模写とかだけじゃなくて、そこからの「想像」を「創造」して………??更に、また「その人の色の芸術」が??………ハッ!?って事だよね??素晴らしい事よね、それは………。」

「何を言ってるんだ、お前は。ほら、もう着くぞ。」

「ん?」

石の館から、造船所は意外と近い。

雲からの視線を銀ローブに戻すと、もうあの大きな灰色が目の前にあるのが分かった。


畑も見に行きたいけど…………。

とりあえずは子供達の様子と、シュレジエンから話を聞いた方がいいだろう。

そう思い直して、一つ頷くと。

私の事など、お構い無しに扉に手を当てている本部長に向かって、急いで走って行ったのだ。







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