透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
796 / 2,079
8の扉 デヴァイ 再

新しい仕事

しおりを挟む

明くる日。

スッキリと目覚めた私の隣に、何故だか金色はいなかった。


「えっ…………あの、懐かしのアレは………??」

いつもの温もり、半分起きている私の髪を梳くあの大きな手の、感触。

それを味わえると、期待して目を覚ましたつもりだったのに。
本人は既に無く、残るはただ大きなものが「そこに在った」様子が分かる、シーツのみである。


「…………まあ。…………仕方無いか………。」

半分、働かない頭でノソノソと起き出し「おはよう」と緑の瞳に、挨拶する。

とりあえずは、着替えを掴んで。
緑の扉へ、入って行った。






何も無い青の廊下を抜け、実り豊かな彫りの扉を開け、中へ入る。

麗かな光が差す魔女部屋は、今日も通常運転の様だ。

窓辺では相変わらずハーブ達が姦しくお喋りしているし、いつの間にか奥には白いフワフワも見える。

朝食後に「さて、どうしようか」と考えて、結局ここへ、来たのだけど。


ある意味、私の行動範囲は広くない。
確かにフェアバンクスこの区画ならば、魔女部屋か私の神域、白い礼拝室か自分の部屋か。

外出するにしても、廊下を散歩する、若しくは礼拝堂でこっそり祈るくらいだ。

「確かに、あんまり変わらないんだよね………でも結局。「そういうこと祈る」って、ことなんだろうけど。」

だらしなくバーガンディーに寝そべりながら、つらつらと頭の中を洩らす。

勿論、一人でも喋っている私だが向こうのソファーには灰色の毛並みが見えている。
心地良さそうに上下するその色を見ながら、これからの自分のことを、考えていた。

すると、少しして。
意外と返事が返ってきた。


「そんなの、いつも通りでいいんじゃないの?だってやる事って、そんなに変わりは無いわよ、きっと。」

「ただ、あんたが。だけで。」

「うん?」

  見えるか  見えない か  ??

 
「えっ?私、「見えない」、かな??」

多分、朝が言っているのは私が向こうへ行って帰って来たから。
もしかしたら、普通には「見えない」と思っているのかも知れない。

「えっ?見た目、そんなに違う??………でも「見えない」なんてこと………ある??」

ペタペタと自分のことを確認している私を、じっと見ている朝。

朝は、普通の猫じゃないけど。
それが何か、関係しているのだろうか。


暫く私の事を観察していた朝は、再びくるりと丸くなると溜息を吐いてこう言った。

「まあ。人間には、どう見えるのか分からないけど。私には、大分「違うもの」に見えるけどね。」

「えっ  」

「でも、どうなんだろうなぁ。「近い者」には、見えるんじゃない?」

「??ウイントフークさんとか?千里…は人じゃ無いし………?」

こうして考えてみると、意外とうちには「人間」が、居ない。

「あっ、シリーは見えてたじゃん!」

「あの子もねぇ。………どちらかと言えば、あんた寄りでしょう。距離じゃないのよ、距離じゃ。なんだろ、ほら、この間言ったやつ。」

「えっ?距離じゃない??」

「ああ、「それそのもの」、とかそんな感じかな?あまり嘘がないでしょう、あの子も。」

「確かに。」

か。


確かに「そう」ならば。

デヴァイこの世界で、私が見える者は、少ないのかも知れない。

「えっ?アリススプリングスとか、ブラッドには会うって??言ってたけど………。」

「あの人の事だから、で実験するつもりなんじゃない?」

「あり得る…………。」

恐るべし、本部長…………。


「えーーー、でもそれって。私、「透けてる」とか「なんとなく何か いる」みたいになるのかなぁ………それってオバケ??」

そんな事を言っていると、もう返事は無い。

 ありゃ
 脱線すると思って、寝たみたいね………

流石、朝である。
私がこれからぐるぐるして脱線するのが解っているのだろう、既に背中は規則正しく上下していた。


うーーーむ。

 ならば?  とりあえず、それは 保留 かな?


とりあえず、外の事はきっと後でも良いんだ。

先ずは、私の。

「なかみ」をきちんと、精査しなければならない。


「それが終われば。なんか、モヤモヤしてるのもスッキリするかなぁ………。」

「そう 思う よ 」

「あっ、おはよう。………だと、いいけど。」

いつの間に起き出したのか、傍らには美しい緑の瞳が四つ、キラリとしている。

「大丈夫 」

そう慰めてくれる下の子を撫でながら、静かな魔女部屋でボーッとしていた。

 
 綺麗  静か だな

   ああ  また 可愛くお喋り して る


そうしてバーガンディーに凭れるフワフワに、手を置いたまま。

うっかり、私も眠りについたのであった。







  私は  全ての 衣を 解いて


     紡ぎ直す   必要が ある な


 「過去」  「沢山の いろ」

  「重い 想い」  「美しい 色」


 「哀しみ」  「苦しさ」
              「失望」

   「怒り」    「憤り」

       「後悔」     「罪悪感」

  


  そんな どんな  

       「想いいろ」で さえも。


  きっと    その中に  

     重さ と  軽さ

   「上辺うわべ」と 「真実ほんとう

     「明」と「暗」は   混在していて。

 
 だから それ を

  綺麗に 解いて  洗い流し

    暗い いろ  は  染め直して


    紡ぎ直して 織り直して


   「新しい 衣」を。


「創る、んだ、な……………       」


う ん ?

夢?


「はっ?!」

とりあえずヨダレが垂れていないか確かめた私は、本当に変容したのだろうか。

思わず自分にツッコミたくなったが、袖を直しつつ辺りを見回す。

 あ そうか 魔女部屋だ

どのくらい、寝ていたのかは分からないけれど。

隣にはスヤスヤと眠るフォーレスト、向こうのソファーにいた朝は既にいなくなっている。


 うん?  えっと  私 は?

   なにか  考え事を してて
 まあ 寝ちゃったんだよね  うん

 いつものこと よね  うん


  それ で  ??

    なんか 夢を  見てた様な  気が。

「するん、だけど…………???」


少し、考えてみるけれど。

あまり、思い出せない。
ぼんやりとして、しかしなんとなく落ち着く場所で、清らかな「何かをしていた」のは、わかる。

「うーーーん?まあ、いっか。」

とりあえず、また後で思い出すでしょ。

そう思って、ぐるりと部屋を見渡した。


基本的に魔女部屋はいつも青空だ。

今は何時なのかは分からないけど、きっとお腹の具合からして。
お昼にはまだ、なっていないと思う。

「うーん、それなら?その、なんだっけ。私を?」

 清める?

 極める??

 整理して  精査する んだっ け??


「てか。って、どうやるんだろ…………?」

至極尤もな疑問を抱きつつ、再びボーっとする陽光の中。

差し込む光が白く、糸の様に、光で引いた、線の様に、見えて。

「ああ、だから「光線」って言うんだな」なんて、呑気な事を考えていると、「パッ」と浮かんだ、「その光景」。


 「解きほぐす」「洗う」「精査する」

 「染め直す」「紡ぐ」「織る」「縫い直す」


「あっ。」

あの、夢は。

 「これ」だったんだ。


頭の中に浮かぶは、機織りをしている「いつかの私」、明るい小屋の中。

丁寧に織り上げている、その生地は自分で一から創った、「自分の衣」の生地である。

その、「解きほぐす」様子から、「機織り」「仕立て」の、様子まで。

事は、無いけれど「」感覚、私の「なか」に、ある想い。


私の衣それ」に対しての、想い

 込める もの

 想い 願い  祈り  言祝ぎ


 最小まで分解しそこから紡ぎ上げ 創る

  神性 な


   わたし  だけ  の



       「 衣 」     




「?」

頭の中は、疑問符だ。

しかし。

私の「なかみ」は。

全力で、納得していて。

 「そうだ」と。

 言っているのが、わかる。



「ふむ…………。なる、ほど??」


 

   は。


   と いうこと なの だね?



「純度を高める為に」

「雑多な 衣を解きほぐし」

「紡ぎ直す」


今、私の「なか」には様々な「色」が混在し、そして様々な「純度」が混在しているのも分かる。

黎の中へ飛び込んで行った私は。
その、「闇のなかみ」を整理する必要があるのも、解っていたし。

取り込んだ「死んだ私」も、未だ色は薄くなったが「混在」しているのは分かるのだ。


時間が、必要だろう」と
言っていた、本部長の言葉を「精査する」と取った、私。

「あっちが増えた、こっちが少ない」と、把握するだけとか。
「放っておけば、いつの間にか馴染む」とか。

それでいい人も、いるのかも知れないけど。


「…………私は………そう、ね。私は、やっぱり。」

もっと、隅々まで自分の「なかみ」を、よく見て。

これまでに在った部分と、新しく増えた部分、その両方を精査しなければならない。
 

「うん。だよね………。」

なにしろ「自分の場所」が決まると、隅々までチェックし、綺麗にしないと気が済まない質だ。

教室の割り当てられたロッカーを、一人拭いていた事を思い出しながら頷いていた。


 そう 存在ものなのよね

   私 は。


これまでよりも、「外」へ出なくてよくなった分、やはり自分の「なか」を、じっくりと。
整理しろと、いう事なのだろう。


「流石本部長……。」

そうして。
とりあえず、唸りながらも。

新しく取り込んだ、自分の中の暗色を観察してみる事にしたのだ。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

処理中です...