836 / 2,079
8の扉 デヴァイ 再
自分であること
しおりを挟むそうして、散々自分をゆったりと癒していた私は、調子に乗って本部長の提案を二つ返事で頷いていた。
「多分、もう大丈夫ですよ。」
そう、自分を粗方、併せて。
調子も整え、装飾も調ってきた。
大分不安定さも減り、豪華になった気分の私は。
そう、少しだけ「勘違い」をしていたのだ。
もう「何もかも 受け入れる事が できる」と。
謎の「万能感」に、包まれていたので、ある。
「おやおや、どうしたね?いや、事情は聞いているけれども。少し、落ち着いたら詳細を訊いてもいいかい?」
「イストリアさーーん………。」
そんな、調子に乗っていた私がシオシオとやって来たのは。
いつもの相談室、イストリアの店である。
そう、やはり。
きっと「浮かれて」「調子に乗っていた」私は。
本部長に「またブラッドに会ってみるか?向こうは会いたいらしいが。」
そんな事を言われ、軽く了承したのだけど。
それが、どうやら「まだ」だった事に自分でショックを受け、ここに逃げ込んで来たので、ある。
その、ある日の面会日、部屋に入って早々踵を返した私は。
その「青い瞳」に居た堪れない気持ちになり、しかし「できない」という思いと湧き上がる不穏な色と。
その両方に板挟みになり萎れたまま、「ほらな」という顔の本部長にここへ送り込まれたのだ。
「なんか、まだ。…………駄目、なんですよ………なんでだ、ろうな………大分「合わさって」は、きたし、「転換」もしたんだけど…。」
窮も、ウンも、出て来たし。
沢山の「新しい糸」も増えているし、数々の「美しいもの」もある。
でも。
小さな溜息の中、柔らかに差し込む光。
いつものテーブルには青の小花達、その隣には束ねられたドライハーブが気持ちよさそうに横たわっている。
湯気の出るティーポットの横にある枯れた麦色、そのピリリとした葉の鋭利さと青花の瑞々しい対比。
カサカサとする私の心に、優しく揺れる青はやはり癒しの色だ。
「コポコポ」と耳に届く心地の良い音、それに混じって届く「大丈夫?」という小さな色。
その色を出した小花に頷きながら、助けを求め薄茶の瞳を見上げた。
「うーーん、そうだね。先ずは。」
「カチリ」と私の前に、可愛らしいピンクのカップを置いて。
隣に腰掛けたイストリアは、考えながらもしっかりと私を見つめ、話し始めた。
「「全て」に「開かなくて」いいんだ。「自分だけの場所」、例えば神域なんかと同じさ。君は君の場所を、守っていい。」
「君は「君でいること」を、赦していいんだよ。嫌な事は、嫌と。言っていいんだ。「全てを受け入れている」と、いう事と「全てに駄目と言わない事」は、違う。君は君の嫌な事に、「それは駄目」と、言っていいんだ。「その色は嫌だ」、と。」
じっと見つめる、薄茶の瞳に頷きながら考える。
確かに。
「全てを受け入れる」とは、言っても。
例えばブラッドの「気持ち」を受け入れられるかと言えば、それは違うだろう。
「ブラッド」の事に「きちんと向き合える」事と、「受け入れる」事は似ている様で違う。
私にとって「受け入れる」と、いうことは。
「自分の内側に入れる」と いうことだからだ。
「成る、程………?嫌な色は、嫌って言っていい、ってことですもんね?」
「そうだ。ある程度の「境界線」は、なくてはならない。無ければ搾取になってしまうからね。それぞれの場所がきちんと確保され、それを侵さない「自由」。それがあるべき姿だと、思うよ。そうでなければ「己の色」を保つ事は難しい。無理矢理、混ぜられる事になってしまうだろう………これはウェストファリアかな……。」
そう言って少し遠い目をするイストリア。
確かに。
これは、「変わってゆく」「染まってゆく」と。
そう言っていた白い魔法使いにも、共通する話だ。
自分の心地良い「境界線」が無ければ、保てなければ。
やはり容易に侵食され染められて。
それぞれの「色」は変わってゆくし、変えられてきたのだろう。
繊細な色は、より単純な分かり易い色に。
澄んだ色は、より濁った、色に。
そうして沢山の色が混じり合って、今は収拾がつかなくなっているのかも知れない。
そんな事を考えていると、問い掛けが降ってきた。
「だって、「自分でいては、駄目」など。本来ならば、おかしな事だろう?まあ、私自身、君がここに来るまでは慣れきっていたのか、諦めていたのか。それが普通になってしまっていたけどね。自分だけが、保てればいいと。なにしろこちらでは私の方が変わり者で、真似たいと思う者などいなかったしね。」
チラリとピンクの髪を思い出したが口は噤んでおいた。
ピョンピョンと嬉しそうに白い礼拝堂で跳ねていた彼女が、なんだか懐かしく感じられる。
「だがね、今はそうなってしまっているのも、事実だ。そう「思い込んで」なのか、「させられて」なのか。それはとても、複雑だけど。「己自身で生きられていない」というのは、事実だろうね………。」
頷きで返事を返し、カップの縁で香りを確かめる。
今日は私が落ち着く様にと、きっとこの甘い香りとピンクのカップが出て来たのだろう。
その優しい色を染み込ませながら、すっきりとした味を口に含む。
静かにお茶を飲む、この静かな時間、隣の細い指を眺めながらこの世界のことを、思う。
みんながまだ、気付いていない世界、しかし破綻へ向かう道。
しかし少しずつ拡がる光、きっとイストリアがグロッシュラーにいることだって、光が拡がる要因だったに違いないのだ。
ラピスにいた、ウイントフークまでその光が繋がり私がここに来て。
「フフ」
「どうした?」という薄茶の瞳に頷きながら、あの中庭の事を思い出す。
呼び出されて「お母さん」の話をされたこと
気不味そうだったけど「助けたい」と言っていたこと
「繋いでくれた」のがレナだったこと
沢山の、「偶然」なのか、なんなのか。
色々な光が繋がり、「今」がある事を本当に有難いと、思う。
だから、こそ。
「時間がかかることは、解ってたつもりだったんですけど…。」
ポツリと呟いた私に、頷く薄茶の瞳は無言で。
私に「それでいいんだ」と、言っている様に見えた。
そう
「自分のこと」と「世界」のこと
どちらも一筋縄ではいかない事は、分かりきっていた筈だ。
それに、「世界」は。
「私」がどうこうする様な物でもなく、それはきっと自然に「私」と「世界」が「響き合って」。
「成長」し、「昇って」ゆく。
どこに? 月に?
そうなのかな??
まだ、分からないけれど。
でも、私が成長すれば「周囲」に影響するのも、解るんだ。
そして、その「こたえ」が。
自然と 齎される、ことも。
ぐるぐるしている私の横で、束ねられたハーブを解き並べ始める手。
その、出来上がってゆく素敵なカタチにぐるぐるはヒュンと引っ込んで、じっとテーブルに釘付けになる。
「だから………そうだね。それは、そうなんだろう。だからこそ、君はこうして「境界線」を引いていいんだ。「ここまではいい、ここまでは駄目」という線引きがハッキリできれば。自分にとっても、相手にとっても、いい。相手は示されなければ、分からないからね。」
作られた丸と四角、その間に並んだ茎で示された、一本の線。
「境界線…。」
「そうだ。そうしてその中で、まず自分を癒して。君の中のその「靄」を解消していかなければ、どうしたって逆戻りになってしまうだろうね。「なに」が駄目で、「どうされれば」嫌なのか。解ったら伝えてもいいし、自分の中で理解できれば解消する事もあるだろう。しかしなにしろ「そっち」の方が、まだ親和性が高ければ。より敏感に違いを感じ取り、そうなる事も道理さ。君はまだ、若いしね。まだ、「なったばかり」さ。徐々に慣れるだろうがね。」
「成る、程…………。」
じっと麦色を見詰めながら、考える。
「癒される」 確かに、それなんだろう。
未だ燻っている「暗色」「問題」は。
私は まだ 自分の「傷」を持ち歩いていて。
きっと「傷」は現実を見る事で
容易く 血が噴き出すものなんだ。
だから、「傷」を。
充分に、しっかり、癒す。
それが必要だと、いう事なんだ。
「なにしろ、君のやっている事は大概合っているよ。そうして自分の中を綺麗にして、好きな方法、惹かれる方法で。少しずつ、やっていくといい。それは人によってやり方が違うだろうし、私なんかだと「畑」や「ハーブ」かも知れないしね?なぁに、「好きな事」を夢中でやっていれば。自ずと、「そうなる」だろう。」
「なんか…………はい。解ります。」
まだまだ私の「なか」にある、「傷」、それは後どのくらいあるのか想像もつかないけれど。
でも。
それも全部、「私」だし。
休んでもいい、なんなら辞めても、いい。
でも。
私の 行きたいところ
なりたいもの
行き着くところ は。
あれ と 同じ 場所 だから。
「ふぅ。…………なにしろ一筋縄じゃ、行かないって事ですね………。」
「ハハッ、まあ、そりゃそうさ。君がやっている事は、ある意味前代未聞だ。私だって、「知っている」訳じゃ、ない。ただ、君を見ていると。「そうだろうな」、と思う程度さ。」
「えっ。」
そう、なんですか??
カラカラと笑う、その明るい表情を見てなんだか私も楽しくなってきた。
やっぱり、笑顔で。
楽しく、変化していきたい。
暗い色も、辛い思いも、沢山あるけれど。
それも、どれもを。
「明るく、笑顔で。「光」に。…うん、オッケー。できそうになってきた!」
「それなら、いいね。なにしろ良かった。」
「はい、ありがとうございます。」
正直、やる事は何も変わっていないし、なんとなく「自分の駄目さ加減を確認した」様な、この件。
でもきっと。
それも、必要なことなんだ。
「まあ、「確かめないと」分かんないしね………。」
「しかし、ブラッドは落ち込んだだろう?」
クスクスと笑いながらそう言うイストリアに、その後の様子を伝える。
でも、私も本部長に聞いた話だけど。
「なんか新しい婚約者を紹介してやろうか、とか言ったらしいですよ??あの人、年頃の女の子の知り合いなんていなそうですけどね?」
「確かに。」
そうして心が軽くなった私は、調子に乗ってあれこれと本部長をツマミにしてお茶を飲み。
外に出る頃にはスッキリと、あの美しい色を眺める事ができたので、ある。
うむ。
0
あなたにおすすめの小説
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪
山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。
「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」
そうですか…。
私は離婚届にサインをする。
私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。
使用人が出掛けるのを確認してから
「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」
愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる