透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ 再

枠の外

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「姫様とシンラを ここデヴァイの神にする」

私の「超名案」が、実行可能な事は既に確認された。

が、しかし。

それを実際に施行するには幾つか超えなければならないハードルが、ある。

主役となる姫様は暫く神域にて、療養中だ。
私は、その癒し期間を利用し最大のハードルを攻略する為に。
「そろそろかな」とレースの具合を確かめてから、白い書斎の扉をノックしていた。

そう、とりあえずは。
「実行係」の、本部長に話を通さねばならないからである。


「なんだ。」

珍しく、ノックに返事が来た。

「よし。」

「なにが「よし」なんだ。嫌な予感しかせん。」

「えっ。」

「失礼ですよ」と、言いたがったが私はこれから「無理難題」を言う自覚は、ある。

「失礼ですよ」の代わりに「失礼します」と言って、座った向かいのソファー、ウイントフークは既にソファーで本を読んでいた。
いや、調べ物をしていたのか。

山と積まれた資料達は、いつからあるのか分からないが、脇にはメモもある。
見た感じ今日は、ここで仕事をしているらしい。
いや、もしかしたら奥にはもう場所が無いのかも知れないけど。

「ここもシリーに手伝ってもらった方が良くないですか?いや、ハクロの方がいいのか?」

危険があるといけない。
それを考えると、スピリットはまじない系の手伝いには最適である。

「ふむふむ」と一人、勝手に「片付け計画」を練っていると遅れて少し、突っ込みが来た。

「いや、お前何しに来たんだ?書斎を片付けに来た訳じゃないだろう。」

「あ。」

しかし、私の話が脱線するのはいつもの事だ。
何事もなかった様に、くるりと向き直り白衣の正面に座り直すと。

徐ろに、本題をぶち込むことにした。

前置きは、苦手だから。


「あの。長の件、なんですけど代わりが見つかりまして  」

 え 無言。

珍しくウイントフークは、じっと眼鏡の奥からこちらを見ているだけで、口を開こうとはしない。

 なになに? 怖いんですけど ??

眼鏡が反射して、瞳の色が窺えないのが幸いだ。
とりあえず、続きを最後まで話してしまおう。
うん そうしよう

絶対に出鼻を挫かれると思っていたので、これ幸いと得意気に話し始めた。
案だけ、見れば。
やはり、「これが一番いい」と思える「名案」だからだ。

「あのですね、姫様………人形神………うん???」

しかし。
いきなりつまづいたのは、私の方だった。

よく、考えて みれば。

いや、よく、考えなくとも。

「姫様」って なに 的な?
「シンラ」もなに??的な??

そもそも「白い部屋」の話って して いいの
「守り神」って概念 あるかな??


「あれれれれれれ???」

「仕方が無いな。」

首を、傾げ始めて。

ぐぐっと、座面まで頭が着きそうな所で極彩色の毛並みが見えた。

「あ。」

「俺が補足する。ぞ。話しても。」

「え あ うん。ありがとう?」

え なんで?
シンから 聞いたのかな
いや そもそも 私の考え お見通し系の はなし???


ぐるぐるが渦巻いていたが、とりあえずの心配は払拭された。
この色が「大丈夫」と言うならば、本当に大丈夫なのだろう。

それは、解る。


そうして改めて。
腕組みをして待っている本部長に、作戦を話し始めたのだ。






「図形?」

「そう、名前は分からないですけど。「かたち」が、見えるんですよ。うーん、言葉にするのは難しいな…。」

「頭で解ってる訳じゃ、ないんだろう。それで?今は、何処にあるんだ、それは。」

「えっ、何処って………場所じゃないですよ?私の「なか」だし、それに今は小さくして仕舞ってるからな………。」

「は?小さくして、仕舞ってる?」

「はい。なんか、調ってきたらすぐ出せる様になってきたし、とりあえず普段は周りになんもない方がスッキリしますしね?こう、ぐんと拡大する時、邪魔じゃないんだけど視覚的にねぇ………。」

「まあ、いい。それで、体調はどうなんだ?あまり外へ行けないからな。こっそり飛んではいるんだろうが…。」

珍しい。
この人が私の体調を心配するなんて、明日辺りデヴァイにだって雨が降るかも知れない。

しかし。
きっと顔に出ていたのだろう、持っていた本をパタンと閉じると部屋を彷徨き始めた白衣。

「…いや、大丈夫ですよ、ありがとうございます?なんか、とりあえず。閉塞感は無いんですよ。なんでか、分かんないけど。前はここデヴァイは「閉じてる」感があったから、窮屈だと思ってたんですけどね?ここも、開いてきたって事なのかな??」

「それは、どうだかな。まあ、大丈夫ならいいんだ。」

「………うーん、なんか境目が無い、って言うか私が拡がってるのか………なんなんだろうな??」


自分の「なか」をぐるりと探ってみるけれど、確かに以前感じていた様な閉塞感は全く無く、逆に「繋がった」感が、凄い。
改めて感じて、自分でも驚いたけれど。

でも。

 これは? 「繋がった」っていう よりは
 私が 「拡がった」「浸透した」感じの方が
  近い な ??

なんだ、ろうか。

「世界」が私の真ん中でぐるりと循環して。

「………この、「かたち」の所為かな………?」

自分の真ん中を起点に、光達がその周りを囲み光を送り合っている、この感じ。

ぐるりと廻る、その光のシステムを「なか」で感じながらこれぞ「自家発電」と、改めて思う。


「ふむ………みんな、これがあればいいって事だよね………??」

そうしたぐるぐるの後、ふと顔を上げると。

いつの間にか目の前に置かれたティーセット、向かいの眼鏡の奥はいつもの呆れた瞳でお茶を飲んでいる。

それに気が付いた途端、いい香りが鼻をついて。
ハーブの香りに、シリーが持ってきたお茶だと気が付いた。

 私、どんだけ集中してたんだろ………

「いつものことでしょ」という顔の朝が、いつの間にかウイントフークの隣に座っているし。

とりあえず、温くなったカップを手に取り何食わぬ顔でお茶を啜る事にした。


「稀に、いるんだ。お前の様に、そもそも「枠の外」に出ている奴が、な。」

「えっ?」

 枠の 外??

いきなり飛んだ話に、パチクリして顔を上げる。
隣で「そうよ」という同意の表情をしている朝が、なんだか面白い。

この二人は本当に息が合うな、なんて更に頭を明後日の方向に飛ばしながらも、頷いて話を聞く事にした。

なんでか「姫様、シンラの御神体計画」から。
「私の多胞体の話」に本部長の興味が移ってから、もう話しを纏めるのは諦めたのだ。

とりあえず「その方向で。」という了承は得られたので、私はもう自分のやるべき事をやるのみ、なのである。


「そうだ。そもそもお前は「できない」と思っていないだろう?ラピスに居た頃からそうだが、祭祀も、グレースクアッドへ行く事も、長の事も、そうだ。そもそも普通の連中は「やろう」とも思わない事を、普通にやるからな。なんだ、「前提」が違うんだよ。」

「前、提…………。」

ハテナ顔の私を、呆れた目で見ている本部長。

「俺はずっと石を扱う事をしているが、基本的に赤子へ石を合わせることが多い。だが、やはりあの時の様に成長してから石を変える事もある。その時、やはり「合う、合わない」を見るんだがそもそもの「自分の可能性」の認識が、人によって違うんだ。」

 「可能性」の「認識」??

「何もできない、知らないという前提、所謂普通の「赤子」だ。だからこれから覚える、という意識の者と、なんでもできると始めから思っている奴が、いる。ただ、はやはり稀だけどな。」


確かに。
私は子供の頃から「空を飛ぶ以外のことは なんでもできる、何にでもなれる」と、思っていたし。

本当のことを言うと、空だって飛べると思って、いた。
でも。
色々と経験していくうちに、5、6歳頃には「飛べないんだ」と理解していたのだ。

「やはり、「魂」の熟練度合いなのだろうな。あの話を聞くと、そうとしか思えん。」

「えっ、に、訊いたんですか?」

思わずそう、飛びついた私に渋い顔の本部長。

どうやら私の顔が、不味かったらしい。
いや、ニヤついていた事は認めよう、うん。

でも。

イストリアから「魂の話」を聞いたという事は、この二人はなかなかの深い話はした筈なのだ。

「フフ………」

つい、笑みが漏れて朝に尻尾で小突かれる。

「まあ、なんか。うん、そうですね………。」

意味不明な返事をしつつも、フワフワと頭の中に浮かんだのは、ずっと前の。
ラピスでぐるぐるしていた頃の、まだ「若い カケラ」。


あの時は。
確か…………


 「何故。吾輩が お前を守ると決めたか 解るか」


パッと浮かんだ言葉が顔を熱くして、ピタピタと頰を冷ますがやはり、湯気が出ている気がする。

いやいやいやいや…………
 じゃ、ないよ

ポッポとしてくる頭を振り、再び「なか」の時を戻す。

あの時は。
確か彼が。

「普通は「できない」と 諦めるところを やる」

そんな様なことを、言ってくれたのではなかったか。

「まあ、確かに。………粘り強い、とは言われるな…?」

星占いでは「牡牛座」の私、定番の言葉は「粘り強いそれ」。
普段フワフワしているからか、意外に思われる事が多いが実はどっしりとした星座なのだ。

「君は 星の理の外」

そう言われた事も、頭の隅をくるくると回るけれど、やはり「属性」の様なものはあるのだろう。


「面白いですよね…………。」

しかし。

顔を上げると、私が笑った所為か既に白衣は見えない。
奥から物音が聞こえてきて、小部屋へ引っ込んだのが分かる。

「ま、いっか。それで?何の話だったんだっけ?」

「あんたがとんでもないって話よ。」
「え?ウソだぁ!」

「まあ、とりあえずウイントフークは動くだろう。後はお前のやる事を、やるんだな。」

「………うん。ありがとう、千里。」


白い部屋のこと 石のこと  姫様とシンラ
人形神のこと。
私達が、旅をしている理由は言っていない。

でも、「目的」は同じなんだ。


    "「ここ世界」を護る"


  「バランス」 「調整」  「調和」

  「どの いろも 自由に輝ける  ように」

 
それが同じならば。
まるっと 全部で 「ひとつ」ならば。


「………うん。」

紫の瞳をじっと見て、軽いそれを確かめる。

言って良かったのか、それとももう全てをある程度、予測はしていたのかも知れない。
あの人本部長の、ことだから。


「よし、後はやる事を、やるだけ!…………って、何しようか??」

「…………アンタ、ねぇ…まあ、いいけど。」

勢いよく膝を叩いて、ピョンと立ち上がった。

いつものツッコミに軽口を叩きつつ「勢いは大事だよ」とぐっと力を入れ扉を開けてから、この間の事を思い出し、くるりと向き直る。

 また怒られちゃうからな…
 気を付けなきゃ。

そうして今度はゆっくりと、白い書斎の扉を閉めたのだった。


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