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8の扉 デヴァイ 再
芸術家 2
しおりを挟む「やはり………お姿が見えなかったので、そうだろうと、思っていました。いやいや、また描く機会を与えて欲しいものですな。」
そう言って、私の事をニコニコしながら少し拝み、話し掛けてきたコーネルピン。
「そうだろう」というのは、「どういうことなんだろう?」と気にならなくもないが、それを聞くのは藪蛇だろう。
とりあえず静かに進み、彼の持っている本に視線を落として反応を見る。
口はまだ、開かず私からは軽く会釈をしたのみである。
実際問題、「どう 見えているのか」よく分からないし、その彼が持っている本に私も興味を惹かれたからだ。
静かな白い禁書室、何処からか差し込む薄い光はその本を照らし渋緑の表紙を美しく見せている。
きっと「私も好き」な、その本は何の本なのだろうか。
私の視線に気が付いた黄茶の瞳は、もう一度私を見て嬉しそうに微笑むと、表紙の皮を撫でながらこんな事を言い始めた。
「これは古いまじない道具の本です。今は無き、古い道具。まだ美しさが残っていた頃の芸術的な「それ」ですな。今のまじない道具とは、全く違うものです。」
「………?」
いきなり始まったその話は、本部長には聞かせられない話である。
今のまじない道具と言えば、ウイントフークだ。
でも、あの人の場合コーネルピンさんと研究に走りそうだな………?
首を傾げたまま、くるくると舞うカケラを眺めていると再び不満気な声が聞こえる。
「私はあまり好かんのです。「まじない道具」は力が足りなくなり、使えなくなって研究され始めたもの。その前はまじないを「活かす」、芸術品だった筈なのです。」
えっ そうなの???
私の顔に、頷きで返事を返すコーネルピン。
「始めから「繋がり」を蔑ろにしていなければ、今でも石との関わりは大きく、自身の力も上手く活かせていた筈ですからな。あれは所詮「つぎあて」の様なもので「本当」では、ない。まあ、便利ですが。」
それは私達がさっき、話していた事と同じ様なことだと思う。
タイミングのいい話題、コーネルピンがここにいたこと。
なんだか不思議な繋がりを感じつつも、感じるままに口を開く。
「誰でも、使えるとか。「こうすればこうなる」とか。分かってると決まってると、便利だからですかね?」
「そんなものはつまらない。」
スッパリとした、返事。
確かに。
身も蓋も無いけど、そう思うのは分かる。
もしもみんなが自由に「創造」できれば、そんな環境で、あったならば。
「美しいもの」が集められたこの空間は、もっと素敵なものになっていただろうし
私達の好きな「色」「もの」「こと」は、今頃。
きっと世界に満ち溢れていただろうと、解るからだ。
「私は数字が苦手だから、まじない道具は全然向いてなかったですけど。「今」の現状は、あった方が便利だし仕方無いってことなのかなぁ………。」
「貴方様は。本能的に知っているんでしょうな、「あれ」が自分に必要無い事を。だから数学は別にいいのですよ。数字と芸術は、言葉は違うが同じ美しいものを謳う「記号」です。どう表すか、の違いですな。」
「あ、はい。………ですよね。」
やはり考えている事が殆ど同じで、なんだか面白い。
この人はここでは、「変わり者」扱いなのだろうけど、私にとっては話し易く、通じ易い魅力的な人物である。
やはり角度によって、人の評価など。
如何様にも、変わるという事なのだ。
その 「私達」が 思う
「理想の世界」 「それぞれの 色」
「魅力ある まじないの 世界」。
ここは、「まじないがある」 世界だけど。
やはり、私の世界とそう変わらない「ルール」「縛り」「固定観念」「決められた枠」が、あって。
だからきっと「魔法」の 「ある」「なし」でも
なくて。
もっと 基本的な 根本的な 「なにか」
あの 本部長が言ってたみたいな 「枠」
「前提」の 様なもの
それを ? 壊す? 無くす?
うん? どう なんだろう な ??
くるくると回るピースが着地し始め、私の「かたち」に収納されていく。
その光景を観察しながら思う、「世界」のこと
「理」の こと。
「まじない道具」やその体系は元々 足りない力を補い「形」として現して
その力を補完する為に 発展したもの
力を誰でも同じ様に 使える様にすること
標準化する 一律に揃える
その上で 「区別」され 選り分けられ
順序が決まり ルールが決まる
そして結局
「皆 同じ色」 それは つまらない
私達は そう思ってしまうけれど。
それもまた、「すべて」に対する一側面であり、まじない道具が必要な人も、いるのだ。
「まじないが落ちた」為に、研究され始めたまじない道具、その体系化。
そうして仕事になり、シャットができて「仕組み」ができてゆく。
「そもそも「見えない力」を体系化する為に「数字で表す」「示す」事が始まり、それが数学の元である」と。
パッと浮かぶは本部長の小部屋に積み上がる本、沢山のメモ書きや、数字の羅列。
私が見ても理解不能なそれは、あまり気にした事が無かったけれど。
絵や作品を見ると、「その人」が分かるけれど「数字」はきっと「力の説明書」みたいなもので
それを見れば「誰もが使える共通項」、そんな様なものなのだろう。
もしかしたら。
「時計」と それは 似ているのかも知れない。
「時の流れ」が違う、それぞれの世界に適用したもの。
だってきっと 原初 世界は どの 場所も。
別々の時間軸で 廻って いて。
しかし世界が拡がり 「繋がり」「交流」する様になると
やはり「基準」は必要だ。
日はまた上り 「時刻」は「世界」の何処にいても
「同じ」基準だけれど
「生きている時間」は 「違う」。
私の世界と、ここの時間の流れがきっと、違う様に
例え同じ「地球上」でも。
文化や生活が違えば、そんなのは当たり前のことなんだ。
「ふぅむ?」
くるくると回り始めた、幾つもの面。
複雑に絡み合う沢山の世界が、それぞれに相反して存在し、そのどれもが貴重で美しいという「事実」。
「………別に。数字とか、世界とか時間とか。「本当のこと」には、なんも、関係ないと、思うんですけどね………。」
ポツリと呟いた私の声が、聴こえたのだろうか。
ふと、顔を上げると、手元の本に注がれていた視線は私の顔でピタリと止まり、いきなりの質問が降って来た。
その内容は、少し意外な方向だったけれど。
この頃「その話題」に触れていた私の頭には、すんなりと入ってきたんだ。
「力が最後には尽き、衰退する。この世界は、終わると言われていた予言。貴女は、どうしてだと思いますか?」
「?」
じっと私を見つめる、黄茶の瞳が。
灯りに光り金色に見え、ドキリとする。
「「本当」だと、信じられているという事は。「真実」と「虚構」が混じっているからだと、私は思うのですよ。全くの嘘だと、人はやはり見抜く。しかし、少しだけ混ぜられた「本当」を塗り固める嘘。それで大概の伝説や御伽噺は作成されていると、思いますね。」
確かに。
それは、私も何処かで ?
思った、様な ?
ぐるぐると自分の「なか」に沈み込みそうな私に、聞こえてくる声。
「貴女は既に、それを見分ける術を持っている筈です。それ上手く使い、「なに」を創るのか。…………楽しみですな。」
「必ず、見せて下さい。」
「……………は、い。」
なん、か。
創ることに、なってる みたいだけど。
白い光の中、突き付けられた「真ん中」に、ここが禁書室だという事を忘れそうなコーネルピンの言葉。
それを受け私の「なかみ」は、忙しくも美しい色で廻り続けて、いる。
いやしかし、「創る」ことはずっとやっている私のある意味ライフワークの様なもので、この頃は怪しい「混沌の鍋」になっているけれど。
「創る」と言うか、「生まれてくる」と、言うか。
勝手に ホロホロと 溢れてくる と 言うか。
「うーーーーむ。」
「なぁに、全ては全ての為になるもの、ですよ。貴女が創った、ものならばね。」
そう言って、静かに奥の棚へ戻ってしまったコーネルピン。
ふわふわと揺れる、薄い灰色髪が「白髪混じり」なのかそれとも元からなのか。
つい、確かめようとして腕を引かれ我に返る。
「あ、ごめん。」
「いや?さあ、そろそろ帰るぞ。」
「はぁい。…………じゃあ、…ありがとうございます。」
聞こえていないだろうが、小さな声で挨拶をした。
なんだか、そんな気分だったからだ。
出会えると思っていなかったけれど
惹かれて赴いた図書館で会ったコーネルピン
そしてタイミング良く齎された 同じ様な 話題。
「やっぱり…………なんか、どっか。繋がってる、よね?」
「さあ。どうだかな。」
怪しい…………。
既に狐に戻った極彩色は、尻尾を揺らしながら入り口扉の前で私を待っている。
キラリと光った、その紫に。
「やっぱり」とは思ったけれど、とりあえず頷いて扉に手を掛けた。
全てを 知らなくとも
聞かなくとも 「私が思う様に」、進めば。
きっと自ずと道は拓けると、解って、きたからだ。
「よし。あ。」
そうして勢いよく、手を掛けた割に。
キマらない私は、ギリギリ思い出してポケットの臙脂に手を掛けたのである。
うむ。
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