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二章 ハーレムルート
悲しき獣人 ライアン サンチェスター
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あの時、俺に何が起きたのか知る必要があった。
ギノフォード先生は獣人特有の「フェロモン」ではないかと話してくれた。
俺はシャルの婚約者で、シャル自身に何が起きているのか知るべきで知らなきゃいけない。
あの場には、ギノフォード先生もいた。
婚約者としてギノフォード先生に詰め寄るべきだったのかもしれない…。
だが、あの時は混乱して責める処ではなかった。
果たして、あの行為に意思があったのか…。
あの強烈な香りを嗅いだ瞬間に本能に逆らえなかった。
己の頭に有ったのは…。
「シャルが欲しい」
それだけだった。
その後シャルの身体に触れれば触れるほど香りは増していった。
なにも考えられずシャルに「子供を産ませたい」という本能に支配される。
自身が経験してしまったので、あの場にいたギノフォード先生を責めることは出来なかった。
「…今すぐ結婚しフィンコックには退学していただき伯爵家で管理・保護するという選択も…有ります。それはフィンコックの為でもあります。独りで決めず、フィンコックと話し合うべきです…それに…知っての通り獣人は百年ぶりです。王族がどうでるか分かりません…愛人にされる可能性は高いですよ。」
先生の言葉が頭から離れなかった。
婚約したからといって結婚した訳じゃない。
婚約したからといって完璧に守りきれるわけではない。
王族が出て来てしまえば…。
もし、そうなったら伯爵家の俺には太刀打ちできない。
簡単にシャルを諦めるつもりはない…。
そうは思っていても、限界はある。
俺はどうしたら良いんだ?
その日から悩み続けた。
「サンチェスター、良いですか?」
振り向かずとも声で誰なのかすぐに分かってしまう…。
そこにいたのはギノフォード先生だった。
先生は悪くないと己に言い聞かせるも、複雑な胸中を昇華出来ずにいた。
「…はい。」
談話室に呼ばれ、風魔法も行い万全の体制で二人きりになった。
「決めましたか?今後について…。」
「…ぃぇ、まだ。」
「…そう…ですね。」
「………。」
「私は貴方に謝罪しなければなりません、貴方の婚約者にしてしまったことについて…教師でありながらあのようなことを…本当に申し訳ないと思っている…。」
「………あれは、獣人のフェロモンなんですよね?……な…ら」
許せるものじゃない…けど…。
「私はフィンコックを…愛しています…。」
「…ぁい……はっ?」
混乱する頭で流しそうになったが、先生は何て言った?
「愛してる」って言ったのか?
「告げるつもりはありませんでした…生徒に…それも婚約者のいる者に…。」
「なっ何…ぃって…。」
なら、なんで言うんだよ?
「私は獣人のフェロモンに当てられた被害者になるつもりはありません。」
「なっ…。」
被害者で終われば良いじゃないか。
「私程度の者の告白に動揺してどうするんですか?貴方はこれから私以上の人間を相手にしなければならないんですよ。」
「………。」
俺を試したのか?
先生以上…。
「私を利用なさい。」
「ぇ?」
「私もフィンコックの婚約者に名乗りを上げます。」
「婚…約っ」
シャルの婚約者は俺だけ…。
「私を拒絶する前に、百年前の獣人の話をしましょう…。」
「………」
心が拒否し、言葉がでなかった。
「貴方は聞くべきです。」
「………」
俺は無言のまま頷いた。
「獣人については子を宿しやすく魔力も受け継ぎやすい、そして動物の特徴がある。この程度しか授業では伝えていませんね。学者達の見解による獣人はフェロモンで相手を誘い興奮させ、行為に至る事もあると…。獣人の性欲は人間の数倍、数十倍に当たり、一人の人間が相手にしていると「廃人になった」との記述がありました。その事を知らなかった百年前の獣人は、たった一人を愛し…殺してしまいました。自身の性欲で獣人は愛した人を殺してしまった消失感に耐えきれず後追いをしたと有ります。獣人の様子を見に行った貴族が…偶然発見し、事なきを得ましたが獣人はその後何度も命を断とうとしました。なので貴族達は獣人を厳重に保護を…。」
「………」
はいじん?
「この事は過去にペア決めを担当し退職した教師が残した物の中にあった日記で知りました。」
「……日記?」
「えぇ、日記です。日記には獣人を喪いたくない男の恐怖と執念が書かれていました。何度も自殺未遂をする獣人を保護という名の監禁をし管理していたと。魔法の使えない獣人は動物の特徴を持ちますが、百年前の獣人は「兎」だったんです。肉食系の獣人であれば魔法にも対抗できたかもしれませんが…兎は逃げ足は速いですが一度捕まってしまえば逃れることが出来ませんでした。そして魔法で管理された棟に閉じ込められ、高位貴族の子供を生むことになります。獣人は性欲が強いだけでなく発情期も有り、その時期は…。その過程で発情期を誘発させフェロモンを操る薬も開発され獣人自身が実験台となっていました。…貴方も知っているものです。」
俺も知ってる…。
「……ペア授業のっ?」
「はい、あの薬です。きっとフィンコックもあの薬を飲んだことで身体の中の獣人が目覚めたのでしょう…。」
「………」
「あの薬には子を宿しやすい者がわかる以外に別の意味が有ったんです。」
「別の意味…。」
なんとなく分かりそうだったが、分かりたくなかった。
脳が拒否し始めた。
「あれは獣人化しやすい者をリスト化し、掛け合わせ獣人を蘇らせる目的だったんです。本当に獣人化してしまうのは予想外だったはずですが…裏を返せば、そこまでして獣人を蘇らせたい人間がいると言うことです。では、何故そこまでして蘇らせたいのか?獣人研究家の取り憑かれた発想なのか、獣人にしかない能力を欲した為なのか…もしくは貴重な獣人を手に入れ、他貴族へ自慢したいのか…そんなくだらない目的ではないことを祈りたいですが。」
「………」
「獣人については、明かされていない謎が多くあります。敢えて公表していないのか秘匿にしているのか、何故そこまでして王族や高位貴族が獣人を欲しているのか?」
「………それはっ」
「「子供を産みやすい」ですか?それなら、子供が出来やすい魔力の低い者を愛人にすれば良いだけです。何人もの高位貴族達が共有する必要はない。」
「………」
「ならっ、魔力」
「そうですね、獣人と子を成せば同等の魔力量の子供が生まれます。自身の魔力が高ければ確実に魔力が高い子供になります…ですが、越えることはないでしょう…サンチェスターは伯爵より魔力量…低いですか?高いですか?」
「…魔力は…高い…です。」
「獣人では、そういうことは起きません…魔力の高い高位貴族が確実に子供を生みたいのであれば「獣人」を欲しがるでしょうが、多くの高位貴族が魔力が高いわけではありません。」
「………」
「それでも、確実に自分と同程度の魔力の子供が欲しいという貴族は獣人を欲しがったでしょう…一人二人、多くて三人生ませれば充分。その後、獣人はどんな扱いを受けた?それとも貸出でもされたんですかね?」
「………」
「…誰か…廃人になってしまった彼以外、獣人を愛していた人はいたのか?日記の持ち主は獣人を愛しての行動だったのか?獣人は「人」扱いされていたのか?…文献には書いていない獣人の「秘密」が有ったのか…。もし私の仮説のどれかが正しかった時、当時獣人に子供を産ませた貴族には「秘密」を記した何かが有るかもしれない、私が手にした日記のように…。そうであった場合、その貴族達は百年ぶりの獣人をいかなる手段を使ってでも手にいれようと躍起になるでしょうね…研究家達も名乗りを上げるでしょう。」
「………」
「獣人と表向き結婚したとされる貴族達の名は伏せてあり、どの文献にも書いてありません。その中に王族がいたのかさえ分かりません。獣人は多くの貴族と子を成したとしか記述はなく…子供は貴族達が育て、獣人に会わせたのかも不明です。」
「それって…子供を産ませる為だけとしか…。」
「私も同意見です。…獣人について研究している学者は純粋な思いでしょうが、研究家達は何を考えているか想像できませんし、やると決めたらなんでもしますよ。学生で人体実験するくらいですから…。」
「なんで…止める事は出来ないんですか?先生なら薬だけでも中止に…。」
無茶なことを言っているのは分かる…先生に言った所で…。
最近出来た規則ではないので廃止するのも時間が掛かることも…。
だが、聞かずにはいられなかった。
「薬に関しては多くの貴族の了承を得ており、私は一教師でありただの侯爵家次男です。それに…始業式の獣人検査でフィンコックが倒れた後に私が獣人に関わることで動けばフィンコックが獣人だと知れ渡るでしょう。」
「………」
「そんな状況の中でも、貴方との婚約は運命だったかもしれませんね。」
「………」
運命…。
「貴方達が婚約し、その後第一王子の婚約も発表されました。もし貴方達の婚約が始業式の後にと考えていたら、王族や研究家に囲われていた可能性もあります…貴方は既にフィンコックを守っているんです、自信を持ちなさい。」
…そんなもん、なんの慰めにもならない。
「……先生。」
「はい」
「…百年前の…獣人は最後…幸せっだったんですか?」
「…それは…私にも分かりません。…ですが、フィンコックを幸せにすることはできます。」
「………」
「貴方の決断次第です…。」
「…それ……は…」
「私は侯爵家で、父と兄は魔法省に勤め役人です。フィンコックを確実に守りたいと思うのであれば私を利用してください。」
「……っ……」
決断って、そんなのあんたという婚約者を受け入れるしかないだろ…。
クソッ…。
覚悟するしかないのか…俺以外のシャルの婚約を…。
考えなきゃいけないのに、頭が回らない。
いつまでも無言が続く。
先生がシャルと婚約したいが為に嘘を吐いているとは思っていない。
シャルが獣人であるのも目の当たりにしたし、フェロモンの効果も体験した。
シャルを抱いた時に性欲の強さや全てを奪われる感覚が有ったのも確かだ。
百年前の獣人は性欲で愛する相手を「廃人」にさせたと聞かされると、納得できてしまう…。
求められれば求められるだけ答えたいと思った。
今の性欲であれば…なんとか平気だ…。
だが、シャルは獣人になったばかり、今が性欲が強い状態なのかこれからもっと強くなるのか…。
強くなった時、俺は一人でシャルを受け止めることが出来るのか…。
それに…結婚し何年も続いた時、俺は…。
はっきりいってしまえば…
不安でしかない。
漸く本気で…全力でシャルを抱けると思ったが…今度はシャルの本気が怖くなった。
「廃人」
その言葉が頭を駆け巡る。
俺はシャルを独り占めしたい…したいが…ずっと…側にいたい。
数年じゃなく数十年シャルの側に…。
もし俺だけを選び…俺が先に死んだらシャルは…。
研究家達に…。
そうならない為には…。
分かってる…シャルを守るためなら選択をしなければならないことを…。
悔しいが俺一人ではどうにも出来ない…。
権力も体力も…。
俺は無力だ…。
「俺は…先生の提案を………受け入れます。」
受け入れてしまった…。
但しギノフォード先生には「シャルの気持ちを優先すること」と念を押した。
俺以外の婚約を認めたとしても「ギノフォード先生は嫌だ」となれば無理強いしないこと。
先生も俺の提案を受け入れてくれた。
それからは、ギノフォード先生と獣人化する前のシャルについて話した。
百年前の獣人について話を聞いてからは、諦めのような感情が生まれていた。
シャルを独り占めしたい。
俺だけのシャル。
そう思っていたが、現実は無理だ。
俺は伯爵家で、どれだけの貴族がシャルを欲しているのか想像もつかない。
先生から獣人研究家の恐ろしさを聞けば、信頼の出来る家門は一つでも多くいた方がいいと納得…せざるを得ない。
俺はシャルにいつまでも「幸せ」であって欲しい。
獣人研究家もあるが、俺は辺境貴族…騎士だ。
父の後を継ぎ辺境を守る騎士…ただでさえ他の貴族より命の危険があるのに、同時に研究家達からシャルを守りきれるか…
俺は…弱かった。
ギノフォード先生は獣人特有の「フェロモン」ではないかと話してくれた。
俺はシャルの婚約者で、シャル自身に何が起きているのか知るべきで知らなきゃいけない。
あの場には、ギノフォード先生もいた。
婚約者としてギノフォード先生に詰め寄るべきだったのかもしれない…。
だが、あの時は混乱して責める処ではなかった。
果たして、あの行為に意思があったのか…。
あの強烈な香りを嗅いだ瞬間に本能に逆らえなかった。
己の頭に有ったのは…。
「シャルが欲しい」
それだけだった。
その後シャルの身体に触れれば触れるほど香りは増していった。
なにも考えられずシャルに「子供を産ませたい」という本能に支配される。
自身が経験してしまったので、あの場にいたギノフォード先生を責めることは出来なかった。
「…今すぐ結婚しフィンコックには退学していただき伯爵家で管理・保護するという選択も…有ります。それはフィンコックの為でもあります。独りで決めず、フィンコックと話し合うべきです…それに…知っての通り獣人は百年ぶりです。王族がどうでるか分かりません…愛人にされる可能性は高いですよ。」
先生の言葉が頭から離れなかった。
婚約したからといって結婚した訳じゃない。
婚約したからといって完璧に守りきれるわけではない。
王族が出て来てしまえば…。
もし、そうなったら伯爵家の俺には太刀打ちできない。
簡単にシャルを諦めるつもりはない…。
そうは思っていても、限界はある。
俺はどうしたら良いんだ?
その日から悩み続けた。
「サンチェスター、良いですか?」
振り向かずとも声で誰なのかすぐに分かってしまう…。
そこにいたのはギノフォード先生だった。
先生は悪くないと己に言い聞かせるも、複雑な胸中を昇華出来ずにいた。
「…はい。」
談話室に呼ばれ、風魔法も行い万全の体制で二人きりになった。
「決めましたか?今後について…。」
「…ぃぇ、まだ。」
「…そう…ですね。」
「………。」
「私は貴方に謝罪しなければなりません、貴方の婚約者にしてしまったことについて…教師でありながらあのようなことを…本当に申し訳ないと思っている…。」
「………あれは、獣人のフェロモンなんですよね?……な…ら」
許せるものじゃない…けど…。
「私はフィンコックを…愛しています…。」
「…ぁい……はっ?」
混乱する頭で流しそうになったが、先生は何て言った?
「愛してる」って言ったのか?
「告げるつもりはありませんでした…生徒に…それも婚約者のいる者に…。」
「なっ何…ぃって…。」
なら、なんで言うんだよ?
「私は獣人のフェロモンに当てられた被害者になるつもりはありません。」
「なっ…。」
被害者で終われば良いじゃないか。
「私程度の者の告白に動揺してどうするんですか?貴方はこれから私以上の人間を相手にしなければならないんですよ。」
「………。」
俺を試したのか?
先生以上…。
「私を利用なさい。」
「ぇ?」
「私もフィンコックの婚約者に名乗りを上げます。」
「婚…約っ」
シャルの婚約者は俺だけ…。
「私を拒絶する前に、百年前の獣人の話をしましょう…。」
「………」
心が拒否し、言葉がでなかった。
「貴方は聞くべきです。」
「………」
俺は無言のまま頷いた。
「獣人については子を宿しやすく魔力も受け継ぎやすい、そして動物の特徴がある。この程度しか授業では伝えていませんね。学者達の見解による獣人はフェロモンで相手を誘い興奮させ、行為に至る事もあると…。獣人の性欲は人間の数倍、数十倍に当たり、一人の人間が相手にしていると「廃人になった」との記述がありました。その事を知らなかった百年前の獣人は、たった一人を愛し…殺してしまいました。自身の性欲で獣人は愛した人を殺してしまった消失感に耐えきれず後追いをしたと有ります。獣人の様子を見に行った貴族が…偶然発見し、事なきを得ましたが獣人はその後何度も命を断とうとしました。なので貴族達は獣人を厳重に保護を…。」
「………」
はいじん?
「この事は過去にペア決めを担当し退職した教師が残した物の中にあった日記で知りました。」
「……日記?」
「えぇ、日記です。日記には獣人を喪いたくない男の恐怖と執念が書かれていました。何度も自殺未遂をする獣人を保護という名の監禁をし管理していたと。魔法の使えない獣人は動物の特徴を持ちますが、百年前の獣人は「兎」だったんです。肉食系の獣人であれば魔法にも対抗できたかもしれませんが…兎は逃げ足は速いですが一度捕まってしまえば逃れることが出来ませんでした。そして魔法で管理された棟に閉じ込められ、高位貴族の子供を生むことになります。獣人は性欲が強いだけでなく発情期も有り、その時期は…。その過程で発情期を誘発させフェロモンを操る薬も開発され獣人自身が実験台となっていました。…貴方も知っているものです。」
俺も知ってる…。
「……ペア授業のっ?」
「はい、あの薬です。きっとフィンコックもあの薬を飲んだことで身体の中の獣人が目覚めたのでしょう…。」
「………」
「あの薬には子を宿しやすい者がわかる以外に別の意味が有ったんです。」
「別の意味…。」
なんとなく分かりそうだったが、分かりたくなかった。
脳が拒否し始めた。
「あれは獣人化しやすい者をリスト化し、掛け合わせ獣人を蘇らせる目的だったんです。本当に獣人化してしまうのは予想外だったはずですが…裏を返せば、そこまでして獣人を蘇らせたい人間がいると言うことです。では、何故そこまでして蘇らせたいのか?獣人研究家の取り憑かれた発想なのか、獣人にしかない能力を欲した為なのか…もしくは貴重な獣人を手に入れ、他貴族へ自慢したいのか…そんなくだらない目的ではないことを祈りたいですが。」
「………」
「獣人については、明かされていない謎が多くあります。敢えて公表していないのか秘匿にしているのか、何故そこまでして王族や高位貴族が獣人を欲しているのか?」
「………それはっ」
「「子供を産みやすい」ですか?それなら、子供が出来やすい魔力の低い者を愛人にすれば良いだけです。何人もの高位貴族達が共有する必要はない。」
「………」
「ならっ、魔力」
「そうですね、獣人と子を成せば同等の魔力量の子供が生まれます。自身の魔力が高ければ確実に魔力が高い子供になります…ですが、越えることはないでしょう…サンチェスターは伯爵より魔力量…低いですか?高いですか?」
「…魔力は…高い…です。」
「獣人では、そういうことは起きません…魔力の高い高位貴族が確実に子供を生みたいのであれば「獣人」を欲しがるでしょうが、多くの高位貴族が魔力が高いわけではありません。」
「………」
「それでも、確実に自分と同程度の魔力の子供が欲しいという貴族は獣人を欲しがったでしょう…一人二人、多くて三人生ませれば充分。その後、獣人はどんな扱いを受けた?それとも貸出でもされたんですかね?」
「………」
「…誰か…廃人になってしまった彼以外、獣人を愛していた人はいたのか?日記の持ち主は獣人を愛しての行動だったのか?獣人は「人」扱いされていたのか?…文献には書いていない獣人の「秘密」が有ったのか…。もし私の仮説のどれかが正しかった時、当時獣人に子供を産ませた貴族には「秘密」を記した何かが有るかもしれない、私が手にした日記のように…。そうであった場合、その貴族達は百年ぶりの獣人をいかなる手段を使ってでも手にいれようと躍起になるでしょうね…研究家達も名乗りを上げるでしょう。」
「………」
「獣人と表向き結婚したとされる貴族達の名は伏せてあり、どの文献にも書いてありません。その中に王族がいたのかさえ分かりません。獣人は多くの貴族と子を成したとしか記述はなく…子供は貴族達が育て、獣人に会わせたのかも不明です。」
「それって…子供を産ませる為だけとしか…。」
「私も同意見です。…獣人について研究している学者は純粋な思いでしょうが、研究家達は何を考えているか想像できませんし、やると決めたらなんでもしますよ。学生で人体実験するくらいですから…。」
「なんで…止める事は出来ないんですか?先生なら薬だけでも中止に…。」
無茶なことを言っているのは分かる…先生に言った所で…。
最近出来た規則ではないので廃止するのも時間が掛かることも…。
だが、聞かずにはいられなかった。
「薬に関しては多くの貴族の了承を得ており、私は一教師でありただの侯爵家次男です。それに…始業式の獣人検査でフィンコックが倒れた後に私が獣人に関わることで動けばフィンコックが獣人だと知れ渡るでしょう。」
「………」
「そんな状況の中でも、貴方との婚約は運命だったかもしれませんね。」
「………」
運命…。
「貴方達が婚約し、その後第一王子の婚約も発表されました。もし貴方達の婚約が始業式の後にと考えていたら、王族や研究家に囲われていた可能性もあります…貴方は既にフィンコックを守っているんです、自信を持ちなさい。」
…そんなもん、なんの慰めにもならない。
「……先生。」
「はい」
「…百年前の…獣人は最後…幸せっだったんですか?」
「…それは…私にも分かりません。…ですが、フィンコックを幸せにすることはできます。」
「………」
「貴方の決断次第です…。」
「…それ……は…」
「私は侯爵家で、父と兄は魔法省に勤め役人です。フィンコックを確実に守りたいと思うのであれば私を利用してください。」
「……っ……」
決断って、そんなのあんたという婚約者を受け入れるしかないだろ…。
クソッ…。
覚悟するしかないのか…俺以外のシャルの婚約を…。
考えなきゃいけないのに、頭が回らない。
いつまでも無言が続く。
先生がシャルと婚約したいが為に嘘を吐いているとは思っていない。
シャルが獣人であるのも目の当たりにしたし、フェロモンの効果も体験した。
シャルを抱いた時に性欲の強さや全てを奪われる感覚が有ったのも確かだ。
百年前の獣人は性欲で愛する相手を「廃人」にさせたと聞かされると、納得できてしまう…。
求められれば求められるだけ答えたいと思った。
今の性欲であれば…なんとか平気だ…。
だが、シャルは獣人になったばかり、今が性欲が強い状態なのかこれからもっと強くなるのか…。
強くなった時、俺は一人でシャルを受け止めることが出来るのか…。
それに…結婚し何年も続いた時、俺は…。
はっきりいってしまえば…
不安でしかない。
漸く本気で…全力でシャルを抱けると思ったが…今度はシャルの本気が怖くなった。
「廃人」
その言葉が頭を駆け巡る。
俺はシャルを独り占めしたい…したいが…ずっと…側にいたい。
数年じゃなく数十年シャルの側に…。
もし俺だけを選び…俺が先に死んだらシャルは…。
研究家達に…。
そうならない為には…。
分かってる…シャルを守るためなら選択をしなければならないことを…。
悔しいが俺一人ではどうにも出来ない…。
権力も体力も…。
俺は無力だ…。
「俺は…先生の提案を………受け入れます。」
受け入れてしまった…。
但しギノフォード先生には「シャルの気持ちを優先すること」と念を押した。
俺以外の婚約を認めたとしても「ギノフォード先生は嫌だ」となれば無理強いしないこと。
先生も俺の提案を受け入れてくれた。
それからは、ギノフォード先生と獣人化する前のシャルについて話した。
百年前の獣人について話を聞いてからは、諦めのような感情が生まれていた。
シャルを独り占めしたい。
俺だけのシャル。
そう思っていたが、現実は無理だ。
俺は伯爵家で、どれだけの貴族がシャルを欲しているのか想像もつかない。
先生から獣人研究家の恐ろしさを聞けば、信頼の出来る家門は一つでも多くいた方がいいと納得…せざるを得ない。
俺はシャルにいつまでも「幸せ」であって欲しい。
獣人研究家もあるが、俺は辺境貴族…騎士だ。
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