【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒

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私が呼ばれた理由

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 誰もいない部屋で待っている間に息は整い、誰を待っているのか分からないが相手に見苦しい姿を見せることはなかった。
 誰を待ち、なぜ私が王城にいるのかを考えていると遂にその時間がやってきた。
 子爵の仰々しい反応に目を奪われていると、この場に相応しき主が到着する。
 私が待っていた相手は国王陛下だった。
 子爵が孤児院に定期訪問しに来た時のように存在を消し、大人達の機嫌を損ねないようにやり過ごす。
 隣に立つ子爵は嬉々として語り始めるので、私は口を挟まず聞き役ではなく盗み聞きする。

「私が面倒を見ている孤児院の一つで、子供が手を怪我してしまいました。子供は元気に遊ぶ事が一番だという理念で経営しておりましたが、院長の一瞬の不注意により事故が起きてしまったのです。私はいくら治療費が掛かったとしても子供の為ならと、様々な医師を尋ねましたが皆答えは同じ『今後、手が動くことはないでしょう』という無情なものでした。本当の子供のように大切に思っていましたので一生を背負う障害を負ってしまったことに嘆き悲しみ夜も眠れず毎日神に祈り続けていました。『あの子を救ってくれる神の遣いを私の元へ』そうしましたら、この子が……この子が能力を授かったのです。それはまさに『聖女』のような能力です。きっと、我が領地が勤勉で強い信仰心や国への忠誠心が神に届き、毎日の私の祈りの返事として、この子を通して神のご加護を頂けたんだと思っております」

 涙ながらに熱く語る子爵だが、私には違和感しかない。
 子爵は私達孤児の状態など気にした事はないし、あの孤児院の責任者が子爵だというのも今知ったくらいだ。
 アヴィールを診察してくれたのはお爺ちゃん先生の一人だげで、診察代は前回バザーを開催した時の売り上げからだ。
 子爵からの支援は微々たるもので、先生二人とお姉さん達が刺繍したハンカチの売り上げで孤児院はなんとか保たれている。
 アヴィールが怪我をした事さえ知らないような人が嘆き悲しむわけがない。
 私は冷めた目で子爵に視線を向ける。
 この場にいる人達が子爵の言葉を信じたのかは分からないが、子爵の演説が終わっても沈黙が続く。

「子爵、その子の名前はなんと言う? 」

「ケイトリーン・ミシェリングと申します」

「ミシェリング? 」


「今回の事で、この子が『聖女』だと知れ渡れば危険な目に遭うと予想出来ましたので、我が子爵家が養女として受け入れ保護することに決めました」

 保護……子爵の口からでる言葉は知らないことばかりだ。

「怪我をした少年を治癒したと聞くが、それは本当か? 」

 国王と思しき偉い人が、私に言葉を向ける。
 アヴィールの手が治ったのは確かだが、それが私の力なのか未だに半信半疑だ。

「……そう……だと思います……」

「どうやって治癒したんだ? 」

「……アヴィ……怪我人の手を握り、祈りました」

「祈っただけでか? 」

「……はぃ」

 嘘は吐いていないのに国王だけでなくその場に居合わせた大人達の目が私の事を疑っていると感じ、いつしか私の視線は床に到着していた。

「今回が初めてか? 」

「ぅん……ぁっ……はいっ……」

 もう、この緊張感から解放されたい思いからつい「うん」と言ってしまったが、国王にそんな口調で応えてはいけないと言い直し怒られないか顔を上げた。

「その力は何の前触れもなく突然現れたのか? 」

「ぇっと……」

 夢で神様のような人に貰ったと言って信じてもらえるのだろうか? 
 『嘘を吐くな』と怒られるのではないかと思うと怖くて言えなくなる。

「どんなことでも良い、教えてくれないか? 」

「……どんな事でも? 」

「あぁ。経験したことを教えてほしい」

「……はぃ。あの日……夢で、神様に光を貰いました」

「光を貰った? 」

「はい。それをアヴィールに渡せば……治ると……」

 これは子爵にも話してないことで、彼も少し驚いていた。

「そうか……ではケイトリーン嬢、そなたに頼みがある」

「……頼み……ですか? 」

 頼み……きっと、それが私が呼ばれた理由なんだと察する。

「私の大切な人を助けては頂けないか? 」

「大切な人? 」

「あぁ」

 国王の話によると、大切な人とは王妃の事だった。
 王妃が謎の病で倒れ医師に診察させるも病状は改善どころか悪化する一方で、病名さえ分からない状態が一年続いているとのこと。
 国王は王妃の事をとても愛しており、どんな事をしてでも助けたくトランビーノ国の優秀な医師だけでなく隣国の医師を極秘に呼び寄せたこともあるそうだが効果はなかったと私にも分かるように語る。
 途方に暮れ誰もが諦めかけていた時、王都から遠く離れた領地の孤児院で怪我を治療することが出来るという少女を発見したという手紙が届く。
 愛する人を助けたい国王にとっては藁にも縋る思いで子爵を通して私を呼び寄せたらしい。

「ぁの……」

 その話を聞いて私は王妃を助けられると言いきれなかった。
 私はあの時、神様に貰った光をアヴィールに渡した。
 なので私の中にその光がまだ残っているとは思えない。

「なんだ? 」

「……神様に頂いた光は、あの子に渡してしまいました……私の中に……残っているか……」

「そんなことは無いだろう。自信を持ちなさい。ケイトリーンは特別な子なんだ」

 私が不安を口にすると、子爵が焦ったように否定する。

「……そうだな。だが、ほんの少しでも回復の兆しがあるかどうかだけでも知りたいんだ。頼めるか? 」

「……はぃ」
 
 私には「はい」としか答えられなかった。
 国王の期待に応えれれなかった時の事を考え恐ろしかったが、国王もそのことを受け入れるも子爵だけは私を睨んでいる。
 それから王妃の部屋に案内され、世話をしていた使用人が下がると国王に合図される。
 王妃はひどく痩せ、呼吸も浅い。
 王妃の姿を目の当たりにすると、旅立ってしまうのも時間の問題のように見える。
 なので、国王も聖女……かもしれないという曖昧な存在の私に助けを求めたのだろう。
 私はアヴィールの時のように床に膝をつき王妃の手を握り祈り始める。
 始めは周囲の雑音や気配が気になり集中できずにいたが、次第に奥深くに沈んでいく感覚を味わった。
 眠っているわけではないが、その状態に近い。
 深い闇の中に沈んでいくと、先程見た王妃の姿を発見する。
 横たわる王妃を揺さぶるも起きる気配はなく、どうすれば良いのかさえ分からないでいると光が上っていくのに気が付いた。
 咄嗟にあの光に着いていけば助かるのではないかと思い、王妃を横抱きにし水中にいるように光を目指して泳いだ。
 次第に光が大きく広がり水面に顔をだす……

「ぷはっ……はぁはぁはぁ」

 祈りから現実に戻ると、本当に水中を潜っていたように息苦しく深呼吸を繰り返すも意識が遠退きゆっくりと倒れていく。
 意識を失う前、王妃が目覚め国王が涙ながらに抱き締める姿を目撃した……ような気がした。
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