【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒

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 国民の相談事を聞くには常に新たな知識に情報を取り入れなければならず、大聖堂から戻れば王宮の図書館に入り浸るようになった。
 その時気になった事を手当たり次第。
 天候に植物、近隣国について、この国で人気の芸術家、害獣から農作物を守る方法、新たな仕事の見つけ方、病と症状。
 いくら勉強しても、答えられない時もある。
 この前は……

「夫が娼婦に夢中なの、あの娼館を聖女の権限で取り潰しにして」

 夫の浮気に悩む女性からの相談というより、訴え……叫びだった。
 冷静に話そうとするも女性は興奮しこちらの話に聞く耳を持たず、女性が感情を吐き出すのを手伝うしかできなかった。
 浮気……

「私も浮気されてたって事なのかな……」

 別に気にしたことは無かった。
 王子の事をお慕いしたことは無いから。

「聖女様は結婚されてたのか? 」

「ひゃっ」

 振り向くとマドリゲスがいた。

「すまない……それより、先程の……浮気とは……」

「結婚はしておりません。婚約者が……」

「いたのか? 以前はいないと……」

 確かそんな話もしたような……

「えっと……こちらに呼ばれる直前に……婚約解消を言い渡されました」

「……そうだったのか、理由を聞いても? 」

「私が聖女……様の補佐をしておりましたので、相手のご両親が恩恵欲しさに……拒否できない身分でしたので……」

 この程度は、嘘とは言わない……よね?

「……あぁ、そういう事か……」

 貴族であれば私の言い方で政略的な婚約だと理解する。

「はい」

「聖女様は、そいつの事を? 」

「いえ全く」

 マドリゲスの質問に間髪入れずに答える。
 私が慕っていたなんて一瞬でも思われたくない。
 あんな奴……

「そうか。その相手は婚約中に別の令嬢と? 」

「はい」

「婚約しておきながら、その対応は誠実ではないな」

 騎士なだけあって、マドリゲスは正義感が強いらしい。
 私よりも怒っているように見える。

「あの方には婚約したい方がいらっしゃたんです」

「だとしても、相手の家門の方から婚約を申し込まれたのだろう? 」

「そう……ですね」

「そんな奴とは解消になって正解だ」

「私もそう思います」

「……解消を言い渡された割には……その……」

 さっぱりしている?

「私も婚約解消したいと思っていたので、喜びの方が勝っていました」

「そうか、それなら良かった……今日は何について調べているんだ? 」

「娼館についてです」

「召喚? 」

「はい、私の権限で娼館を取り潰しにしてほしいと」

「召喚を……それは難しいだろう。召喚は国にとって頼みの綱だ」

「頼みの綱ですか? 」

 娼館って、そんなに重要な役割をしているの?

「聖女が亡くなってからの数年は、我が国から誕生するのを待った。だがその間、聖女がいないだけで不運が続き我が国は弱体した。国民の心の支えが聖女となり、日を追うごとに聖女を欲していた。召喚は希望だ」

「ん? 性……女……ですか? 」

 この国は娼館で働く女性を、性女と言っているの?

「あぁ。 召喚だろう? 」

「はい、娼館です……男性が通う……女性を買う、あの場所……」

「……ん? それは……娼……館のことか? 」

「どの娼館ですか? 」

「もしかして聖女は先程から……男が……金銭で女性との一夜を共にする方の事を言っているのか? 」

「……はい」

 それ以外に娼館があるのだろうか?

「……そっちか。俺はてっきり聖女召喚の方かと……」

 せいじょしょうかん……性女? 娼館? ……聖女、召喚。

「あっ聖女、召喚……勘違いをさせてしまいましたね……」

 聖女召喚ねっ。
 どうりで先程から会話が噛み合わない訳よ。

「いや、俺がそっちに結び付けてしまったんだ」

 確かに。
 聖女召喚で呼ばれた私であれば、娼館より召喚と思ってしまうだろう。
 聖女からしたら娼館は程遠い存在だもの……

「言葉が足りませんでしたね」

「あはっ……えっと、娼館の取り潰しだったか……」

 漸く本題に行けた気がする。

「はい、難しいですよね」

「あぁ。これだけ根付いてしまうと、取り潰した時様々な問題が発生するだろう。残念な事に、娼館があることでその手の犯罪の件数が減少したのは確かなんだ」

「……必要だから存在する、という事ですね」

「あぁ」

「では、あの方は今後も浮気に苦しみ続けるという事なんですね……」

 私には解決できなかった。

「『辞めろ』と言われると、意地で通う人間もいる。卑怯な奴は『俺が通うのはお前が悪いからだ』と責任転嫁することもある」

「……最悪な人ですね」

 浮気を人のせいにするなんて信じられない。

「あぁ」

「……マドリゲス様は、なんだか詳しいですね」

「俺は、娼館通いはしない。だが、揉めえ事が起きれば仲裁に入る」

 そんな仲裁をしなければならないなんて……

「あっ、その経験があるのですね……そんな事までなさるなんて、騎士様は大変なお仕事ですね」

 騎士は主を護衛する崇高な仕事のはずなのに、恋愛の揉め事の仲裁だなんて……

「俺からしたらそんな男『捨てちまえっ』と助言したんだが、『それはしたくないっ』と泣かれた時は正直困った」

「そんな男性でも、慕っているって事なんですね」

 私もマドリゲスと同じ言葉を相手に送っていたかもしれない。
 そんな女性の気持ちが理解できないのは、私に恋愛経験がないからだろうか?
 本気で誰かを思った時、浮気されても離れたくないものなの?

「恋愛程、他人が口を挟む事ではない」

 マドリゲスの言葉に頷く。

「……そう……ですね。私が出来る事はあの方の話を聞く事だけ」

「それは本来、聖女の仕事ではないんだがな」

「恋愛の仲裁も騎士様のお仕事とは言えないと思いますけどね」

 マドリゲスに対して親近感が湧き、二人で顔を見合わせ笑っていた。
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