悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ

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7 思い出したのに、婚約!(1)

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 王都で買い物をしていた際に、魔物に襲われた私達。お母様はメアリーを庇って瘴気を浴び、倒れてしまった。

「お母様! お母様!」
「……あ、あ、わ、私……」

 泣き叫ぶ私とショックで震えるメアリーを庇い、護衛騎士達で魔物を薙ぎ払うが攻撃が効かないので埒があかない。

「メアリー! しっかりしろ! お嬢様を連れて逃げなさい!」

 ハロルドが叫んだ。併せて護衛の一人にお母様を抱えて逃げるよう指示する。メアリーは涙を拭き、私に「お嬢様、逃げましょう!」と声をかけた。だが──。

 お母様が倒れている!

 私のせいで! 私は守れなかった!

 自責の念と失う恐怖で、逃げ出すことなんて考えられない。ただただ涙が溢れた。

『ギャー!』

 魔物がまた瘴気を放つ。私に命中するコースだ。思わず目を閉じた。

パァァァァン!!

「!?」

 聖騎士の一人が聖魔法を飛ばし、瘴気を薙ぎ払っている。お父様率いる聖騎士団が到着したのだ。

「リディ!?」
「お、お父様……!」
「ソフィア!? なぜこんなことに! とにかく逃げろ!」

 お父様はお母様に駆け寄りたいのを必死に我慢し、わたしたちを逃がしてくれたのだった。



 なんとか公爵邸に戻り、医師を呼び寄せた。だが、やはり魔物の瘴気に当てられていて、治療法はなく、命が尽きるまで、腐りゆく身体の痛みに耐えるしかないのだと言われてしまった。

 お母様は酷い熱も出ていて、いつまで身体が持つかわからない。

「ソフィア……ソフィア……あぁ……」

 お父様は別人のように弱々しくお母様の手を握っている。魔物退治を終え、そのまま急いで帰宅したお父様は、何時間も騎士服のまま、着替えずに泣き続けていた。
 二人が愛し合っているのは知っていたが、これほどまでにお父様はお母様を愛しているのだと痛感し、守れなかった自分を私は責め続けていた。

「リディ」
「お兄様……」

 お母様の寝室に入れず、廊下でうずくまって泣いていたところに、お兄様がやってきた。優しい眼差しで私の頭を撫でると、私の横にそっと座る。

「お前は怪我はないのか?」
「私のことなど……。それより、お母様が!」

 泣き腫らした私の頬を、そっとお兄様の手が包む。そして、お兄様の魔力を感じたかと思うと、心地よい温かい何かに包まれた。
 すると、魔物と初めて戦って出来た小さな傷が、あっという間に治ったのだ!

「リディが聖魔法を石に込めた時、俺も真似してみたんだ。そしたら、すごい攻撃魔法じゃなくても聖魔法を込められるようになって。土属性だからかな。どう? こうしたらちょっとは癒される?」

 癒されるどころか、身体中の痛みが全て消えた。迷いも悲しみも消え、心に光が灯るのを感じる。

 そうだ。『聖魔法といえば魔物を倒せるもの』と思い込んでいたけれど、これは『光魔法』だったわ!!

「ありがとうございます! お兄様! ついてきて!!」

 そうして私はお母様の部屋へと駆け出した。




バン!!

「リディ! もう少し静かに──」
「お母様! この石を握ってくださる?!」

 お父様が泣いているのもお構いなしに、お母様のベッドに駆け寄った。急ごしらえで作った「聖魔法を込めた魔石」をお母様に持たせる。
 そして、石を握るお母様の手に私の手を重ねる。

 優しい温度で。前世のカイロくらいのあたたかさをイメージしながら、ゆっくり魔法を展開する。この世界に治癒魔法はあるが、魔族による瘴気の癒し方は開発されていない。
 
(この治療法が正しいかどうかは分からないけれど!)

 ここでお母様が病めば、お父様は団長を辞して領地へ帰ってしまう。お兄様はチャラ男に育ってしまうのだ。何より大好きなお母様に元気を取り戻してほしい。

 なんとしてもお母様を救いたい!

 聖魔法はその属性の最大魔法でエフェクトがかかるもので、この優しい温度を展開する火魔法だけでは、聖魔法のエフェクトはかからない。お兄様のような土魔法ならば可能なのかもしれないが、私がそんな練習している暇なんてない。

 だが、予め聖魔法を込めた石を通じて、あたたかい火魔法を展開してけば、もしかして──

「……なんと!!」
「っ!!」

 お父様とお兄様が隣で息を呑む。
お母様の顔色は火魔法で温めたからか、血色が良くなってきた。
 集中して、弱く優しい魔力を、石を通してお母様の全身に張り巡らせていく。

「お母様……っ! がんばって……!!」

 火魔法の赤色ではなく、聖魔法の白い光がお母様を包む。そして、ゆっくりと魔法をかけ終えると、お母様は微笑んでいた。

「リディの魔法、あたたかいのね……。ありがとう」
「お母様!? 痛いところは?!」

 さっきまでその顔や腕にあった痛々しい瘴気傷も癒えている。すっきりとした表情のお母様が柔らかく笑った。

「不思議ね。どこも痛くないのよ? 死ぬ前に女神様が痛みを消してくれたのかしら」
「……違う。これは……」

 顔色も回復し、熱もないようだとお父様が確認すると、物凄い勢いでお母様を抱きしめた。そして大の男が大泣きを始めてしまった。

「ああ、ああ! ソフィア、ソフィアっ!! 君を愛してるんだ! 君が居なくなったら、私はっ!」
「まぁまぁ貴方、泣かないでくださいませ」
「ソフィアっ!! よかった!! ソフィアァァァ!!」

 わんわん泣くお父様を見たのは初めてで、私たちはポカンとしてしまったが、「暫くそっとしといてやろう」とお兄様が提案し、私たちはメイド達とそっと部屋を出たのだった。

「リディ、すごい発明だぞ。これは、世界を変える!」
「お兄様が直接優しい聖魔法をかけたら、お母様は治っていたかもしれないわ。お兄様がすごいのよ」
「違う! リディ、これは仮説だが、あの『聖魔法を込めた石』さえあれば、そこに少しの魔力を流すだけで瘴気を消せるのかもしれない。だとすれば、これからはどんな人でも少しの魔力さえあれば、魔物に対抗できるかもしれないんだ!」

 お兄様が珍しく熱く語っている。もしかして、そうだとしたら。

「魔王に……勝てる?」
「あぁ。勝てるかもしれない!」
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