悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ

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47 嘘と偽りと聖剣!(9)

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 願いを込めて聖剣を振り下ろす。ありったけの魔力を込めて聖魔法を展開した。

(模造剣は本物より威力がない! だったらもしかしたら……!)

 魔王のサンドラは私の姿を瞳に捉えていたが、攻撃することも逃げることもなく、ただその運命を受け入れるかのように、大人しく斬られた。

『グォァァォァァ!!!』

 おぞましい雄叫びとともに、魔王の姿からサンドラの姿へと変貌していく。
 空中で気を失い落ちていくサンドラ。もちろん私も着地のことは頭に無く、まっさかさま。

「ひゃぁぁぁ!」
「リディ!」

 風魔法が身体を包む。クリス様の魔法で、私もサンドラもゆっくりと着地できた。
 サンドラはまだ気を失ったまま。

 魔王であるサンドラの意識が無い為か、魔物はいつのまにかどこかへ消え去っていた。

「終わった……?」
「この娘が目を覚ますまでは油断できない。魔力封じの腕輪を嵌めても魔王に意味があるかどうか」
「彼女がまた暴走したら、わたくしがまた張り倒すわ」
「光魔法を浴びせまくれば少しは大人しくなるかもしれませんね!」

 私たちの話を聞いて、クリス様たちは呆れ顔だ。

「君たちは……」
「彼女も前世の記憶持ちでした。悪役令嬢として産まれたわたくしとしては、他人事とは思えなくて」
「そんなことだろうと思いましたよ! 私にもライバルキャラなのに優しかったですもんね」
「リディ……君って人は……」

 クリス様の優しい眼差しに、私は照れ隠しで強がる。

「あら、わたくし良い子ぶるつもりはありませんわよ? サンドラが起きたら、街の復興の為に働かせてやりますわ! おほほほ!」
「ふふふ。リディア様らしいですね」

 悪役令嬢の高笑いが空に響き、いつのまにかやってきていた夜は、もうすぐ朝になろうとしていた。

 ん? 夜が明ける? ああ!!

「ああ! 神スチル!!」
「いけない! アラン様はどこですか!?」
「王都の中心街に魔物が集まってきて……聖騎士団はそこで戦っていたはずだ」

 サンドラの身柄はお兄様たちに任せて、アラン様の元へ急ぐ。中心街まで走るにつれて、王都の被害を目の当たりにした。

「!」
「これは……」

 アラン様がいた場所は王都の中心街。そこへ向かうと瓦礫の山が無惨に散らばっていた。キース様の作戦で、住民は避難をしていたはずだが、それにしても、これは……。
 あちこちで煙も上がり、火事が延焼する恐れもある。聖騎士団や騎士団の兵たちが消化活動に励んでいた。しかしアラン様が見当たらない。

「すまない。アランを知らないか?」

 一緒に来ていたクリス様が、消火活動をしている騎士に話しかけた。

「殿下! ご無事で! ……大きな魔物がやってきて、アラン様は一人立ち向かって行かれて……」

 騎士に尋ねると申し訳なさそうに答えてくれた。アラン様は一体どこに──。

「リディア様!」
「スチルの場所に行けばいいのかも!」
「!」

 そうだ。そろそろ夜が明けそうな空。東の空が少しずつ赤らんできた。
 この朝日が昇るその時が、あの神スチルの時だ。だとしたら!

「私、行かなくちゃ! リディア様も行きましょう!」
「で、でも……」

 王都の街が壊滅している今、被害を最小限に抑えようと頑張っている騎士達を置いて行けない。クリス様も同じ気持ちなのか、険しい表情だ。

「ゲームをしていた時から思っていたんです。ヒロインの力があったら、こうしたらいいのにって」
「?」

 唐突にそう言うステラに、クリス様と二人困惑していると、ステラがそっと胸の前で祈る。目を閉じて静かに集中したかと思うと、膨大な魔力を排出した。

『オールブライト!!』

 その瞬間、目の前が、その場が、街が、一瞬で光に溢れた。カッという光に思わず目を瞑る。風は吹いていない気がするのに、光の風が駆け抜けていくような感覚で、ステラを中心に光がザーッと広がっていった。
 
 眩しさが止み目を開けると、周りから歓声が上がった。

「おお!」
「これは!?」
「なんと、奇跡だ!」
「聖女様!」
「聖女様のお力か!?」

 瓦礫はさすがにそのままだったが、火事は全て消えていた。それどころか隙間から木々が生え、草も育ち、花が咲き始めていた。ステラはにっこりと笑う。

「あ、あなた」
「光魔法の使い方として、間違っていないでしょ?」
「ステラ嬢。礼を言う」
「さ、リディア様、行きましょう!」

 あんなに大規模な光魔法を使ったのにステラは私の手を引いて走り出す。なんて魔力量なの!
 魔王戦も終えたばかりだと言うのに。さすがヒロイン。

 アラン様がいるのは、おそらく王都から外れた丘の上。普段は花が咲き誇る観光スポットだ。ここで魔物と戦い怪我を負っている可能性が高い。ステラがそれを癒し、神スチルのシーンになるのだ。

「いた!」

 アラン様は丘の上で、木を支えにして座っている。気を失っているのか反応はない。

「わたくし達はここで見守っていますわ」

 クリス様と二人立ち止まって丘のふもとに残ると言うと、ステラは私に抱きついてきた。

「ふふっ! リディア様! 生き残って神スチル見れますね! シナリオに勝ちましたよ! ねっ! そうでしょ!?」
「ええ……ええ! そうね! わたくし、勝ったわ」

 ステラの無邪気な喜びように私も嬉しくなる。ああ、本当に私、生き残れたのだわ。横でクリス様が穏やかに笑っている。

「あなたが『リディア様』でよかった」
「わたくしも貴女が『ステラ』でよかったわ。これからもよろしくお願いしますわ」
「こちらこそ! では行ってきます!」

 ステラは丘を駆け上がる。
 アラン様が光り輝いたと思うと、目を覚ましたようで、ステラがアラン様に抱きつくのが見えた。ステラの光魔法で怪我を治癒したのだろう。

「なんだか覗き見しているようで、気まずいな」
「確かにそうですわね。でもあと少しだけ。朝日が登った時のあの子の幸せそうな姿を見たら、お城に戻りましょう」
「それが『神スチル』というものなのか?」
「素敵な姿絵のようなものですわ。生き残って二人のその姿を見るのが、わたくしの目標だったのです」

 ステラの光魔法のような眩しさを感じる。朝日が顔を出し始めた。光に包まれながら、二人は額を合わせて笑い合う。会話は聞こえないけれど、あの子のことだから、ゲーム通りの台詞なんかじゃないんでしょうね。
 眩しい幸せそうな二人。それはゲームのスチルなんかより、もっともっと心を満たす光景だった──。
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