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第二章『セカンド・イグニッション/金狼の少女』
Int.07:二人目の来訪者、巴里より愛を込めて②
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「して一真よ、そのエマ・アジャーニという者の印象は如何様であったのだ?」
「うーん」
朝のHRが終わり、一度西條が出て行った後。一限目の座学までの間に儲けられた僅かな隙間の中で、一真は先程逢った例のC組のクラス代表、エマ・アジャーニの件を後ろの瀬那と話していた。
「底が深そう、かな。ありゃ一癖も二癖もあるぜ、多分だけど」
「底が、深い……?」
首を傾げる瀬那に、一真は「要は、ステラと真逆だよ」と言ってやる。
「ステラの奴は良くも悪くも単純だけど、エマはそうじゃない」
「ちょっとカズマ、誰のどこが単純ですって?」
と、いつの間にか傍に寄ってきていたステラが険しい顔で話に首を突っ込んでくる。
「いや、お前かなり単純じゃん」
「どこがよ!」
「そういうとこ」
なんて具合に一真は適当にステラをあしらった後で、こんなことを小さく呟く。
「……ま、エマの出身はフランス。所属も欧州連合だ。無理もないかも知れないけどよ……」
「激戦区だもんね、欧州」
「うむ」ステラの言葉に、瀬那も頷く。「あの辺りは幻基巣とも近く、特に激しいと聞いたことがある」
――――エマの所属する欧州連合軍、即ちヨーロッパ諸国の統合軍のようなものなのだが、彼らが戦う相手は北アフリカに落着したG03幻基巣から湧き出てくる幻魔の大軍団だ。地中海を挟んでいるといえ欧州とは距離が近く、その攻勢も激しい。相手はアフリカ大陸のほぼ全土を手中に収めているといってもいい具合で、しかも1987年のG05サウジアラビア幻基巣の攻略成功まではアフリカとサウジ、二つの幻基巣から攻めてくる敵を同時に相手にしなければならなかった程だ。
故に欧州は四十年以上も続く幻魔大戦でも特に激戦区として知られており、しかもフランスといえば更に酷い戦いを経験した地域だ。モロッコからジブラルタル海峡を越えた幻魔の大軍団がスペインを越え攻め立てて来る為、その苛烈な攻勢にフランスは国土を何度も焼かれている。
酷い時では2004年・夏期の大攻勢に於いて、首都・パリの寸前まで敵の軍勢が迫って来たこともあったぐらいだ。その時は他の欧州連合加盟国の部隊や英国軍、米海軍大西洋艦隊の助太刀があったお陰で事なきを得たが……。
とにかく、エマの出身はそんな土地だ。であれば彼女が歳不相応に聡明というか、落ち着いて見えるのも無理ないことかも知れないと、此処に居る三人全員が共通認識として抱いていた。幼少の頃より幻魔の脅威を身近に感じながら生きていれば、早熟せざるを得なかったのかもしれない……。
「ま、湿っぽい話はやめにしましょ。どうせ憶測の域を出ないんだから、これ以上は不毛だわ」
「だな」一真が頷くと、「うむ」と腕組みをする瀬那も一緒になって頷く。
「それよりさ瀬那、今日はカズマのトレーニング、どっちがやるワケ?」
ステラが話題を一気に切り替えるように、そんなことを瀬那に向けて言った。瀬那も「ふむ」と言って腕組みをしたまま顎に手を当て、少し思案する。
――――ステラが銃のトレーニングを一真に付け始めて以降、瀬那が付けてくれる剣の稽古とはほぼ日替わりペースでどちらかの稽古を一真は受けていた。
一応、武闘大会が終わるまでの間は西條の暇が許す限りシミュレータで≪閃電≫の訓練を付けてくれるというので、必然的に稽古はその後になる。とすれば時間的制約もあり、瀬那かステラどちらかの稽古しか出来ないのだ。
故に瀬那が悩んでいる、というわけだ。土曜に試合があったせいでペースが有耶無耶になってしまった為、一度順番を仕切り直そうという話には二人の間でなっていたのだが……。
「なら、アタシが今日の分、先に貰ってもいい?」
なんて具合に瀬那が悩んでいると、じれったくなったのかステラがそんなことを言い始めた。
「ん? うーむ、まあ良いか。構わぬぞステラ、今日のところは其方に譲るとしよう」
すると瀬那も、意外なぐらいあっさりと了承してしまう。何かと突っかかり合う……まあそこまで酷かったり険悪なものではないのだが、とにかくそういうことの多い二人なだけに、ここまであっさり話が纏まってしまうと一真も拍子抜けだ。まあ一真の稽古に関しては色々抜きで二人真面目に話し合って色々決めているらしいから、当然と言えば当然なのだが。
「んじゃ、そういうことで。カズマ、今日はシミュレータ終わったらシューティング・レンジに集合ね。なんなら、アタシが迎えに行ってあげてもいいけど?」
ふふん、と鼻を鳴らしながら言うステラに、一真は苦笑いしながら「ははは……お手柔らかに」と困り気味の顔で言った。
「ほら、席に着け」
ともした頃に一限目の開始を告げる鐘が鳴れば、見計らったようにジャスト・タイミングで白衣を翻しながら入ってきた西條が何処か怠そうな声でそう告げる。
「それじゃ、カズマ! そういうことで、分かったわね!」
「はいはい、さっさと戻んな」
急いで席に戻りながら捨て台詞でも吐くみたいに言い捨てたステラに、その背中を見送る一真もまた、苦笑い気味な顔を浮かべながら言った。
「うーん」
朝のHRが終わり、一度西條が出て行った後。一限目の座学までの間に儲けられた僅かな隙間の中で、一真は先程逢った例のC組のクラス代表、エマ・アジャーニの件を後ろの瀬那と話していた。
「底が深そう、かな。ありゃ一癖も二癖もあるぜ、多分だけど」
「底が、深い……?」
首を傾げる瀬那に、一真は「要は、ステラと真逆だよ」と言ってやる。
「ステラの奴は良くも悪くも単純だけど、エマはそうじゃない」
「ちょっとカズマ、誰のどこが単純ですって?」
と、いつの間にか傍に寄ってきていたステラが険しい顔で話に首を突っ込んでくる。
「いや、お前かなり単純じゃん」
「どこがよ!」
「そういうとこ」
なんて具合に一真は適当にステラをあしらった後で、こんなことを小さく呟く。
「……ま、エマの出身はフランス。所属も欧州連合だ。無理もないかも知れないけどよ……」
「激戦区だもんね、欧州」
「うむ」ステラの言葉に、瀬那も頷く。「あの辺りは幻基巣とも近く、特に激しいと聞いたことがある」
――――エマの所属する欧州連合軍、即ちヨーロッパ諸国の統合軍のようなものなのだが、彼らが戦う相手は北アフリカに落着したG03幻基巣から湧き出てくる幻魔の大軍団だ。地中海を挟んでいるといえ欧州とは距離が近く、その攻勢も激しい。相手はアフリカ大陸のほぼ全土を手中に収めているといってもいい具合で、しかも1987年のG05サウジアラビア幻基巣の攻略成功まではアフリカとサウジ、二つの幻基巣から攻めてくる敵を同時に相手にしなければならなかった程だ。
故に欧州は四十年以上も続く幻魔大戦でも特に激戦区として知られており、しかもフランスといえば更に酷い戦いを経験した地域だ。モロッコからジブラルタル海峡を越えた幻魔の大軍団がスペインを越え攻め立てて来る為、その苛烈な攻勢にフランスは国土を何度も焼かれている。
酷い時では2004年・夏期の大攻勢に於いて、首都・パリの寸前まで敵の軍勢が迫って来たこともあったぐらいだ。その時は他の欧州連合加盟国の部隊や英国軍、米海軍大西洋艦隊の助太刀があったお陰で事なきを得たが……。
とにかく、エマの出身はそんな土地だ。であれば彼女が歳不相応に聡明というか、落ち着いて見えるのも無理ないことかも知れないと、此処に居る三人全員が共通認識として抱いていた。幼少の頃より幻魔の脅威を身近に感じながら生きていれば、早熟せざるを得なかったのかもしれない……。
「ま、湿っぽい話はやめにしましょ。どうせ憶測の域を出ないんだから、これ以上は不毛だわ」
「だな」一真が頷くと、「うむ」と腕組みをする瀬那も一緒になって頷く。
「それよりさ瀬那、今日はカズマのトレーニング、どっちがやるワケ?」
ステラが話題を一気に切り替えるように、そんなことを瀬那に向けて言った。瀬那も「ふむ」と言って腕組みをしたまま顎に手を当て、少し思案する。
――――ステラが銃のトレーニングを一真に付け始めて以降、瀬那が付けてくれる剣の稽古とはほぼ日替わりペースでどちらかの稽古を一真は受けていた。
一応、武闘大会が終わるまでの間は西條の暇が許す限りシミュレータで≪閃電≫の訓練を付けてくれるというので、必然的に稽古はその後になる。とすれば時間的制約もあり、瀬那かステラどちらかの稽古しか出来ないのだ。
故に瀬那が悩んでいる、というわけだ。土曜に試合があったせいでペースが有耶無耶になってしまった為、一度順番を仕切り直そうという話には二人の間でなっていたのだが……。
「なら、アタシが今日の分、先に貰ってもいい?」
なんて具合に瀬那が悩んでいると、じれったくなったのかステラがそんなことを言い始めた。
「ん? うーむ、まあ良いか。構わぬぞステラ、今日のところは其方に譲るとしよう」
すると瀬那も、意外なぐらいあっさりと了承してしまう。何かと突っかかり合う……まあそこまで酷かったり険悪なものではないのだが、とにかくそういうことの多い二人なだけに、ここまであっさり話が纏まってしまうと一真も拍子抜けだ。まあ一真の稽古に関しては色々抜きで二人真面目に話し合って色々決めているらしいから、当然と言えば当然なのだが。
「んじゃ、そういうことで。カズマ、今日はシミュレータ終わったらシューティング・レンジに集合ね。なんなら、アタシが迎えに行ってあげてもいいけど?」
ふふん、と鼻を鳴らしながら言うステラに、一真は苦笑いしながら「ははは……お手柔らかに」と困り気味の顔で言った。
「ほら、席に着け」
ともした頃に一限目の開始を告げる鐘が鳴れば、見計らったようにジャスト・タイミングで白衣を翻しながら入ってきた西條が何処か怠そうな声でそう告げる。
「それじゃ、カズマ! そういうことで、分かったわね!」
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