瓦解する甘い盾

流音あい

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六度目の接触、やり直し

17、仲直り

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「じゃあ、それできよみちゃんは怒ってたの?」
「怒ってたって言うか……まあ、そうですね」

 二人はソファに隣り合って座っていた。

「先輩はいつも自分の都合で勝手に来るし」
「だってきよみちゃん、連絡しても返事くれないんだもん」

 最初は彼に翻弄されるのが癪で、その後は彼の身勝手さにムカついて無視をした。

「だから行ってみるしかないじゃん? それで行ってみたら、ちゃんと受け入れてくれるしさ。だからやっぱ強引に行くしかないなって」

 少し間をおいて、彼は続けた。

「でも生理のときって、本当に女の子は気難しくなるんだね」
「それ生理のせいだけじゃないですからね」
「まあ、女の子は複雑だよね」
「そうじゃなくて……もう」

 なんだか疲れてしまったので、それ以上説明するのを止めた。

「とにかく、女がみんな同じじゃないってことは、知っておいてくださいね。っていうかそうじゃなくても、生理だからってあっさり帰られたら、誰だって目的は身体だけだって思いますよ」
「最初から俺は、きよみちゃんのこと好きだって言ってるじゃん。それできよみちゃんが家に上げてくれて脈ありかと思ったら音信不通でさ。勇気出して家に行ったら身体委ねてくれるし。これは普通に告白するより身体から落とすしかないって思うじゃん」
「普通に告白でいいじゃないですか」
「してるよ。好きだって言ってるのに相手にしてくれないじゃん、きよみちゃん」
「冗談ぽく言うからでしょ」
「俺と付き合って、きよみちゃん」

 真面目らしい表情を向けられ、きよみは沈黙した。

「なんで黙るの。セフレがいいとか言われたら、さすがに落ち込むんだけど」
「セフレは嫌ですけど」
「じゃあ付き合ってよ」

 再び真面目な眼差しを向けられて、きよみも再び沈黙する。

「だからなんで黙るの」

 何故だろう。きよみは今の彼との関係性を考えてみる。出来事だけを振り返ると、セフレ以外の何ものでもない気がした。

 きよみは恋人以外にそういう相手を持つことは嫌だった。恋人がいない者同士が一晩の関係を持つのは許容できるが、関係を続けるなら恋人に発展するのが普通だった。彼ともそうなりかけたところで裏切りの誤解が生まれ、流れが狂ってしまった。

「俺と身体の相性はいいんでしょ。きよみちゃんもそう言ったよね?」
「言ったっけ」
「言った。顔が言ってた。身体も。だから付き合って」
 沈黙。
「だからなんで頷いてくれないの!」

 嘆く相手に、ふと過る。先輩はこんなに子供っぽい人だっただろうか。いつもどことなく色香を漂わせていたイメージだったが、今の彼はずいぶんと幼く見える。

「そんなに頑なに拒むなら、もう強硬手段に出ちゃうよ?」

 拗ねたような表情で、彼が唇を合わせてくる。それは官能を呼び起こすものではなく、ご機嫌伺いのような、くすぐったいものだった。

 ちゅ、ちゅ、と唇を重ねるだけの優しい口づけ。きよみもそれに応えていると、不意に顔をのぞき込んでくる。

「付き合ってくれる?」

 静かな時間が流れ、彼は喚いた。

「だから何で黙っちゃうんだよー! きよみちゃんがそういうつもりなら、俺もうきよみちゃんのこと襲ってあげないよ」

 予想外のセリフに、ふふ、と口許が緩んでしまった。

「なんですかそれ」
「だってきよみちゃん、俺の身体が目当てなんでしょ。だったら付き合ってくれなきゃもう襲ってあげない。最初はそれでもいいかと思ったけど、やっぱそんなの寂しいし」

 もしかして、こちらが彼の本性なのだろうか。ふてくされたように口をとがらせる相手に、なんだか微笑ましい気持ちになってくる。

「きよみちゃん、ホントは彼氏いたりする?」
「いませんよ」

 疑うような目を向けられる。今までと立場が逆転したようだ。

「この前の女王様みたいなプレイは、よくやってるの?」
「女王様って。ちょっとリードしただけでしょ」
「そうだけど……」
「嫌だった?」
「別に嫌なわけじゃ……。でもあの時は、なんかちょっと怒ってるっぽかったから」
「怒ってましたよ。私をセフレ扱いする先輩に」
「それはきよみちゃんだってば」
「人の家で待ち伏せして、強引に上がり込んで、好き勝手私の身体を撫でまわしたのは先輩なのに?」

 う、と彼は言葉を詰まらせる。

「でもきよみちゃんも乗り気だったじゃん」
「それは認めます」

 気まずそうに身を縮める彼に、笑いが込み上げる。

「気持ち良かったですよ。先輩とするの」

 甘えるように言うと、相手の頬が緩んだ。慌てて引き締め直していたが。

「でも一方的な気がして嫌だったんですよね。だから仕返しのつもりだったんです。勝手に自分の都合で家に来て、好き勝手気持ち良くなる先輩に」

 言いながら、きよみ自身も己の本音に気付いた。落ち着いて話してみると、ぽろぽろと怒りの正体がこぼれてくる。

「また会いたいかなーとか思い始めてた時に、次の約束もしないで先輩がすぐ帰っちゃったから。軽んじられた気がしたんです。で、やっぱりまた来るし。だったらこっちもやってやるってなったわけです」

 話してみると至極単純なことで、滑稽にさえ思えた。相手は暫し黙り込む。

「……じゃあ、それって俺のこと好きってこと?」

 反応しない彼女に、彼は眉を寄せた。

「また会いたいって思ってくれたんでしょ。なら好きってことでしょ。なのになんで電話もメールも無視するの」

 最初のことを思い出してみる。気まぐれなはずの彼との行為があまりに良くて、翻弄される自分に戸惑った。対等な関係になる前に、上下関係が出来てしまいそうなのが怖かった。
 戸惑いは不安を呼び、焦って苛立ちに身を隠した。恐怖に育ったそれは逃げる時間を与えてくれたが、向き合わなければ消えはしない。
 彼と距離を取ったのは、振り回されない自分になるための時間が必要だったからだ。

 子供のように拗ねた表情で睨んでくる彼に、きよみは優しく口づけた。

「ごめんね。ちょっといろいろ初めてだったから、よくわからなくなっちゃって。でも私も先輩のことは好き」
「ホント? じゃあ付き合ってくれる?」
「……そうですね」

 きよみが肯定すると、彼は少年のような無邪気な笑みを浮かべた。正面から抱きしめられて、胸に温かいものがこみ上げる。彼にこんな爽やかな抱擁ができるとは思わなかった。

 身体を離した彼に、遊ぶように唇を食まれて、くすくすと笑ってしまう。
 陽気で心地良い時間が流れる中、不意に舌が触れ合えば、身体が熱を帯びてくる。戯れに情熱が混ざり始め、きよみはソファに倒された。
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