安全第一異世界生活

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妖精との出会い

227話 女装イル君奮闘記②(前半カミラ視点・後半イル視点)

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真っ黒な闇の中…ここはどこ…?
―――真っ暗は、こわいよ…
おねーちゃん…

ミー、いっぱい走ったの。
こわい人にたたかれて、痛くて…もう動けないの…
おなか、きゅうってして…足も痛くて立てないの…

泣いても、呼んでも、誰も来ない。
―――おねーちゃんも来ない。

一人はいや…一人はこわいよ…

そう思って、もう消えちゃうんじゃないかって思った時。
ふわっと、あたたかいものに包まれた。

振り向くと、長い赤い髪が揺れて、
ミーの大好きなおねーちゃんが笑っていた。

『ふふ、ミラはほんとうに甘えん坊さん』

その手はあたたかくて、握られるだけで涙が出そうだった。
けれど歩くほどに、温かさが少しずつ冷えていく。

『おねーちゃん、そっちはだめ…そこ、こわい人が…』

ミーは泣いて足を止めた。
おねーちゃんの表情がすっと消える。

―――その顔、知ってる。いやだ。いや――

「いや!!いやぁ!!!おねーちゃん!!」

叫んで飛び起きた。
涙が流れ息が苦しい。ハァハァと肩で息をしていると、横から優しく穏やかな声が聞こえてきた

「大丈夫カミラちゃん?怖い夢でも見たの」

ミーはおそるおそる声の方向に顔を向けた…そして目に入ったのは
赤い長い髪のお姉ちゃんだった。
少し垂れ目でまつ毛の長い綺麗な顔立ち…ミーの知ってるおねーちゃん…と同じ赤い髪…
お姉ちゃんは綺麗な紺色に白い襟のワンピースに身を包んで、ミーが寝ているベッドの横に椅子を置いて座っていた。
その赤髪のお姉ちゃんは優しくミーの頭を撫でて、水の入ったコップを差し出してくれた。

「むせちゃうからゆっくり飲むんだよ」

穏やかな口ぶりに、優しい笑顔。差し出されたコップを受け取り茫然としてしまう…
この人は…誰?
この人はミーのおねーちゃんじゃない…はずなのに。
そう思いながらも、のどの渇きに負けてコップを口につけて飲みだすと、背中を優しくさすられた

「そう、ゆっくりだよ。良い子だねカミラちゃん」

水を飲み終わると、

「むせずに飲めたね。えらい、えらい」

そう言って、今度は頭を撫でてくれた。お姉ちゃんの手は少し硬い手――
その硬い手がミーの頭を優しく撫でてくれる
ミーはお姉ちゃんのお顔をじっと見た…
あたたかい手
あたたかい言葉
あたたかい――――
ミーの目から涙があふれてあふれて…止まらなくなった。
赤髪のお姉ちゃんはおずおずとミーを抱きしめてくれた。

「頑張った。カミラちゃんは、がんばったね」

そう言って泣いているミーを抱きしめたまま頭を撫でてくれた。
あたたかい―――。
ふいにミーの頭が濡れたことに気づいてミーはお姉ちゃんの顔を見た。

お姉ちゃんの大きな目からぽろぽろと涙が溢れていた。

ミーはそれを見た瞬間、胸が苦しくなって、我慢できなくて―――
この人はお姉ちゃんであって、ミーのおねーちゃんじゃないって思ってたのに―――
目の形も、声も、きっと違うはずなのに——赤い髪だけが、どうしようもなくおねーちゃんを思い出させ、我慢していた声がこぼれた…

「おねーちゃんどこに行っていたの?ミー寂しかったの。ミー怖かったの、ミー一人は嫌だったの!!」

ミーの小さな手は震えながら、その赤い髪のお姉ちゃんの服をぎゅっと掴んだ。
ミーは目の前のおねーちゃんに必死に縋りついて泣いた。声を出して泣いた。
おねーちゃんは縋りつくミーを抱きしめて泣いていた。

***
(イル視点)

部屋には、少女のかすかな寝息だけが響いていた。

僕の膝の上には目を赤くはらした少女が居た。泣きつかれて寝てしまった小さな小さな少女。
パサつく赤い少女の髪を優しくなでる僕を見て目の前に腕組して立っているレドは呆れている。。

「俺にはお前がしていることの意味が全く分からねぇ」

半眼で僕を見る彼の言葉は冷ややかだ…
まぁそれもそうだろう。今の僕は女の人の格好をしているんだから。

***

寝ているカミラちゃんが”おねーちゃん”を求めていると気づいた僕は、お婆様に協力してもらい、ウィッグやワンピース、化粧までしてもらって女性に見えるようにしてもらった。

「ミハイルはしばらく、イルミちゃんで行きましょう。こう見るとラミラにそっくりね」

お婆様も侍女も、幼い頃のお母さまを思い出したのか、少し涙ぐみながら、楽しそうにしてくれていた。 ある意味、祖父母孝行にもなるかな―――なんて思っていたけど

この姿の僕を見たレドは目を剥いて怒っていた。

「お前がそこまでする必要があの子供にあるのかよ!仮にもお前は次期当主なんだぞ!」

レドの言わんとすることはよく分かる。
ここは貴族社会だ。
変な噂は家門の傷となり、誇りを汚す行為――公爵家出身のレドにとっては、常識そのものだ。
けれど僕にとっては、目の前で泣いていた小さな命の方が、ずっと重かった。
たとえ貴族失格と言われても、どうしても目を背けられなかった。

「心配してくれてありがとう。でもね、レド……」

そこで少し言葉を飲み込む。胸の奥がじんと痛む。

「彼女は……カナやトーさんに会う前の僕なんだ。
誰にも助けてもらえず、暗い場所で震えていた頃の僕。
だから見捨てられない。どうしても、放っておけないんだ……ごめん」

レドは拳を握りしめた。
怒りではない。悔しさとも違う、複雑な色がその横顔にはあった。

「……っ、そういう言い方をされると……俺だって……」

言葉の続きは出てこなかった。
けれどレドの肩の揺れ方で、彼が必死に感情を抑えているのが分かった。
その沈黙を断ち切るように、お爺様が静かに歩み寄り、レドの肩に手を置いた。

「グレート君。少し、この老いぼれと話をしようか。
……ミハイルの性分は、母親のラミラにそっくりだ。言い出したら利かない頑固者なんだよ」

その声音は柔らかく、レドの気持ちを責めるものではなかった。
レドはぎゅっと唇をかみ、俯いたまま部屋を出ていった。
扉が閉まる間際、レドの小さな声が聞こえた。

「……頼むから、無茶だけはするなよ」

レドのその気持ちが、胸の奥にじんと染みた。
本当は嬉しくてたまらなかった。
――だけど。
自分の気持ちを偽ることはできない僕は、困ったように笑うことしかできなかった。
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