狂わせたのは君なのに

一寸光陰

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「たった今、王太子殿下はディスティール子息に婚約破棄を命じられました。これは揺るぎないものだと思います。」

皆んながランが何を言うのだろうかとそわそわした表情で見つめる。

「僕は…」

ランが大きく息を吸った。

「そこで僕は、ガベラ・ディスティール様に婚約を申し込みたい。」


「「はぁ~??」」

俺と王太子の声がかぶる。

「なっ、何を言っているんだ、ラン!」

王太子が慌てふためく。

「言葉通りです。僕はずっとガベラ様のことをお慕い申し上げておりました。しかし、ガベラ様は殿下の婚約者。この気持ちに蓋をしようと決めておりました。
ですが、今、お2人の婚約は解消された。僕にも機会が恵まれたのです。
ガベラ様、どうか僕と結婚してくれませんか?」

俺は頭が真っ白で何も考えられない。

「ラン!君はガベラにいじめられているんじゃなかったのか!?」

「虐められていると申し上げたことは一度もなかったはずです。ガベラ様には僕が頼んでマナーなどの指導をしていただいておりました。
皆様ご存知の通り、私は1年前まで市井で過ごしておりました。教養が足りていませんでした。そこをガベラ様は気を遣ってくださり、助けてくださったのです」

「そ、そんな…。
ガベラのことを相談した時、君は婚約破棄すればいいと言ったじゃないか!そしたら僕が代わりに婚約者になるからって…!」

「はい。申し上げました。私が伝えたかったのは、婚約破棄したら、殿下の代わりに僕がガベラ様の婚約者になるということです」


状況が飲み込めず、ポカーンとする俺をよそに隣で兄は笑っている。

「どえらい奴に好かれたね、ガベラ。彼から逃げるのは至難の業だろう。
婚約を結びなさい。王太子に破棄されては次の婚約者を見つけるのに苦労する。それに彼は公爵家の跡取りじゃないか。
ガベラには選択肢が残されてないみたいだね」

「ガベラ、愛してる。一目惚れなんだ。
僕と結婚してくれないか」

俺は頷くしかなかった。


それからトントン拍子で婚約は進んでいった。あまりの用意周到ぶりに一体いつから計画していたのかもわからなかった。

「孤児院ではいつも物が不足していた。ご飯もお菓子もおもちゃも。本当に手に入れたいものは何としてでも手に入れないといけないって教わったんだ。
こんな僕に呆れた?」

俺は首を横に振った。

「まだ夢の中にいるような気がして…。俺てっきり国外追放されるのだとばかり思ってたから」

「国外追放?ガベラが?何も悪いことしてないのに」

ランはくすくすと笑った。悪魔の尻尾と羽が見えるのは見間違いだろうか。

「でも、もしそうなったとしたら追いかけるだけだね。もっと南のあったかい所で2人でゆっくり過ごすのもいい」

「ランが言うと本気か冗談か分からないから怖いよ」

「早く学園を卒業したいな。そしたら結婚できる」


半年後の卒業式のあと、俺たちは結婚式を挙げる予定だ。

もう結婚式の段取りは大方できていると言われた時は絶句した。

怖くて聞けないが、王太子と仲違いするように仕向けたのもランなのではないかと思っている。

全ては俺を手に入れるため。

そう思うと何だか嬉しくなってしまう俺も狂っているのだろうか。


「結婚式が待ち遠しいよ。早くランと結婚したい」

「ガベラ…!!」

うさぎのようなランが途端にライオンのように見える。

「うわっ!ちょっと、ちょっと待って!」

「ごめんね、待てない。寝るには少し早い時間だけど、ベッドに行こっか」

「俺たちまだ結婚もしてないのに!」

「でも婚約はしてるじゃないか」

ランは俺をお姫様抱っこして階段を駆け上る。


周りの侍女たちは止める気配がない。

「明日の予定は?」

「特にございません。」

「じゃあゆっくりできるね」

ランが不敵に笑った。その色気に頬がかあっと熱くなる。

「どうして、こんなことに…」

俺がそう呟くとランはフッと笑った。

「どうして?本当にわからないの?」

ランは優しく俺のほおを撫でた。

「僕を狂わせたのは君なのに。」
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