狂わせたのは君なのに

一寸光陰

文字の大きさ
11 / 12

番外編2

しおりを挟む
【独白】


一目見ただけでガベラだと気づいた。美しい黒髪に黒曜石のような瞳。あの頃の面影の残る顔。
俺のことは一切覚えてなかったが、それでも良かった。こうして対等な立場で接することができるだけでも幸せだった。


「ガベラはロージー様の婚約者なんだよね?デートとかするの?」

「デート?」

「デートだよ!恋人同士で出かけて一緒に過ごすの。平民の間では普通なんだけど、貴族社会にはないの?」

「んー…。月に1度一緒にお茶を飲むくらいかな。その時に色んな話をするよ」

「どんな?」

「勉強の話とか?」

「えっ!もっと恋人っぽい会話した方がいいんじゃない?」

「でも俺たちは恋人っていうよりは婚約者だしな…」


俺にもチャンスがあるのかもしれない。
そんなことを考え出したら、止められなくなった。

ダメだと分かっていながらも、ガベラを手に入れるため、計画を練り出した。


第一段階では、まず王太子と仲良くならなくてはならなかった。しかし、これは最も簡単だった。

「ラン、困ってることはない?」

「ラン、学校を案内しようか?」

王太子は積極的に俺に話しかけてきた。


「気にかけてくださるのは嬉しいのですが、ロージー様はガベラ様の婚約者なのであまり親しくしない方が…」

「誰がそんなこと言ったんだい?私はこの学校の生徒会長を務めている。新入生を気にかけるのは当たり前のことじゃないか」

王太子は微笑んだ。

普通ならばここで恋に落ちる人もいるのだろうが、俺にはガベラがいた。ガベラを不安にさせるようなことはするな、と言ってやりたかったが、王太子のこの優しすぎる性格を利用しようと思った。


少し頼るとすぐに喜ぶ。少し褒めるとすぐ照れる。
こんなにチョロくては不安なほど、王太子は俺に好意的になった。

大変だったのは、ガベラに嫌われないで王太子に好かれることだった。
あまりにも王太子にベタベタしてはガベラに嫌われる。ガベラのことを悪く言って王太子と仲良くなってもガベラに嫌われるだろう。それでは意味がない。

ガベラにいじめられていると明言せずに匂わす。

王太子の前では健気に振る舞って、ガベラの前ではさりげなく王太子の悪いイメージを刷り込ませる。

そんな日々が続いていたが、なかなかうまく発展しない。

そんな時に、ガベラから王太子を俺に渡してもいいと言われた。
俺の幸せのためならなんでも出来るんだって。
ガベラの言葉を噛み締めつつ、俺は今まで以上に王太子に愛想を振り撒いた。


「ちょっとお時間よろしいですか?」

ネモが突然話しかけてきた。コイツは結構頭のいい奴だ。あの筋肉バカのチューリッヒみたいに上手く利用できる自信がない。だからネモとは少し距離を置いていた。

「話って何かな、ネモくん」

「何が望みですか」

「ん?何のこと?」

「もしかして反逆しようとしているんじゃないですよね」

予想を上回る質問に俺は思わず笑ってしまった。

「あはははっ!僕は王位に興味なんてないよ。もちろん、王妃の座にもね」

「正直にいうと、初めはあなたの事みくびっていました。ガベラ様に虐められているのだとばかり思っていました。でもそうであるには不審な点が多すぎる」

俺はキョトンとした顔をして見せた。

ネモはギリっと歯を食いしばった。

「貴方の望みは何ですか」

俺は少し考えた。
ネモを敵にはしたくない。でも味方になってくれそうにもない。
ネモがどれほどまでに王太子に忠誠を誓っているのか分からなかった。


「僕の望みはガベラだよ」

そう答えるとネモは大きく目を見開いた。

「ガベラ様ですか…?」

「初恋の人なんだ。
ガベラが幸せならそれでいいと思ってたけど、様子を見ていて僕の方が幸せにできると思ってね。
ガベラを王太子から奪うつもりだ」

俺が言い切るとネモは小さく笑った。

「意外に男らしい人のようだ」

「そうじゃなきゃ市井では生きていけないよ」

「分かりました。今の話には目を瞑ります。
私は私に被害が被らなければそれでいいんです。
殿下もこれをきっかけに成長なさるでしょう。殿下は優しく正義感に溢れているが、すこし王として足りないところがある」

「良かった。君が味方になってくれて」

「味方になるとは言ってませんよ。でも止めようとしたところで、貴方に惚れこんでいる殿下を止めることはできないのは見えてますし」

「結婚式に招待するね」

ネモはまた小さく笑った。







しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。

尊敬している先輩が王子のことを口説いていた話

天使の輪っか
BL
新米騎士として王宮に勤めるリクの教育係、レオ。 レオは若くして団長候補にもなっている有力団員である。 ある日、リクが王宮内を巡回していると、レオが第三王子であるハヤトを口説いているところに遭遇してしまった。 リクはこの事を墓まで持っていくことにしたのだが......?

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! シレッとBL大賞に応募していました!良ければ投票よろしくおねがいします!

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

何故か男の僕が王子の閨係に選ばれました

まんまる
BL
貧乏男爵家の次男カナルは、ある日父親から呼ばれ、王太子の閨係に選ばれたと言われる。 どうして男の自分が?と戸惑いながらも、覚悟を決めて殿下の元へいく。 しかし、殿下は自分に触れることはなく、何か思いがあるようだった。 優しい二人の恋のお話です。

婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした

Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話 :注意: 作者は素人です 傍観者視点の話 人(?)×人 安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)

処理中です...