偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜

一寸光陰

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僕の運命の番

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コツコツと重厚な音を立てて、彼は壇上にあがった。

どこからか爽やかな風が吹いて、彼の髪を靡かせた。
ここにいる全ての人が、彼に見惚れているに違いない。

「春の息吹が感じられる今日、私たちは風宮かぜのみや高校に入学致します。本日は…」

彼の優しく美しい声が、体育館に響き渡る。

僕の胸はドキドキと高鳴って、張り裂けそうだ。

血も肉も、体全身が彼に出会えた喜びで湧き上がり、気を抜くと泣いてしまいそうだ。

彼が。
楠涼夜くんが。
僕の、運命の番。

彼の美しい瞳が僕を見てくれないだろうか。
きっと彼も僕を見てくれたらすぐに運命の番だと気づいてくれるはず。
遠く離れたここからでも、彼の芳しい香りが漂ってきているのだから、彼にとっても僕の匂いが感じられているに違いない。

そんな願いが通じたのか、彼は僕の方を見た。

ほんの僅かな時間だった。
それでも僕はあまりの嬉しさに卒倒しそうだった。

しかし、彼はまるで何事もなかったかのようにふいっと目を逸らしてしまった。

もっと見つめ合っていたかった。
願わくば、彼に抱きしめられたい。
彼に愛していると囁かれたい。

しばらくぽうっと彼を眺めていた。

幸いなことに彼と僕は同じクラスだった。

もしかして、隣の席だったりして。
運命の番だってお互いにすぐ気がついて、仲良くなって、ゆくゆくは恋人にーー。

期待とは反して、僕の隣は違う地味な男子生徒だった。
内心、がっくりと肩を落とす。

彼に話しかけたい、でも恥ずかしい。

躊躇しているうちに彼はいつの間にか帰ってしまっていた。

僕たちは運命の番だから相手も気がついているはずなのに。

次の日、

今日こそは話しかけてみせる!

僕はそんな闘志を燃やして彼を見つめていた。


「そんなに見つめちゃって、一目惚れ?」

突然話しかけてきたのは隣の席の男の子だった。

「あ、ごめんね。急に話しかけちゃって。
俺、高崎聡一郎。そうちゃんって呼んで」

そう言うと高崎聡一郎はニコッと笑った。

「あ、僕は、白浜しらはま雪都です。」

「雪都くんね!よろしく!」
「こちらこそ、よろしく」

「話戻っちゃうけど、一目惚れならやめた方がいーよ」
「えっ?」
「楠涼夜のこと熱心に見つめてたでしょ?」
「あ、うん。分かりやすかったかな。でも、やめた方がいいってどういうこと?」

「楠涼夜って俺の中学じゃ結構有名人だったんだよねー。あ、楠涼夜は他校のやつだったんだけど、俺の中学にもアイツのファンクラブがあったの」
「ファンクラブ…!すごい!」
「多分、アイツのとこの近隣中学には全部ファンクラブあったんじゃないかなぁ」
「人気者だから、やめた方がいいってこと?」

それなら心配する必要などない。
なんたって彼と自分は運命の番なのだから。

「いや、そういう理由じゃない。
楠涼夜には運命の番がいるんだ」

胸がどきりと鳴る。
自分のことではないか。
いや、でも、会ったのは昨日が初めてのはずだが…?

「よく知らねぇけど、ファンクラブの奴らがいうには、幼馴染の男が運命の番らしい」
「えっ!?」

僕は思わず大きな声をあげる。
クラスの何人かの生徒がこちらを見てきて、とても恥ずかしい。
楠くんにはこんな失態、見られてないだろうか。

「ソイツの名前は…えっと、何だったっけな。
ソイツも楠涼夜の運命の番ってことでまあまあ有名人だったんだけど、俺、興味ないから忘れちゃった。
あと、なんか変な噂あったんだよな…。
運命の番はベータとか…。そんなことあるわけないのにな!
とりあえず!楠涼夜には運命の番がいるから恋なんてしない方がいーよ」

「いや、でも、僕…」

「あっ、もしかして、楠涼夜と友達になりたい感じ?じゃあ話しかけようぜ。俺も一回話してみたいと思ってたんだよねー」

躊躇う僕を気にせず、高崎聡一郎はグングンと彼に向かって歩みを進める。
僕も慌てて彼の元へ向かう。


「初めまして!俺、高崎聡一郎。友達になって!」

すると、彼の隣にいた男子生徒が笑った。

「あははっ!こんな真正面に突っ込んでくるやつ初めてだ。涼夜は相変わらずモテるな。
俺、中町幹斗。よろしくな」

そして、彼が口を開く。

「俺は楠涼夜。よろしくね」

また、ドクンと胸がなる。

「おい!雪都も自己紹介しろよ!」
「あっ、え、うん。えっと、僕は白浜雪都って言います。よろしくね」

彼と接近して心臓の鼓動が速くなる。

ドキドキとしている音が彼に聞こえていないか不安だ。

「2人は友達なの?」

中町くんが問いかける。
中町くんは彼の友達としては少し不釣り合いな、地味な男の子だった。背もそんなに高くないし、顔も不細工というわけではないが、印象が薄い。
きっとベータだろう。

「いや!さっき初めて喋った!」
「マジかよ。高崎くんってコミュ力高いな!」
「あっ、俺のことは気軽にそうちゃんって呼んで!」

中町くんはまた楽しそうに笑う。

「初日からぶっ込みすぎだろ!面白いな、そうちゃんは!」

「そういうお2人こそ、友達?」
「俺らは友達っていうか、幼馴染って言った方がしっくりくるかな。友達よりも家族みたいな感じだし!」

そう笑う中町くんがとても羨ましい。
彼と幼馴染なんて。
僕が幼馴染だったらよかったのに。

「じゃあ、涼夜のモテエピソードとかも知ってたり?」
「もちろん!」
「聞かせて聞かせて!」
「俺のそんなエピソードあるのかな」
「あるでしょ!だって俺の中学にもあったよ、涼夜のファンクラブ!」
「ええ!そうちゃんの学校にも?すげぇな、涼夜」

彼の顔に見惚れているといつの間にか会話から外れてしまっていた。
慌てて会話に追いつこうと話を聞く。

「涼夜さ、チョコレートも毎年いっぱいもらってて」
「うわー、いいな。男のロマンじゃん」

あぁ、僕も同じ中学だったら彼にチョコレートを渡せたのかな。

「段ボール二箱分くらい貰ってんの。食べきれない分は俺が食べてた」
「うわっ!最悪じゃん!」
「申し訳ないとは思ってるんだけど、あまりにも多すぎてね。それに幹斗甘いもの好きだし。幹斗の甘いもの食べてる時の顔、可愛くて」

彼は中町くんに微笑みかける。

彼の中町くんを見つめる瞳で悟ってしまう。

中町幹斗が彼の愛する人なのだと。


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