病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)

文字の大きさ
29 / 68

同化型①

しおりを挟む
『一緒になろうよ。あたしの体の中で、一緒に生きよ? いっぺん残らず食べさせて。キミの味、全部教えて』

「なんでお前のゲームの女ってすぐ殺そうとしてくるの?」

「みんながみんなそうじゃないから、誤解すんのやめて」

 誤解にも程がある。暴力性や他害をしてしまうのは全員というわけではない。このキャラは食べることが大好きなため、想いを寄せる主人公と共になりたい欲求が膨らみ、結果として──まあ、包丁を片手に握って迫ることにはなっている、けれど。

「その、ゲーム……好き、なんだね。この前もやってたし……」

 興味ありげに言葉を繋ぐ。以前も画面を見てくれていたし、上手くいけば文月くんをこちらの沼に引きずり込めるのではないか。
 オタクのカンが働いて、文月くんへ前のめりになって口を開く。前髪の隙間から僅かに見開いた瞳が覗いた。

「そう! 文月くんも良ければ──」

「やんなくていーよ。人選ぶもん押し付けんな」

 ぐいと後ろへ引き戻される。別に押し付けようとはしていない。ちょっと勧めるだけなのに。文月くんもやってみればハマるかもしれないのに。

 それにしても──昨日は散々な目にあった。宣戦布告の後、アプローチをしかけてくる参宮くんになんとか耐えたのだ。その様を見て、翔は「やっぱ上手くいかなかったんじゃねーか! ついて行った方がよかっただろ!」と顔を顰め、文月くんも苦い顔をしていた。ふたりにも申し訳ないことをした。

「また参宮がなんかヤバそうだったら、今度こそ止めに入っからすぐ言えよ」

「おれも、頑張るから……」

「……ありがとう。しばらくは大丈夫、だと思うけど……そのときはお願いね」

 しばらく──卒業までの間は、恐らくあんなふうに迫られることはないだろう。ないはずだ。……そう信じたい。
 そうこうしているうちに、予鈴が鳴って。俺たちは手を振って別れ、一限の準備を始めるのだった。

 一限の国語の時間。今日は音読は無いから、本当に座って授業を聞くだけだ。始まったばかりなのにあくびが出そうになってしまう。テストに出るのだからきちんと聞かなくては。あくびを噛み殺し、手を抓って眠気に耐える。

 ぐう、と大きな音。誰かのお腹が鳴ってしまったらしい。沈黙が落ちた教室の中、真ん中でひとりの生徒──四方田隼人よもだはやとくんがひらりと手を挙げた。

「せんせーすいませーん、オレ鳴っちゃいましたー!」

「お前この前も鳴ってたろ! 授業じゃなくて飯のこと考えてんじゃないのか?」

「え、なんでわかったんすか!?」

 笑いが起きる。先生もあっけらかんとしたその言葉に笑いを堪えきれないようだった。俺もつられて笑ってしまう。明るい髪が特徴的な彼は、快活なその見た目に違わず元気な生徒で。クラスのムードメーカー的な役割を果たしてくれている。

 何度か俺も話したことがあるが、どんな話をしても盛り上げてくれる、話し上手のうえに聞き上手。コミュニケーション能力の塊のような子だ。

 そうだ。チョコを持ってきていたはずだから、彼にひとつあげようかな。まだ授業は始まったばかりだがお腹が空いているようだし。何も食べずに一日を過ごすのはしんどいだろう。いつの間にか眠気も飛んでいた。彼のおかげでもあるから、それのお礼──というのはおかしいかもしれないが、ともかく後で渡しに行こう。
 授業の終わりが、なんだかいつもよりずっと待ち遠しかった。

 ***

 そうして。

 授業も終わり、号令が済んだ後。休み時間、小粒の包装されたチョコレートをいくつか持って彼のもとへ向かった。

「四方田くん」

「ん、田山くんじゃん。なんかあった?」

「チョコ食べないかな、と思って。お腹空いてそうだったから」

 手のひらに乗せて言えば、それを見た彼の目は輝いていった。なんだか幼いこどものようで笑ってしまう。

「え、マジ、いいの!? ありがとー! 田山くん神すぎ!!」

 チョコレートを受け取って、明るく破顔する。八重歯が覗いた。あまりにも喜んでくれるものだから、俺もつられて微笑んだ。

「腹減るよねー、この時間」

「ガチそれ。朝練もあっからよけー腹減るんだよねー、キツいわ」

「あ、部活やってるんだっけ」

 彼の部活は朝練があるのか。サッカー部に所属している翔はそんな様子が見えないから、なんとなく珍しい。同じサッカー部、ではないのだろう。きっと。

「そ! バスケ部! 何気ちゃんとやってっから、今度見に来る? オレ自分で言うのアレだけどかっこいいよ?」

「あはは! うん、じゃあそのうち見に行こうかな」

「……四方田、くん。これも、食べる……?」

 後ろからぬっと出てきた文月くんの手には、小さなお饅頭があった。四方田くんはより喜色を顔に表した。

「文月くんじゃん、いいの!?」

「うん。おれの家、和菓子屋だから、売り物にならないのとか持ってきて食べたりする……」

 俺もたまにおこぼれにあずかることがある。お饅頭も、薄皮の中のこしあんがなんとも上品な甘さで、くせになる逸品。ほかのお饅頭が食べられなくなってしまいそうな程だ。

「マジありがとー……昼まで鳴らないですみそう! あとでなんかお礼すんね!」

 大袈裟に手を合わせて感謝を表す四方田くんに、笑って「いいよ」と言って。「次の授業の、確認したいから……席、戻らない?」と文月くんに促されるまま、席に戻った。遠目から見たときには、四方田くんはすでにチョコを食べていたようだった。かなりお腹が空いていたらしい。

「文月くんもお菓子持ってたんだね」

「……うん。……田山くん、いろんな人に好かれる、から。あのままだと、田山くんが取られちゃう気が、して……」

「ええ? まさか」

 初めての友人だからだろう。文月くんは斜め上の危機感を覚えていたらしい。いろんな人に好かれる──というのは、ここ最近のことを思えば、確かにそう、かもしれない。
 ほんの少し浮かんだ真剣な色に、笑って口を開く。

「大丈夫だよ。文月くんが大事な人ってのは変わらないから」

「…………ふふ、ありがとう……」

 頬を緩ませる。ほんのりと朱く色づいていて、そのいじらしさにまた笑った。俺の菓子に血液を入れたこともあったが──あれは一時の気の迷いだったのだ。健全な関係を築けていることに感謝した。

 そうして──あげたお菓子が功を奏したのだろうか。四方田くんは結局お昼までお腹を鳴らすことはなく、授業を終えたのだった。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

この僕が、いろんな人に詰め寄られまくって困ってます!〜まだ無自覚編〜

小屋瀬
BL
〜まだ無自覚編〜のあらすじ アニメ・漫画ヲタクの主人公、薄井 凌(うすい りょう)と、幼なじみの金持ち息子の悠斗(ゆうと)、ストーカー気質の天才少年の遊佐(ゆさ)。そしていつもだるーんとしてる担任の幸崎(さいざき)teacher。 主にこれらのメンバーで構成される相関図激ヤバ案件のBL物語。 他にも天才遊佐の事が好きな科学者だったり、悠斗Loveの悠斗の実の兄だったりと個性豊かな人達が出てくるよ☆ 〜自覚編〜 のあらすじ(書く予定) アニメ・漫画をこよなく愛し、スポーツ万能、頭も良い、ヲタク男子&陽キャな主人公、薄井 凌(うすい りょう)には、とある悩みがある。 それは、何人かの同性の人たちに好意を寄せられていることに気づいてしまったからである。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 【超重要】 ☆まず、主人公が各キャラからの好意を自覚するまでの間、結構な文字数がかかると思います。(まぁ、「自覚する前」ということを踏まえて呼んでくだせぇ) また、自覚した後、今まで通りの頻度で物語を書くかどうかは気分次第です。(だって書くの疲れるんだもん) ですので、それでもいいよって方や、気長に待つよって方、どうぞどうぞ、読んでってくだせぇな! (まぁ「長編」設定してますもん。) ・女性キャラが出てくることがありますが、主人公との恋愛には発展しません。 ・突然そういうシーンが出てくることがあります。ご了承ください。 ・気分にもよりますが、3日に1回は新しい話を更新します(3日以内に投稿されない場合もあります。まぁ、そこは善処します。(その時はまた近況ボード等でお知らせすると思います。))。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

処理中です...