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同化型⑨
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「……クッキー食べる?」
「っあはは、ううん! ……いつもの空腹とは、違う感じなんだよね」
向けられた視線。その言葉の真意が上手く汲み取れず、首を傾げる。
「なんかさ。この前、直くんの指舐めちゃったじゃん」
この前──彼に言われ、思い出した。お菓子を食べさせて欲しいとねだられたときのことだ。衝撃的だったその出来事は、今でも容易に思い出せる。
……どうして、今その話を持ち出してきたのだろう。黙って言葉の続きを待った。
「あのとき──変かもだけどさ。すごく、美味くて。腹が膨れた感じがしたんだよね」
向けられた目は僅かに細められる。ぞく、と。得体の知れない恐怖が身を竦ませた。
静かな空間に響く時計の秒針の音が、嫌に耳につく。俺の沈黙が際立つように。何故か嫌な予感を知らせる心臓の音は、彼に聞こえてしまうのではないかと思うほど大きく。体全体に振動が伝わるほど。
浮かぶ、明るい笑顔。いつもと同じはずなのに、何かが決定的に違っている。この椅子から立ち上がって逃げた方が良いと頭ではわかっている。だけど、動けない。
──ねえ、直くん。
無邪気さの滲む声で、俺を呼んで。
「直くんの他のところって、どんな味なんだろね。オレ、すげー気になんの!」
『いっぺん残らず食べさせて』
突然。脳内で、とある少女のセリフがリピートされる。疑いようもなく、やんぱらの一場面だ。記憶が間違っていなければ──確か、彼女の右手では凶悪な刃物がぎらついていた。背筋が凍る。ここは喫茶店で。包丁だって、当然あるわけで。
もつれそうな舌を何とか動かして、言葉を紡ぐ。
「……俺のこと、食うの……?」
「あは、大丈夫! ちょっと齧りたいだけだって!」
何を。齧るって、どんな風に。肉を噛みちぎられる生々しいイメージが頭の中で浮かんで、ひ、と声が漏れた。
「だって食べたら無くなっちゃうじゃん! そんなの、勿体ねーし」
ヤバい。長期的なスパンで俺を食う気だ。本能的な恐怖が体を固くする。じわり、と視界が滲む。
「あー……でも、喰ったら直くんと一緒になれんだよね。なんかそれも、すっげーイイかも」
勘弁してください。殺さないでください。お願いします。そう、懇願する余裕すらない。鋭い犬歯の覗く口から紡がれる言葉は、どれも酷く恐ろしいものだった。
目の奥が熱くなって、涙が零れ落ちそうになる。
「ごめんね、怖かった? ……でも、涙も美味そう」
ギラついた目は、まるで肉食獣のそれのようで。近づいていく距離に、固く目を瞑って。
「……酷いことはしねーから、大丈夫……」
熱を孕んだ、聞いたことの無い声色。目元の辺りに、彼の唇が近づいていくのがわかる。溶けそうなほど熱い息。唇がとうとう触れそうになるのを肌で感じた瞬間──がらん、と大袈裟に鳴った扉のベルが来客の訪れを告げた。
「っあはは、ううん! ……いつもの空腹とは、違う感じなんだよね」
向けられた視線。その言葉の真意が上手く汲み取れず、首を傾げる。
「なんかさ。この前、直くんの指舐めちゃったじゃん」
この前──彼に言われ、思い出した。お菓子を食べさせて欲しいとねだられたときのことだ。衝撃的だったその出来事は、今でも容易に思い出せる。
……どうして、今その話を持ち出してきたのだろう。黙って言葉の続きを待った。
「あのとき──変かもだけどさ。すごく、美味くて。腹が膨れた感じがしたんだよね」
向けられた目は僅かに細められる。ぞく、と。得体の知れない恐怖が身を竦ませた。
静かな空間に響く時計の秒針の音が、嫌に耳につく。俺の沈黙が際立つように。何故か嫌な予感を知らせる心臓の音は、彼に聞こえてしまうのではないかと思うほど大きく。体全体に振動が伝わるほど。
浮かぶ、明るい笑顔。いつもと同じはずなのに、何かが決定的に違っている。この椅子から立ち上がって逃げた方が良いと頭ではわかっている。だけど、動けない。
──ねえ、直くん。
無邪気さの滲む声で、俺を呼んで。
「直くんの他のところって、どんな味なんだろね。オレ、すげー気になんの!」
『いっぺん残らず食べさせて』
突然。脳内で、とある少女のセリフがリピートされる。疑いようもなく、やんぱらの一場面だ。記憶が間違っていなければ──確か、彼女の右手では凶悪な刃物がぎらついていた。背筋が凍る。ここは喫茶店で。包丁だって、当然あるわけで。
もつれそうな舌を何とか動かして、言葉を紡ぐ。
「……俺のこと、食うの……?」
「あは、大丈夫! ちょっと齧りたいだけだって!」
何を。齧るって、どんな風に。肉を噛みちぎられる生々しいイメージが頭の中で浮かんで、ひ、と声が漏れた。
「だって食べたら無くなっちゃうじゃん! そんなの、勿体ねーし」
ヤバい。長期的なスパンで俺を食う気だ。本能的な恐怖が体を固くする。じわり、と視界が滲む。
「あー……でも、喰ったら直くんと一緒になれんだよね。なんかそれも、すっげーイイかも」
勘弁してください。殺さないでください。お願いします。そう、懇願する余裕すらない。鋭い犬歯の覗く口から紡がれる言葉は、どれも酷く恐ろしいものだった。
目の奥が熱くなって、涙が零れ落ちそうになる。
「ごめんね、怖かった? ……でも、涙も美味そう」
ギラついた目は、まるで肉食獣のそれのようで。近づいていく距離に、固く目を瞑って。
「……酷いことはしねーから、大丈夫……」
熱を孕んだ、聞いたことの無い声色。目元の辺りに、彼の唇が近づいていくのがわかる。溶けそうなほど熱い息。唇がとうとう触れそうになるのを肌で感じた瞬間──がらん、と大袈裟に鳴った扉のベルが来客の訪れを告げた。
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