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監禁型⑦
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「──え?」
思考が停止する。思わず彼の顔を凝視した。すると先輩は眉を下げて、酷く儚げに。同時に、覚悟を決めたような瞳で微笑を浮かべている。
「俺、両親を小さい頃亡くしてさ。ひとり暮らししてるんだ」
「……それは……」
ああ、だからか、と。彼が周りから頼られるほど歳の割に落ち着いて見えるのも、しっかりしていると伝えたときに複雑な感情が綯い交ぜになった表情を浮かべたのも。きっと、ご両親が亡くなって、しっかりするしかなかったからなのだ。
言葉が見つからない。何を言っても、失礼になってしまう気がして。続く沈黙が息苦しいのに、どうしようもない。
「……悪い。湿っぽい話しちまって」
「……そんなの、謝るのはこっちです。無理やり聞き出すようになってしまって……」
「なんだ、無理やり聞き出された覚えは無いぞ?」
からりと笑う。いつも通りの爽やかな笑顔なのに、今は酷く痛々しく映った。無理に笑っているようではないから、尚更。なんだか悲しみに慣れきってしまったように思えて。
「何も無いところで怪我するし、人のことは庇うしでほっとけなくてさ。……でも、いい奴だからか? なんか、言いたくなっちまった」
「いい奴なんかじゃ、ないですけど……」
周りや伍代先輩に比べたら、それこそ俺なんてちっぽけな人間だ。いい人だなんて思ったこともない。自己保身だって考えるのだ、優れた人間からは程遠いだろう。言葉を切れば、先輩は続きを待つように押し黙っていた。
「……先輩は、すごいですね。……なんて言えばいいんだろう、そうならなきゃいけなかったのかも、ですけど……」
俺の周りには、頑張りすぎてしまう人が多すぎる。二階堂くんも、参宮くんも──他の皆も頑張り屋だが、このふたりは特に──家族に関することで悩んで、周りにそれを言わず無理をしてしまう。みんなもう少し、息の抜き方を覚えた方が良い。そうでないと、自分が苦しくなってしまうから。……そうできる環境にはいなかったのかもしれないが。
もっと周りを頼って欲しい。俺のように呑気に生きればいい。俺なんかで良ければ、いつだって話は聞くし。この世界で息がしやすくなる手助けを、小さなことでもしたいのだ。
「なんであれ、すごく頑張ってきたんでしょう。……たまには力を抜いてくださいよ。そうじゃないと、疲れちゃいますから」
目を丸くして。
「…………田山……」
消え入りそうな声で、俺の名を呼び。くしゃりと、今にも泣きそうな顔で眉を下げて笑う。
「……そんなこと言われたの、初めてかもな」
「そうですか? ……みんな、そう思ってるんじゃないかな。先輩、いい人だから」
四方田くんが疲れを表に出さないことを案ずるように。部長として周りに頼られ、信頼を寄せられる先輩を気にしている人はたくさんいるはずだ。例え口にはせずとも。それは間違いなく、彼の人徳のなせるところだろう。
「けど、頼ってくれってよく言うでしょう。それは……なんか兄ができたみたいで嬉しいです、はは」
そうだ。四方田くんを始めとしたチームメイトが、伍代先輩のことをこう呼んでいたっけ。
「ゆう兄、なーんて……」
数秒目が合い、沈黙が落ち──彼が視線を逸らす。……調子に乗りすぎただろうか。はたから見て普通にイタかったか。あの先輩がこんな何も言えなくなるなんて相当だろう。頭を抱えたところで、後悔先に立たずだ。
調子に乗るなと心の中で自分を罵倒していると、ふいに彼が距離を詰めたのがわかった。
「なあ」
落ちてきた声に、顔を上げる。なんだか──やけに、真剣な顔をしている、気がした。
「……今度、俺の家に遊びに来ないか」
思ってもみない誘いに。俺はただ流されるまま、首を縦に振っていたのだった。
思考が停止する。思わず彼の顔を凝視した。すると先輩は眉を下げて、酷く儚げに。同時に、覚悟を決めたような瞳で微笑を浮かべている。
「俺、両親を小さい頃亡くしてさ。ひとり暮らししてるんだ」
「……それは……」
ああ、だからか、と。彼が周りから頼られるほど歳の割に落ち着いて見えるのも、しっかりしていると伝えたときに複雑な感情が綯い交ぜになった表情を浮かべたのも。きっと、ご両親が亡くなって、しっかりするしかなかったからなのだ。
言葉が見つからない。何を言っても、失礼になってしまう気がして。続く沈黙が息苦しいのに、どうしようもない。
「……悪い。湿っぽい話しちまって」
「……そんなの、謝るのはこっちです。無理やり聞き出すようになってしまって……」
「なんだ、無理やり聞き出された覚えは無いぞ?」
からりと笑う。いつも通りの爽やかな笑顔なのに、今は酷く痛々しく映った。無理に笑っているようではないから、尚更。なんだか悲しみに慣れきってしまったように思えて。
「何も無いところで怪我するし、人のことは庇うしでほっとけなくてさ。……でも、いい奴だからか? なんか、言いたくなっちまった」
「いい奴なんかじゃ、ないですけど……」
周りや伍代先輩に比べたら、それこそ俺なんてちっぽけな人間だ。いい人だなんて思ったこともない。自己保身だって考えるのだ、優れた人間からは程遠いだろう。言葉を切れば、先輩は続きを待つように押し黙っていた。
「……先輩は、すごいですね。……なんて言えばいいんだろう、そうならなきゃいけなかったのかも、ですけど……」
俺の周りには、頑張りすぎてしまう人が多すぎる。二階堂くんも、参宮くんも──他の皆も頑張り屋だが、このふたりは特に──家族に関することで悩んで、周りにそれを言わず無理をしてしまう。みんなもう少し、息の抜き方を覚えた方が良い。そうでないと、自分が苦しくなってしまうから。……そうできる環境にはいなかったのかもしれないが。
もっと周りを頼って欲しい。俺のように呑気に生きればいい。俺なんかで良ければ、いつだって話は聞くし。この世界で息がしやすくなる手助けを、小さなことでもしたいのだ。
「なんであれ、すごく頑張ってきたんでしょう。……たまには力を抜いてくださいよ。そうじゃないと、疲れちゃいますから」
目を丸くして。
「…………田山……」
消え入りそうな声で、俺の名を呼び。くしゃりと、今にも泣きそうな顔で眉を下げて笑う。
「……そんなこと言われたの、初めてかもな」
「そうですか? ……みんな、そう思ってるんじゃないかな。先輩、いい人だから」
四方田くんが疲れを表に出さないことを案ずるように。部長として周りに頼られ、信頼を寄せられる先輩を気にしている人はたくさんいるはずだ。例え口にはせずとも。それは間違いなく、彼の人徳のなせるところだろう。
「けど、頼ってくれってよく言うでしょう。それは……なんか兄ができたみたいで嬉しいです、はは」
そうだ。四方田くんを始めとしたチームメイトが、伍代先輩のことをこう呼んでいたっけ。
「ゆう兄、なーんて……」
数秒目が合い、沈黙が落ち──彼が視線を逸らす。……調子に乗りすぎただろうか。はたから見て普通にイタかったか。あの先輩がこんな何も言えなくなるなんて相当だろう。頭を抱えたところで、後悔先に立たずだ。
調子に乗るなと心の中で自分を罵倒していると、ふいに彼が距離を詰めたのがわかった。
「なあ」
落ちてきた声に、顔を上げる。なんだか──やけに、真剣な顔をしている、気がした。
「……今度、俺の家に遊びに来ないか」
思ってもみない誘いに。俺はただ流されるまま、首を縦に振っていたのだった。
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