病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)

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監禁型⑩

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「……ん」

 意識が浮上する。見慣れない薄暗い天井に一瞬思考が止まったが、そういえば先輩の家にお邪魔していたのだとすぐに思い出した。ずいぶん寝ていたような気がする。彼の家はなんだか居心地が良くて。

 傍には先輩が居て、微笑ましいものを見る目で俺を見下ろしていた。いつから見られていたのだろう。気恥しさとともに、上体を起こし──じゃら、と金属が擦れるような音が聞こえた。

 ……なんだ、今の音。それと、右足首を硬いものが覆っているような、強烈な違和感は。恐る恐る視線を向けると──無機質な鎖が繋がっていて。囚人の動きを制限するような足錠がついていた。

 現状が理解できず、先輩の顔を見上げると──安堵させるように柔らかく微笑んで、彼は口を開いた。

「大丈夫だ。俺がここで一生面倒見てやるから──好きなだけ甘えていいぞ」

 なんて?

 今度こそ思考が停止する。一生面倒を見る、と言ったのか。……ここで? 足首を繋がれたまま?

 そんなの、俺がゲームでプレイしていたヤンデレと同じじゃないか。
 身動ぎをする度、不穏な金属音が耳に入る。場にそぐわぬほど優しい顔の先輩が、無骨な手で俺の足に手を置いた。

「ああ……そうだ。頼むから逃げ出そうとはしないでくれ。お前の脚を折りたくはない」

 しかも逃げたら傷つける系のヤンデレだ。タチが悪すぎるだろ。

 手は封じられていないようだが──ポケットを漁ってもスマホが見当たらない。「悪いな、預かってるよ」考えを読んだのか、先輩がそう言う。

「見返りは要らない。ただ、ここに居てくれ。お前が居るだけでいいんだ」

 だって、そんなの。俺にも生活があるのだ。家族だって、友人だっている。やらなくてはいけないこともある。閉じ込められるわけにはいかない。

「家族は……学校、とかは……」

「……もうここから出ないんだから、関係ないだろ?」

 口もとは微笑みの形を保ったまま、幼い子どもを言い聞かせるように彼が言う。関係ないことはないだろう。

「ええ……? 困りますよ。親が学費払ってくれてるのに勿体ないじゃないすか」

 眉を寄せて言えば、打って変わって彼はぽかんとした表情を浮かべて。

「……え、そこなのか?」

「大事でしょ!」

 大事すぎる。そもそも親も納得しないだろう。……ここへ閉じ込めて、失踪したという扱いにするのかもしれないが。
 反論すると、彼は少しだけ気まずそうに口を開く。

「いや、まあ……親からの支援を無駄にするのは、確かにあれなんだが……」

 ふと気づく。彼は、生い立ちのせいもあってか──両親に関連する言葉に弱いのではないだろうか。僥倖だ、このまま行けば押し切れるかもしれない。
 今までのヤンデレと比べればずっと説得しやすかった。こちらの話も聞かずに問答無用で閉じ込めるタイプでもないようだし、良心的だ。……人を閉じ込めるのに良心的もなにもあったものではないような気もするが。

「でしょう。だから、ここから出して──」

 言った瞬間、顔の横に風圧を感じた。

「絶対に駄目だ」

 どん、と頭のすぐ横で鈍い音がした。肌が痺れる。壁を強く叩いた彼に威圧される。太い腕には力がこもり、血管が浮きでている。
 見たことのない、表情だった。地を這うような低い声に、心臓が大きく跳ねる。


「また、目の前から居なくなるのは嫌だ」


 だが──酷く、切実な声色で。その言葉が、いやに胸に引っかかったのだ。

「……また、って……」

 震える声で、問いかける。先輩は眉根を寄せ、顔を顰めたまま。懊悩を吐露するように言葉を紡いでいく。

「……両親は、俺を庇って事故で死んだ。──お前が、誰かを庇っていなくなったら、俺は……」

 言葉が途切れる。嫌な想像をしてしまったのか、唇はわなわなと震えていて。俺を見ているのに、どこか遠くを見つめているようだった。これは──まず、彼を落ち着けないと駄目だ。軽くパニック状態に陥ってしまっている。

「…………それで、閉じ込めるんですか?」

 問いかけると、は、と息を飲んだ彼が俺の顔を見つめる。ようやく目が合った。

「ああ」

「俺の世話をしてくれるんですか」

「もちろん。好きに甘えてくれ」

「いや──」

 ひとつ息を吸って。からからに乾いた喉で唾を飲み込み、真っ直ぐ彼の顔を見据えた。

「普通は先輩が甘えるべきでしょ。いつも皆から頼られてるんだから」

「……ん?」

 数秒落ちた沈黙。理解できないといったような声色。彼の頭の上に、疑問符が見えるようだった。
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