病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)

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監視型⑧

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「え? ……え、本当に、え?」

 頭が上手く回らない。何を言うべきなのだろう。言葉が何も見つからない。そもそも──俺は夢を見ているのか?
 だって、あの作者がまさか俺と同じ高校生で。しかも同じ高校に通っていて。さらには──目の前の生徒だなんて。現実にしては、上手くできすぎているじゃないか。

「あれ、信じられない? なら後で配信する予定のストーリーとか、次のヤンデレがどんな子か教えようか、次はおさ──」

「しなくていいですやめてください!!」

 危ない。止めなければ楽しみが全部台無しになるところだった。
 声を荒げれば、彼は笑って「じゃあやめる」と言う。口ぶりからして、本気だったようだ。

「……誰かと一緒に作ってるんですか?」

 名義はひとりだったが──誰かと組んでいるのだろうか。聞けば彼は首を横に振る。

「いや? 単純なノベルゲーだからね。イラストとストーリーさえできてりゃ、ざっくりとしたものは作れる」

 ひとりであのゲームを? ……天才だ。美麗なカラーイラストも、魅力的なキャラたちも、奥の深いストーリーも──全部彼の手でできているのか。
 言葉が出てこない。あんぐりと開いた口は塞がらなかった。

「ゲーム性なんてもんはほぼ無いけど、まあ。オレみたいなやつが作る分には楽だね」

 自然と手を組んでいた。神様を拝むように──いや、ようにではない。実際に神様を拝んでいるのだ。

「……先生……いや、神様……」

「わあ。拝まないでよ。普通に呼んで欲しいし」

 そうは言うけれど。本当に俺にとっての神様のような人なのだ。やんぱらは自分のようなヤンデレ好きにとっての光だ。幅広い需要を余すことなく満たしてくれる貴重な栄養源なのだから。
 シナリオも書いているのなら、文芸部に入っているのも納得できる。文章を書くのも得意なのだろう。そういえば、確かにやんぱらのクレジットでは製作者はひとりだけのようだった。

「思ってたよりキミ、ガチのオタクだねえ」

 返す言葉は無い。組んだ手は外し、緊張で固くなる声を何とか絞り出した。

「……まさか、作者様……さん、と関われるとは思いませんでした」

 視線をうろつかせて言えば、小さく笑いを漏らしてから彼は口を開いた。

「それならオレも、キミみたいな子と関われると思わなかったよ」

「……俺みたいな子?」

 首を傾げる。言葉の意味がよくわからない。俺なんて特筆すべき点もない、ただの地味で平凡な男だ。そういう自負がある。……悲しいことだが。

「うーん、ほら。やんぱらオタクの優しい後輩ってこと」

「……優しくはないですけど」

「お友達庇って倉庫で怪我したんでしょ。いい子だね」

 目を細めて笑いかけられる。そういえば伍代先輩も、俺が救急車で運ばれたことを噂で聞いたと言っていた。あのときは、自然と体が動いていた。立派な考えのもとで動いたわけでもない。……そりゃあ、友達が怪我をしそうだったら、代わりになりたい、とは思うけれど。伍代先輩は、そういうところに複雑な感情を覚えたわけだし。
 ぐるぐると思考が回る。だけど。褒められたことは──素直に、嬉しい。

「いや、そんな……」

「謙虚で偉い。甘いものもあげちゃう、好きでしょ」

「え、ありがとうございます」

 ポケットから取り出した小さなチョコレートを、いくつか手のひらに落とされた。
 口に運べば、優しい甘みがじわりと広がった。彼だって、優しい人だ。それに、すごい人。

「やんぱらは、俺の生きがいみたいなものなんです。……本当に、ありがとうございます」

「……好きになってくれる人がいるから、世の中に発信できるんだよ」

 感慨深そうに、「こちらこそありがとう」と言われる。……なんだか照れくさい空気の中、互いの顔を見合わせて笑った。

 結局その日は気恥しさからか、語りもそこそこに──帰路へと就いたのだった。

 ***

 それから──陸奥先輩と会う頻度が、やたらと増えた。会おうと約束することもそうだが、偶然校舎内で会うことも。下手をすれば、ゲームセンターなんかにひとりで寄り道したときすら。

 ゆっくりとだが、確実に。違和感は芽生え始めていた。
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