病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)

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「ま、進学だよなー」

 翔がペンをくるくると回しながら言う。

「だね。一応ウチ進学校だし」

 文月くんと違って、特段したい仕事も決まっていない。そうなれば、進学が安牌だろう。それと──もう少しだけ、このモラトリアムを満喫していたいという邪な気持ちも少し。

「大学どこ行くか決まってる感じ?」

 聞けば、また宙を見上げて逡巡していた。

「んー……直也は?」

 俺。俺は──専攻したいものも、特段決まってはいない。今は文系のクラスに所属しているから、進むならばそちらの方面だろうが。二階堂くんならば、今のうちからしっかりと自分で考えたうえで行く先を決めていただろう。両親に意見を言えるようにもなっていたようだし、優秀である彼のことだ。行きたいところの目星は大体ついていそうだ。
 強いて言うならば、文学系だろうか。話を書くのは得意でなくとも、読解する国語ならテストは平均点より上の方だし。……その分、理系科目が壊滅的だけれど。なにより、物語を読むのは嫌いではない。むしろ好きな方だ。

 ならば、現段階の目標としては。県内の国立大学に行くこと、だろうか。決して簡単ではないけれど、今から定める目標ならばちょうど良いラインだろう。

「俺は……とりあえず県内の国立大に行こうかな、とは思ってるけど」

「ふーん。なら俺もそこ」

 え。

 躊躇もなく言われたそれに、思わず間抜けな声が口から飛び出していた。

「……もっといいとこ行けるんじゃないの?」

「背伸びしてもついてけなくなるかもしんねーし。丁度いいんじゃね」

 そうは言うが──翔は確か、運動もできるが成績も上位の方だったはずだ。一年の頃から定期テストの度に張り出される、上位三十名には毎回入っていた。だから、彼から教わることも少なくなかったのだ。

 都内にある私立であれば、レベルはぐんと高くなるが──翔が行くところとしては妥当かと思っていた。学部にもよるが、そこと比べると少し物足りないようにも思える。部活でだって好成績をおさめていることだし、指定校推薦を使えば選択肢の幅も広がるのに。

「……てか、俺が行くから翔もそこ行くの?」

「え、ダメ?」

 僅かに目を丸くしている。予想外の指摘だったようだ。

「ダメってわけじゃないけど……大学ってそんなふうに決めるものじゃなくない?」

「いーんだよ、俺は」

 なんでだ。……翔も、何かやりたいことが無いのだろうか。俺と同じように。

 てかさあ、と前置きをして。翔は俺の目をじっと見た。


「ルームシェアしねえ?」


 ルームシェア。翔と共に暮らしながら、大学に通うのか。家賃も折半になるし、家事なんかの細かいところは話し合って決めるとして──メリットは多いかもしれない。勝手知った相手ならば、衝突する可能性は低いだろうし。
 なにより。……かなり、楽しそうだ。

「ああ、いいなあそれ。楽しそう」

 言えば、だろ、と楽しそうな返事が返ってくる。もしかして、ルームシェアしたさに同じ大学を選んだのだろうか──なんて思ってしまうほど、目に見えて上機嫌になった。

「でもルームシェアしたらさあ、彼女とかできても連れて来れないじゃん」

 ネックはそこだろう。互いの都合を確認したとしても──同居人が同じ部屋に恋人を連れ込んでいるのは、なんだか気まずいものがある。

 え、と固い声が落ちる。声を発した張本人は、なんだか驚いたような色を瞳に浮かべてこちらを見ていた。

「なに、作る予定あんの?」

 ……そんなに俺が彼女を作るようには見えないか。……いや、作れるようには見えないのか。そりゃ、女の子と付き合ったことは一度もないけれど。

「……あるって言いたいけど。できないと思うし──ていうか翔の話だよ。モテるから絶対彼女できんじゃん」

 今居ないのが不思議なくらいだ。こちらのクラスに来る度、女子がちらちらとこちらを見ていることに気づかないわけがない。集めている視線の数は参宮くんといい勝負だ。
 サッカー部のエース、しかも文武両道のイケメン。惹かれない女子の方が少ないというものだろう。男ですら惚れてしまうくらいには。

「作んねーよ。余計な心配すんな」

 ひら、と手を振って翔は笑う。その顔には、不思議と──安堵の色が浮かんだように思えた。
 余計な心配ではないと思うけれど。それ以上追及することもできず、第一志望欄に俺たちは同じ大学名を書く。

「……っはは。大学でもよろしくな」

 気が早い。嬉しそうに笑う翔に、思わずつられて笑ってしまった。

「俺だけ落ちるとか有り得そうだけどな」

「そんなんさせねーから。勉強みっちり教えてやるよ」

「……お手柔らかに頼むわ」

 それから、第二、第三と欄を埋める度に考えを巡らせたが──結局、俺たちの進路希望は全く同じものになり。
 卒業後も共に居られることに、少しの安堵を覚えつつ──


 ──こちらに意見を合わせてくるような幼馴染の姿に、小さな疑問が芽生えた。
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