病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)

文字の大きさ
66 / 68

??型⑥

しおりを挟む
 呆気にとられたような顔で翔は俺を見下ろす。何を言っているんだこいつは、とでも言うように。
 だけど、そう考えてしまうのは仕方ないだろう。

「……翔が見てないと心配になるんだろ」

 言えば、「……ああ」と、小さい返事が返ってくる。

「それだけじゃない。付き合ってそばにいないとダメだと思うくらい、しっかりしてないってことなんだろ」

「……お前……」

 呆然とした様子で、幼馴染は目を丸くしていた。
 きっぱり断りきらなかったから、癖の強い人物たちである友人らに変な望みを持たせてしまっている。もし、そうならば──それは俺の身から出た錆だ。わざわざ翔を巻き込むことではないだろう。

「そんな理由で恋人になんてなるもんじゃない」

「……また、綺麗事で跳ね除けんのか」

 肩を、強い力で押さえられる。痛みに小さく呻くが、翔の耳には届いていないようで。
 険しい目つき。寄った眉根。激情を物語っている。何も言えず、見上げていれば。

「なら教えてやる。昔っからお前のことが好きなんだよ、こっちは!」

 吠えるように叫ばれた告白に──まるで時が止まったようだった。

「俺がサッカー選手になるって昔言ったのも、お前が褒めてくれたからだ。全部全部、直也が好きだからやってんだよ!」

 俺。俺が、好きだから?
 まさか、そんな。あの翔が? ありえない。信じられない。だって、親友だとばかり思っていた、のに。
 心を見透かすように。翔は、目付きをそのままに口を開く。

「……自分に好意を向けられるのを、なんでそう信じられねーんだよ」

「……だって俺、地味だし、特に好かれるところないし……」

「良い奴じゃん。……自覚はねーんだろうけど、お前の言葉とか行動に救われてんだよ」

 柔らかい声は、心の底からそう思っているようで。真に迫るそれに──頭はパニックに陥った。
 じゃあ、本当に? 昔から、俺のことを? いつから、そんなに熱の篭った視線を向けるようになったのだろう。疑問は尽きず、解決することもなく。

 どうすればいい。俺は、なんと返せば正解なんだ?

「……なあ。それで、返事は?」

「わかん、ない、いきなり……」

 わからない。あまりにも、全てが突然で。

 ……文月くんは、俺を神様みたいだと言っていたけれど。今になってわかる。俺は──醜い人間だ。
 だって。翔の気持ちが大切なこともわかっている、のに。なのに。翔との関係性が変わることが、酷く恐ろしいもののように思えてしまって。……だから、友だちのままでいたいと、思ってしまったのだから。

 だからって。生半可な気持ちのまま、付き合うのだって、失礼で。

「……でも、おれ、残酷かもしれないけど……だけど、友だちで居たいんだよ……最低なのは、わかってる、けど……」

 目の奥に熱がじんわりと集まってくる。ああもう、最悪だ。こういう風に生ぬるい答えしか出せないから、翔は残酷だと言ったのに。それなのに。自分はきっと、救いようがない愚か者なのだ。悪いのは自分なのに、泣きそうになってしまうのが嫌になる。どこまでも被害者面しかできないのか。



 ──でも。覚悟は、しなければいけない。



「……ごめん。翔とは、付き合えない。……縁も、切ってくれても、っ、いい、から……」

 言葉すら、まともに繋げなくなる。嗚咽を噛み殺そうとすれば、余計に激情は苛烈さを増した。

 部屋に満ちるのは、情けない噛み殺した泣き声。ああ畜生、俺が悪いのに。どうして涙が出るんだ。
 顔を覆う。みっともない顔を見られたくなくて。

 暫くそうして、どれほど経っただろう。長いようにも思えたし、もしかしたらずっと短い時間だったのかもしれない。不意に、ああ、と翔が声を漏らした。なにか──強い感情を孕んだ、衝動がそのまま飛び出てしまったかのように。

「……はは、そんな顔できんだ。ああもう、本当に……」

 言葉を切ったあと──なにか、呟く。聞き取れはしなかったが、短い言葉だったのはわかった。
 それを聞き返す余裕もなかった。すると、翔はというと──

「っはは、わり。からかいすぎたわ」

 ぱっと、手を離される。


 ………………は?


「……っ、はあ!? おま、からかいすぎたって……!」

「だって反応おもしれーんだもん。お前そうやってなんでも真剣に受け止めすぎるから付け込まれるんじゃね?」

「受け止めるに決まってんだろ! 俺がどんだけ……!!」

「あーもうごめん、泣くなよ。悪かったっての」

 こっちがどれだけビビって、どれだけ葛藤したと思ってるんだ! ……変に翻弄されてしまった。
 鼻をすする間抜けな音が響く。今、自分は相当酷い顔をしているのだろう。翔もそんな顔と言っていたし。最悪だ。

 ──ああ、だけど。

 ため息を堪えていると。上から退いた翔が、体を起こした俺へ、念を押すように。

「ルームシェアは考えておけよ。本気だからな」

 俺を好きだと言ったときと、同じ。真剣な顔に──言葉に詰まってしまう。

「……うん」

 ばくばく鳴る胸と、顔に集まった熱は意識しないように。結局その日は、何事も無かったかのように遊んだのだった。

 しかし。自宅に帰ってもなお──幼馴染の真剣な顔は、頭から離れることはなかった。



 ……そういえば、俺が泣いているとき。僅かに指の隙間から見えた翔の表情は──なんだか、見たことのないものだった、ような気がする。言い表すのなら、……恍惚、のような? ……いいや、まさか。涙で滲んでいたとはいえ、見間違えも甚だしいだろう。


 なんだかどっと疲れてしまって。その日の夜は、早々に眠りについたのだった。

 ***




「あんなどろどろした感情を向けられて、ただの”親友“とか”お友達“でいられると思ってたんだもんなあ。今までもそう。距離感を学んでいけばいいやー、って。本当に傲慢で甘くて、無知の考え無しだよ。昔っからそうだ」

 はは、と笑いを漏らして。

「……でも、あんなふうに決断もできんだ……。俺が、引き出したんだ。ああ……ぐしゃぐしゃの泣き顔も、ころっと信じちまうとこも、全部全部──みっともなくて、情けなくて、かわいい」


 あんな苦しい嘘を信じたのも、恐らくは──まだ友人でいられることに縋りたかったのだ。幼馴染だからわかる。本当である可能性が限りなく低くとも、関係性を続けたくて。

 青年は、顔を覆った。歪む口元を隠すように。


「俺が、ずっとそばにいてやらないとなあ。まだ恋人にはなれないなら、じっくり、もっと時間をかけて……依存させて」
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

この僕が、いろんな人に詰め寄られまくって困ってます!〜まだ無自覚編〜

小屋瀬
BL
〜まだ無自覚編〜のあらすじ アニメ・漫画ヲタクの主人公、薄井 凌(うすい りょう)と、幼なじみの金持ち息子の悠斗(ゆうと)、ストーカー気質の天才少年の遊佐(ゆさ)。そしていつもだるーんとしてる担任の幸崎(さいざき)teacher。 主にこれらのメンバーで構成される相関図激ヤバ案件のBL物語。 他にも天才遊佐の事が好きな科学者だったり、悠斗Loveの悠斗の実の兄だったりと個性豊かな人達が出てくるよ☆ 〜自覚編〜 のあらすじ(書く予定) アニメ・漫画をこよなく愛し、スポーツ万能、頭も良い、ヲタク男子&陽キャな主人公、薄井 凌(うすい りょう)には、とある悩みがある。 それは、何人かの同性の人たちに好意を寄せられていることに気づいてしまったからである。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 【超重要】 ☆まず、主人公が各キャラからの好意を自覚するまでの間、結構な文字数がかかると思います。(まぁ、「自覚する前」ということを踏まえて呼んでくだせぇ) また、自覚した後、今まで通りの頻度で物語を書くかどうかは気分次第です。(だって書くの疲れるんだもん) ですので、それでもいいよって方や、気長に待つよって方、どうぞどうぞ、読んでってくだせぇな! (まぁ「長編」設定してますもん。) ・女性キャラが出てくることがありますが、主人公との恋愛には発展しません。 ・突然そういうシーンが出てくることがあります。ご了承ください。 ・気分にもよりますが、3日に1回は新しい話を更新します(3日以内に投稿されない場合もあります。まぁ、そこは善処します。(その時はまた近況ボード等でお知らせすると思います。))。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

処理中です...