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しおりを挟むあの悪夢の日から一週間が経った頃、またしても白露先輩が良い笑顔で近付いてきた。
「さあさあ、各島クン。またキミの出番だよ」
「嫌ですよ。だって白露先輩、この前僕のことを助けてくれなかったですよね」
「何の話だい?」
白露先輩は本当に何の話か思い至っていないようで、不思議そうな顔で首を傾げている。
僕は大変な目に遭ったというのに、あんまりだ。
「何の話って、生徒会室で僕が先輩にいやらしいことをしたって誤解されたときの話ですよ!」
「ああ、私がキミに露出趣味を暴露した日のことだね」
やっと僕の話に思い至ったらしい白露先輩が、ぽんと手を叩いた。
「そうです、その日のことですよ! 白露先輩が露出しようとしたところを僕が隠した、ってみんなに言ってくれなかったじゃないですか!」
そのせいで僕はあらぬ疑いを抱かれてしまった。
僕もあのときにもっと強く否定をすればよかったのだけど、精も根も尽き果てていてなあなあにしてしまった。
そのせいで今なお僕は、生徒会役員のみんなに若干避けられているのだ。
「助けてくれなかったというのは心外だね。零した水を拭いただけだと、みんなに説明をしてあげただろう?」
「誰も納得してなかったですよ!? それはそうですよね。僕はタオルを持ってなかったんですから!」
両手でスカートを握っていたのに、スカートを拭いていたというのは無理のある嘘だ。そもそも水なんてかかっていなかったし。
副会長の先輩も書記の先輩も、ちっとも白露先輩の嘘を信じてはいないようだった。
「ふむ。キミは私に『各島クンは私の露出を止めようとしていた』と言ってほしかったということかな?」
「その通りです」
「うーむ。それは悪手ではないかな」
「悪手? どうしてですか」
白露さんは自身の胸に手を当てて、優雅に微笑んだ。
「清廉潔白な私が露出狂だと、誰が信じると思う?」
「それは、ええと……」
誰も信じないと思う。
僕だって白露先輩に露出趣味をカミングアウトされたとき、最初は信じられなかった。
そのあとノーパンだのスケスケパンツだのと連呼され、実際にスカートをめくられて、やっと信じることが出来たのだ。
「ほら、信じないだろう? 私があの場で露出趣味があるなんて言ったら、私がキミに無理やり変な嘘を吐かされている、と思われたかもしれなかったのさ。キミにとってもそっちの方がマイナスだろう?」
「白露先輩が露出してたのは事実なのに!?」
「時として事実は事実と認めてもらえないものなのだよ」
悔しいけど、白露先輩の言う通りだ。
それにしても、露出していたのは白露先輩なのに、どうして僕ばかりが損をする結果になるのだろう。
普段の行ないの違いだろうか。
「そんなことより。出番だよ、各島クン」
悲しい気持ちになっている僕に、白露先輩が明るい声をかけた。
「出番って、またしょうもないことをしようとしてるんでしょう」
「当然だとも」
堂々と肯定されてしまった。
もう帰りたい。
しかし僕が帰りたいオーラを全力で出してみても、白露先輩は僕のオーラなどどこ吹く風で話を続けた。
「私は金曜の全校集会で、露出をしようと思う!!!」
「はあ」
「反応が薄いよ、各島クン。どうかしたのかい?」
「何と言いますか、もう関わりたくないという気持ちが先行してしまって……」
真剣に話を聞こうという気が、まるで起こらないのだ。
白露先輩と真面目にやりとりをするよりは今日の夕飯を予想している方が、有意義な時間の使い方の気がしてくるほどだ。
「もっとやる気を出したまえよ。キミは私の右腕だろう?」
「露出狂としての右腕は一度も認めてませんけどね!?」
「ではさっそく他の生徒会役員が来る前に作戦内容を伝達する」
「やるって言ってないんですけど!?」
白露先輩が強引に話を進めてきた。
僕も負けじと全力で拒否の姿勢を見せる。
「この前あんな目に遭ったんですから、絶対にやりませんよ!?」
「キミがやらなければ全校生徒がトラウマを抱えることになるのだぞ」
「人質を取った立てこもり犯みたいなことを言わないでくれません!?」
全校生徒を盾に使うなんて卑怯だ。
白露先輩は清廉潔白な高嶺の花ではなく、卑怯で卑劣な露出狂だ。
白露先輩に惚れていた過去の自分をぶん殴りたい。
「全校生徒ということは、キミの友人もトラウマを抱えることになるんだぞ。いいのかい?」
「よくはないですけど、見られて一番困るのは白露先輩でしょう!?」
「そうなのだよ。だからこそ興奮する。見られたら私の人生は終わってしまうという緊張感が、私を昂らせる!!」
「変態の心境を元気よく語らないでください!」
ああ、僕はどうしてこの人と関わってしまったのだろう。
それもこれも白露先輩の外見に騙されたせいだ。
人間は外見ではなく中身だという言葉を、胸に刻み込もう。
「とにもかくにも。私は体育館のステージ上にノーパンで登壇する。これがどういうことか分かるかな?」
「……階段をのぼる際に下からスカートの中が見えますね」
「さすがだよ、各島クン! 私の右腕なだけあるね!」
白露先輩が僕のことを賞賛しながら拍手をした。
こんなことで褒められてもまったく嬉しくない。
「もう右腕云々にはツッコみませんけど。白露先輩は僕に何をして欲しいんですか」
半分ヤケになった僕が話の先を促すと、白露先輩はうっとりしながら述べた。
「私が階段をのぼる際に、全校生徒の気を逸らしてもらいたい」
やはり白露先輩はスカートの下に短パンを履かないつもりのようだ。
パンツは……さすがに履いてくれると願いたい。
というか。
「そんなこと無理に決まってるじゃないですか!」
全校生徒の気を逸らすことなど無理に等しい。
僕ごときがいきなり叫んだところで、気にしない人だっているだろう。
「無理ではないとも。工夫次第でどうとでもなるはずさ」
しかし白露先輩はそう思ってはいないらしく、出来て当たり前と言わんばかりの態度で話している。
もしかすると白露先輩くらいカリスマ性のある人なら、全校生徒の注目を集めることが可能なのかもしれない。
だけど、どう考えても僕には無理だ。
「僕は人気者とは正反対の、地味で素朴な人間なんです」
白露先輩は僕のことを上から下まで眺めた後、しょんぼりと肩を落とした。
「むう。いきなりハードルを高くし過ぎたか」
そうやってガッカリされると複雑な心境なのだけど。
だからと言って僕に何が出来るわけでもないけど。
「もうこの話は終わりでいいですか? 僕を白露さんの露出に巻き込まないでください」
「でもキミ、私のことが好きだろう?」
「うぐっ」
本人に好意がバレていたというのは少し気恥ずかしい。
とはいえ、それも過去の話だ。
「好きだった、です。白露先輩が露出狂だと知って、百年の恋も冷めました」
「狭量だなあ。愛する相手の性癖くらい、まるっと包み込んであげないと恋人は出来ないよ?」
そうかもしれないけど、露出狂の性癖を包み込む器量なんて、いち高校生が持っているわけがない。
正直なところ完全に恋が冷めたわけではないのだけど、白露先輩が僕の手に負えない相手であることは理解した。
少なくとも恋人になるのは無理だ。
「露出趣味に付き合わされるくらいなら、一人でいた方がずっとマシです!」
「仕方ない。全校集会での露出は一旦やめておこう」
「一旦じゃなくて、絶対にやめてくださいね!?」
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