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3.髪を切るって、なに?
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ある日の放課後。僕は校庭の片隅で、クラスの友達・陸(りく)と遊んでいた。
陸は、僕が小学校に入ってすぐできた親友だ。元気で明るくて、誰とでも仲良くなれる性格。でも最近、ちょっと様子がおかしい。
「陸、最近あんまりしゃべらなくなったよな」
と、別の友達が言っていた。たしかに、前より元気がない気がする。
僕は思いきって、聞いてみることにした。
「陸、なんかあったの?」
すると陸は、少しだけ困ったような顔をして、黙った。
しばらくして、ぽつりとつぶやいた。
「……髪、さ。変って言われたんだ」
「髪?」
「前に自分でちょっと切ってみたんだよ。でも、後ろが変になっちゃって……。それから、女子に“ヘンな頭”って笑われた。でも僕の家お金なくて、美容院行けなくて…。僕ずっとこのままなのかな…。」
陸は帽子をかぶっていた。その帽子を、そっと取ってみると——たしかに、後ろの髪がガタガタに切られていた。本人は真剣だったんだろうけど、笑われても仕方ないくらいの不揃いさだった。
「……気にしてたんだな」
僕は少し胸が痛くなった。
髪型で笑われるなんて、くだらない。けど、それで傷つく気持ちは、よくわかる。
僕は思わず、声に出していた。
「陸、僕が切ってあげようか?」
「えっ?」
「僕、ママの美容室でずっと見てきたし、練習もしてる。ちゃんと整えてあげるよ」
陸は、しばらく考えていたけど、ゆっくりうなずいた。
「……お願いしても、いいの…?」
その日の夕方、僕たちは「Salon Lino」の裏の練習スペースにいた。ママに事情を話すと、「ちゃんと責任もってやるのよ」とだけ言って、僕にハサミを預けてくれた。
陸はちょっと緊張してるみたいだった。
「じゃあ、始めるよ」
僕は息を整えて、ハサミを持った。
今回は、本物の髪。僕の手の中で、陸の大切な気持ちがかかっている。
慎重に、でも迷わずに。コームで髪をすきながら、左右のバランスを確認する。切りすぎないように、でも形がきれいに整うように。
——シャキン、シャキン。
僕は、陸の“笑顔”を思い浮かべながら、ハサミを動かした。
20分ほどで、カットは終わった。
「……どう?」
陸が鏡を見た瞬間、目を見開いて、小さく笑った。
「すごい。かっこよくなってる…。なんか、自分じゃないみたい」
「自分、だよ。でも“ちょっといい感じの”自分」
陸は、ハッとしたように僕を見て、ぽつりと言った。
「髪って、見た目だけじゃないんだな。……気持ちも変わるんだ」
その言葉を聞いた瞬間、僕の中で、何かがひらけた。
髪を切るって、ただの作業じゃないんだ。
その人の心を軽くしたり、勇気をくれたり、笑顔をつくることができる。
たった数本の毛でも、切り方ひとつで、世界が変わる。
——僕は、この世界がもっと知りたくなった。
学校ではまだ「変わってる」と言われることもある。「小学生なのに美容師ごっこ?」と笑う人もいる。
でも僕は、胸を張って言える。
髪を切るって、心を切りそろえることだ。
海斗の手は、すこしずつ“魔法使いの手”に近づいていた。
陸は、僕が小学校に入ってすぐできた親友だ。元気で明るくて、誰とでも仲良くなれる性格。でも最近、ちょっと様子がおかしい。
「陸、最近あんまりしゃべらなくなったよな」
と、別の友達が言っていた。たしかに、前より元気がない気がする。
僕は思いきって、聞いてみることにした。
「陸、なんかあったの?」
すると陸は、少しだけ困ったような顔をして、黙った。
しばらくして、ぽつりとつぶやいた。
「……髪、さ。変って言われたんだ」
「髪?」
「前に自分でちょっと切ってみたんだよ。でも、後ろが変になっちゃって……。それから、女子に“ヘンな頭”って笑われた。でも僕の家お金なくて、美容院行けなくて…。僕ずっとこのままなのかな…。」
陸は帽子をかぶっていた。その帽子を、そっと取ってみると——たしかに、後ろの髪がガタガタに切られていた。本人は真剣だったんだろうけど、笑われても仕方ないくらいの不揃いさだった。
「……気にしてたんだな」
僕は少し胸が痛くなった。
髪型で笑われるなんて、くだらない。けど、それで傷つく気持ちは、よくわかる。
僕は思わず、声に出していた。
「陸、僕が切ってあげようか?」
「えっ?」
「僕、ママの美容室でずっと見てきたし、練習もしてる。ちゃんと整えてあげるよ」
陸は、しばらく考えていたけど、ゆっくりうなずいた。
「……お願いしても、いいの…?」
その日の夕方、僕たちは「Salon Lino」の裏の練習スペースにいた。ママに事情を話すと、「ちゃんと責任もってやるのよ」とだけ言って、僕にハサミを預けてくれた。
陸はちょっと緊張してるみたいだった。
「じゃあ、始めるよ」
僕は息を整えて、ハサミを持った。
今回は、本物の髪。僕の手の中で、陸の大切な気持ちがかかっている。
慎重に、でも迷わずに。コームで髪をすきながら、左右のバランスを確認する。切りすぎないように、でも形がきれいに整うように。
——シャキン、シャキン。
僕は、陸の“笑顔”を思い浮かべながら、ハサミを動かした。
20分ほどで、カットは終わった。
「……どう?」
陸が鏡を見た瞬間、目を見開いて、小さく笑った。
「すごい。かっこよくなってる…。なんか、自分じゃないみたい」
「自分、だよ。でも“ちょっといい感じの”自分」
陸は、ハッとしたように僕を見て、ぽつりと言った。
「髪って、見た目だけじゃないんだな。……気持ちも変わるんだ」
その言葉を聞いた瞬間、僕の中で、何かがひらけた。
髪を切るって、ただの作業じゃないんだ。
その人の心を軽くしたり、勇気をくれたり、笑顔をつくることができる。
たった数本の毛でも、切り方ひとつで、世界が変わる。
——僕は、この世界がもっと知りたくなった。
学校ではまだ「変わってる」と言われることもある。「小学生なのに美容師ごっこ?」と笑う人もいる。
でも僕は、胸を張って言える。
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海斗の手は、すこしずつ“魔法使いの手”に近づいていた。
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