7 / 120
2.開戦と青き慧眼
蒼き軍神、名を刻む
しおりを挟む
昭和十六年十二月十五日。
帝国議会・大講堂に、陸海軍合同の「戦況説明会」が設けられた。
これは形式上、内閣と議会に向けた軍の報告会であったが、実質的には国の今後の方針を問う“戦略会議”であった。
壇上に現れたのは――
蒼月レイ。十三歳。
帝大少年研究員にして、真珠湾作戦を陰で設計した存在。
白い学生服の少年が、軍服の将官や議員たちの前に立つ様は、まさに異様だった。
⸻
「まず申し上げます」
レイは、用意された原稿を一瞥し、あえて目を通さずに語り始めた。
「今回の奇襲作戦は、我々にとって“第一段階の戦術的勝利”です。
しかし、これを“全面戦争の始まり”と捉え、攻勢を強めれば――我々は過去と同じ過ちを繰り返すことになるでしょう」
場内が静まり返る。
「我が国は過去、三度、軍事的勝利を得ました。
日清戦争――清国に勝ちましたが、列強の三国干渉に屈し、遼東半島を手放しました。
日露戦争――大国ロシアを打ち破ったものの、ポーツマス条約では賠償金を得られず、国内に暴動が起きました。
そして満州事変――勝利し領土を拡大したものの、国際連盟を脱退し、国際的孤立を深めました」
レイは一呼吸置いて、続けた。
「勝利は、国を救うとは限りません。
むしろ、“勝ったと思った瞬間”にこそ、国家は最も誤りやすいのです」
「では何をすればいい?」
中段から議員の声が飛ぶ。
レイは即答した。
「“勝ったように見せつつ、戦わずに終わらせる”――それが、今、我々が選ぶべき道です」
場内が再びざわつく。
「先手で講和を申し込むのか? 弱腰ではないか?」
「アメリカが受ける保証があるのか?」
レイは冷静に手を挙げて場を制した。
「違います。“講和”ではありません。“講和へ誘導する土壌”を育てるのです。
米国では今、参戦の是非をめぐって議論が続いています。
そこへ、我々が『無謀な戦争を望んでいない』という姿勢を情報操作と外交で示せば、彼らの中で“正義”の定義が揺らぎ始めます」
⸻
香取大佐が議場の隅で呟いた。
「彼は……もう軍人ではない。哲学者か、それとも預言者か……」
⸻
その日、新聞各社はその演説の全文を一面で報じた。
『蒼き少年、議会を震わせる』
『13歳の天才が語る、勝利の定義』
『“戦わずして勝つ”という戦略思想』
民衆の間では驚きとともに、レイへの尊敬と畏怖が混ざった感情が広がっていった。
“美しき参謀”――
“蒼き軍神”――
彼の呼称は、メディアと民意によって、神話のように膨らみ始めた。
⸻
だがその陰で、旧陸軍の一部将校たちは歯噛みしていた。
「……あんな子供に、国家の進路を語らせるとは」
「次は議会制民主主義でも導入するつもりか?」
「我ら軍が、“思想家”の掌で踊る日が来るとはな」
彼らは、確かにレイを“敵”と認識し始めていた。
⸻
その夜、レイのもとに一通の手紙が届いた。
差出人は名乗っていなかった。
中には小さな紙に、子どもの文字でこう書かれていた。
「戦争がこわいです。でもレイさんがいれば、未来がある気がします」
レイは、そっと目を閉じ、紙を胸に当てた。
「僕は……この声のために、戦っているんだ」
たった十三歳の少年が、日本の未来を背負い始めた瞬間だった。
帝国議会・大講堂に、陸海軍合同の「戦況説明会」が設けられた。
これは形式上、内閣と議会に向けた軍の報告会であったが、実質的には国の今後の方針を問う“戦略会議”であった。
壇上に現れたのは――
蒼月レイ。十三歳。
帝大少年研究員にして、真珠湾作戦を陰で設計した存在。
白い学生服の少年が、軍服の将官や議員たちの前に立つ様は、まさに異様だった。
⸻
「まず申し上げます」
レイは、用意された原稿を一瞥し、あえて目を通さずに語り始めた。
「今回の奇襲作戦は、我々にとって“第一段階の戦術的勝利”です。
しかし、これを“全面戦争の始まり”と捉え、攻勢を強めれば――我々は過去と同じ過ちを繰り返すことになるでしょう」
場内が静まり返る。
「我が国は過去、三度、軍事的勝利を得ました。
日清戦争――清国に勝ちましたが、列強の三国干渉に屈し、遼東半島を手放しました。
日露戦争――大国ロシアを打ち破ったものの、ポーツマス条約では賠償金を得られず、国内に暴動が起きました。
そして満州事変――勝利し領土を拡大したものの、国際連盟を脱退し、国際的孤立を深めました」
レイは一呼吸置いて、続けた。
「勝利は、国を救うとは限りません。
むしろ、“勝ったと思った瞬間”にこそ、国家は最も誤りやすいのです」
「では何をすればいい?」
中段から議員の声が飛ぶ。
レイは即答した。
「“勝ったように見せつつ、戦わずに終わらせる”――それが、今、我々が選ぶべき道です」
場内が再びざわつく。
「先手で講和を申し込むのか? 弱腰ではないか?」
「アメリカが受ける保証があるのか?」
レイは冷静に手を挙げて場を制した。
「違います。“講和”ではありません。“講和へ誘導する土壌”を育てるのです。
米国では今、参戦の是非をめぐって議論が続いています。
そこへ、我々が『無謀な戦争を望んでいない』という姿勢を情報操作と外交で示せば、彼らの中で“正義”の定義が揺らぎ始めます」
⸻
香取大佐が議場の隅で呟いた。
「彼は……もう軍人ではない。哲学者か、それとも預言者か……」
⸻
その日、新聞各社はその演説の全文を一面で報じた。
『蒼き少年、議会を震わせる』
『13歳の天才が語る、勝利の定義』
『“戦わずして勝つ”という戦略思想』
民衆の間では驚きとともに、レイへの尊敬と畏怖が混ざった感情が広がっていった。
“美しき参謀”――
“蒼き軍神”――
彼の呼称は、メディアと民意によって、神話のように膨らみ始めた。
⸻
だがその陰で、旧陸軍の一部将校たちは歯噛みしていた。
「……あんな子供に、国家の進路を語らせるとは」
「次は議会制民主主義でも導入するつもりか?」
「我ら軍が、“思想家”の掌で踊る日が来るとはな」
彼らは、確かにレイを“敵”と認識し始めていた。
⸻
その夜、レイのもとに一通の手紙が届いた。
差出人は名乗っていなかった。
中には小さな紙に、子どもの文字でこう書かれていた。
「戦争がこわいです。でもレイさんがいれば、未来がある気がします」
レイは、そっと目を閉じ、紙を胸に当てた。
「僕は……この声のために、戦っているんだ」
たった十三歳の少年が、日本の未来を背負い始めた瞬間だった。
120
あなたにおすすめの小説
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。
克全
歴史・時代
西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。
幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。
北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。
清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。
色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。
一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。
印旛沼開拓は成功するのか?
蝦夷開拓は成功するのか?
オロシャとは戦争になるのか?
蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか?
それともオロシャになるのか?
西洋帆船は導入されるのか?
幕府は開国に踏み切れるのか?
アイヌとの関係はどうなるのか?
幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
現在1945年夏まで執筆
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
小沢機動部隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。
名は小沢治三郎。
年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。
ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。
毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。
楽しんで頂ければ幸いです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる